「ルルーシュの手は小さいんだね」

  私が握ったら隠れてしまうよ、と言いながらジノはルルーシュの両手を自分の両手で包んだ。 冷たいルルーシュの手とは対照的にジノの手は暖かい。心地よい暖かさにルルーシュは目を瞑って温度を感じた。 ベッドの上で向かい合うようにして座っている2人、動くたびに白いシーツが波を打つ。 黒のタンクトップとビキニだけの姿のルルーシュと学生服を着崩した状態のジノ。 ルルーシュの学生服は一刻前にジノによって脱がされ、今はベッド横の床に置かれている。

「お前の手が大きいんだよ、それに、暖かい」
「そうか、じゃあ手の冷たいルルーシュのために体温を分けてあげよう」

ぎゅうとルルーシュの手をジノが強く握る。冷たいルルーシュの手がジノの手によって少しずつ温められていく。 痛いほど手を握られルルーシュは苦痛の吐息を洩らしたがジノはそれを楽しむようにルルーシュの手を調べる。 占い師が手相を見る様に掌をじっと見つめ肌に指を滑らせた。

「可愛い手、爪も奇麗な形だ。何か手入れでもしているのか?」
「生憎、女みたいに細かい手入れはしないよ」
「そうか、自然でこれなのか。それは美しい」


感動するように呟いたジノの指が掌から手首へと移る。つうっと感触を味わうようにそのまま腕を上っていく。 くすぐったいようなムズ痒い快楽がルルーシュの脳に伝達された。思わず逃げるように腕を引いたルルーシュを、ジノは自分のほうへと無理やり抱き寄せる。 倒れこむようにしてジノの胸板に寄り掛かる態勢になったルルーシュは、ただぼうっとジノの見上げた。

「どうしてルルーシュはこんなに細いんだ?肌も白い。運動はしないのか?」
「運動は苦手だ、好きじゃない。肌が白いのは元からだよ」
「苦手だとしても少し身体を鍛えたほうがいい。こんなに細いとすぐに折れてしまうよ」

ジノがタンクトップの脇から手を入れてルルーシュの身体を弄る。骨の形を確かめる様にジノの手がルルーシュのあちこちに触れる。 艶めかしいその手つきにルルーシュは吐息を洩らす。ジノが触ったところが熱を持ち、じんじんと熱くなっていくのが分かった。 まるで麻酔にかかったようにルルーシュの身体から力が抜ける。お互いの呼吸の音が聞こえるほど、2人の顔の距離は近い。

「やっぱり駄目だ。こんなに弱いルルーシュが戦場に立っているだなんて、殺してくれと言っているようなものじゃないか」
「失礼なやつだな、一応ここまで自分の力で生き延びてきたつもりなのだが?」

ムッとしたように口をとがらせるルルーシュがジノを睨む。その仕草がさらにジノを煽っていることにルルーシュが気づくはずがない。 ジノの熱がルルーシュを浸蝕する。火照る身体を持て余すようにルルーシュは両腕をジノの首に回した。娼婦の様な笑みを浮かべ、誘うように舌を見せる。 幾つも場数を踏んできたと思わせるその行動にジノはあえて釣られた。ぷっくりとした唇に手を添える、人差し指を舌に絡めた。

「確かにそうかもしれないけど、心配だよ。戦闘が始まる時は、もしかしたらこの戦闘でルルーシュは死んでしまうんじゃないかと思うんだ。そして戦闘が終わってルルーシュの無事が分かったとしても、これは運がよかっただけで本当に次は死んでしまうかもしれないと考えてしまう」
「・・・ん、それは考えすぎだよ」
「考えすぎではない。次の戦闘は3日後だったよな?次の戦闘には新兵器が使われる、今度こそルルーシュは死んでしまうよ!」

手放したくないというようにジノがルルーシュ抱きしめる。ジノは想像した、ルルーシュの白い肌の下を流れる血が体外にぶちまけられた姿を。 きっとルルーシュは酷い死に方をする、楽な死に方を選ばせてもらえない。ブリタニアに捕まったら、もっと酷い仕打ちを受けることになるだろう。 拘束着を着せられたルルーシュが涙を流して懇願する姿を思い浮かべると、背筋にゾクゾクと感悦が走った。あの皇帝のことだろう、美しい人間をただ殺すことなんてないはずだ。 自我を時間をかけて壊し、身体も逆らえないように調教するだろう。その上でまた利用されるかどうかはルルーシュ次第だと、そうなるとも決まっていない未来のことを考えてジノはほくそ笑む。 ルルーシュが死んでしまうのは嫌だが、苦しむ姿は見たい。ジノの中に流れるサディスティックな血がざわめく。ルルーシュの口内から手を引くと、透明な唾液が糸を引いた。ああ、だがしかし。

「もしルルーシュが私の知らないところで死んでしまったらどうしよう?私の知らないところで捕まって、私の知らないところで拷問されて・・・」

ルルーシュが苦しむにしても、それを自分の目で見られないなんてまるで生き地獄。名も知らないブリタニア兵に弄られるルルーシュを想像するだけでジノは腸が煮え繰り返るほどの怒りを感じた。 感情に比例してルルーシュを触るジノの手にも力が入る。白い肌に爪を立て、ゆっくりと引っ掻く。ルルーシュの背中や腹、腕に赤い線が描かれる。肌に食い込む痛みにルルーシュは嬉しそうにジノにすり寄った。 遊びばかりの抵抗に気分が高められていくのが分かる。ジノの手がルルーシュの胸板に移動する、ジノの指先が胸の飾りの強く抉るように引っ掻いた時ルルーシュは高く声を上げた。 媚びるようにルルーシュはジノを見上げたが、ジノには頭の中の他人によって汚されたルルーシュしか見えないない。自分を見てとでも言うようにルルーシュがジノの首筋にキスをする。わざと音をたててキスをし、その音にジノは我に返ったようにルルーシュを傷つけていた手をとめた。ルルーシュを見下ろす、目線が絡み合いジノの両手がルルーシュの首にかかった。


「ルルーシュが他人に殺されてしまうくらいならいっそのこと私が今ここで・・・」


ジノの瞳孔が開いている。じわじわと絞められる首に、ルルーシュは焦ったように自分の首にかけられたジノの手を掴んだ。しかし非力なルルーシュの手ではジノの手を振り解くことなどできるはずがない。 言葉にならない声が無意識に上がる。咽喉の部分を両親指で強く押されると酷い吐き気に襲われた。やめろと声に出したくても酸素を得られない肺と潰される喉ではそれを発することはできない。頭がくらくらして目に涙が溜まる、痙攣し始めた手でルルーシュはジノの頬に触れた。酸欠でかすんできた目でジノを見つめる。ルルーシュの手が触れた瞬間、少しだけ首を絞める手の力が弱った。その隙を見逃すことなくルルーシュは最後の力を振り絞って口を動かす。

「・・・っ!・・・ジ、ノ・・・ッ!」

ルルージュが名前を呼んだ次の瞬間、ジノはルルーシュの首から手を離した。急に手を放されたことでルルーシュは思わずベッドの上に蹲る。咳き込むよりも酸素が欲しくてルルーシュは喘ぐように空気を吸った。脳が痺れている。そんなルルーシュの姿をジノは気持ちよさそうに見ていたが、はたと気が付きルルーシュの背中を撫でる。

「ごめんルルーシュ、大丈夫か?」
「・・・っく・・・はぁ・・・ジノ・・・」

悪びれた様子もなく問いかけるジノにルルーシュは抱きついた。そのまま勢いに乗ってジノを押し倒し、2人でベッドに横になる。落ち着かないルルーシュと吐息がジノの耳を掠める。跨るようにしてもたれ掛かるルルーシュの身体をジノはやさしく抱きしめ返す。もしさっきルルーシュがジノの名前を呼んでいなかったらジノはその握力でルルーシュの首をへし折っていただろう。ルルーシュの首にジノの手形が赤く残っている。    

「ジノ・・・俺はお前に殺されることはできない」
「どうしてだ?ルルーシュは私に殺されるのは嫌なのか?」
「そうじゃない」

ルルーシュが起き上がる。ジノの腰の位置に座るようにしてルルーシュは自分の首に手を添える。さっきまで絞められていた首が疼くのだ。ジノのサディスティックな行為にルルーシュはとても満足していて、ジノにならば殺されてもいいと思った。だがしかしルルーシュはジノ以上のサディストを知ってしまっている。ジノに傷つけられるたび、彼の翡翠の目が思い出されるのだ。

「俺を殺す権利はスザクにあげてしまったんだ。だから俺を殺すのはスザクじゃなきゃダメなんだ」

あの翡翠の目が自分を蔑むように見るのを思い出し、ルルーシュはぶるりを身震いを起こした。スザク、という名前がルルーシュの口から出てジノはつまらなそうにルルーシュの足を掴んだ。 スザクはジノの同僚で、彼もまた自分と同じ重度のサディスティックの持ち主だと何処かで感じていた。そしてスザクとルルーシュが知り合いだと知ったとき、直感した。スザクとルルーシュの関係に。 深いところまでは知らないのだがスザクはルルーシュを憎んでいてルルーシュはその憎しみから逃げることなくスザクからの攻撃を受けているらしい。それは言葉の暴力だったり、力の暴力だったり。 最初ジノはルルーシュは既にスザクの物なのかとがっかりしたのだが、どうも違うらしい。スザクはルルーシュのことばかりを追っているがルルーシュは特にスザクのことばかり考えてはいない。 まるでスザクが自分を傷つけるのは当たり前のことだとでも言うようにルルーシュは違うほうへと歩いていく。どちらかというと、スザクがルルーシュの物のように見えた。 好奇心からルルーシュに近づいたジノだったが、今ではもう骨抜き状態だ。ルルーシュがいなければ立っていることもできない、そう言ってもいいほどに。勿論それはルルーシュ対する加虐心から来るものだが、それとは別に違う感情もあった。まさか恋だの愛だのを他人に対して囁く日が来るとは思わなかった。ルルーシュという1人の人間に隠された秘密、彼の持つ闇。漆黒の闇に溶け込むかのように生きるくせに、不意に発する言葉や仕草が可愛らしい。他人に冷たい態度を取るのも、相手のことを思ってしている行動だということもなんとなく分かった。極力他人と触れないように生きている彼がどうしてそうなってしまったのか知りたかった。そしてある時、彼の重要な秘密を1つ知った。ゼロ、ルルーシュは自分の敵だったと知りジノはとても驚き、そして歓喜した。戦場という緊迫した場所でルルーシュと対立していたことに喜んだのだ。ジノが虐げる側ならばルルーシュは虐げられる側だ。仮面をかぶっていない時の彼は自分の欲に従順で虐げられる立場を楽しむほどの人間だというのに、仮面をかぶり戦場に出ただけでそれが百八十度変わる。ジノは今まで何度も黒の騎士団と戦ってきたが、完全に勝利をあげることができなかった。自分の技量に疑いはない、黒の騎士団のエースの力もあるが原因はゼロの作戦にあるのだろう。自分の下でいいように扱われていたルルーシュが、戦場で自分に反逆をしている。そう分かった時、ジノは笑いが止まらなかった。戦場で反逆してくるという危険な行為、ある意味サディスティックでもある行為をルルーシュがしている。あの彼が。だったら、思い知らせてやればいい。戦場であろうと、何処であろうと、自分に逆らうことは許されないと。ルルーシュの全てを支配したいのだ。ルルーシュを独占できるのなら殺すのも、と考えていたのにルルーシュあっさりそれを否定した。ゼロは、ルルーシュは一度スザクに負けている。ブラックリベリオン、それはまさしくルルーシュの完敗だった。反逆したルルーシュを捩じ伏せたスザクだからこそ、ルルーシュは殺す権利を与えたのだろう。

「私にはその権利はくれないのか?私もルルーシュを殺す権利が欲しいよ」
「お前にはあげないよ、俺を殺す権利を持っていいのは一人だけなんだ」


ただ一人、スザクだけ。ルルーシュの意思はとても固いことをジノは知っている。いくら責苦を味わわせてもルルーシュはきっとその権利をジノに渡すことはないだろう。 ルルーシュの全てが欲しいのにそれだけが手に入らない。悔しく思いながらジノはルルーシュのふとももに手を這わせた。

「じゃあルルーシュにとって私は何なんだ?ただのセックスフレンドなのか?」
「違うよ、ジノは俺を愛してくれている」  
「そうだよ、私はルルーシュを愛している。ルルーシュも私を愛しているのだろう?」

ビキニの端から手を入れる。ビクンと跳ねるルルーシュの身体を愛おしそうに見つめ、性器に触れる。遠慮なくそれを握り反応を楽しむように扱くと、ルルーシュの顔がだんだんと赤くなってきた。 ルルーシュがじれったいというように腰を揺らす。ルルーシュの座っている場所はちょうどジノの股間の上であって、ルルーシュが揺れるとその刺激がシノにも伝わる。堪らないというようにジノが性器を弄る手を強くすると、その快楽にルルーシュが喘ぐ。ふるふると勃起してきたルルーシュのそれに爪を立てると、甲高い声をあげてルルーシュが倒れこんできた。ジノの厚い胸板に顔を押し付けてルルーシュが犬のように呼吸を荒げる。空いた片方の手でルルーシュの後頭部を掴むとぐいと自分の顔に近づけた。唇が触れ合いそうな距離ぎりぎりで止め、鼻を触れ合わせる。

「スザクなんかに負けない権利が欲しいよ」

啄むような口づけ、軽く触れたそれにルルーシュが恍惚の笑みを浮かべる。二、三度軽く触れ合ったあと深く唇が交わった。口内を暴れまわる舌にルルーシュも応える。舌を甘噛みされるとそれだけでルルーシュは達してしまいそうだと思った。最後にとどめだと言わんばかりにジノはルルーシュの口の端を噛み切った。鋭い痛みが走る、5ミリにも満たない傷だったがそれでも深く噛み着られたそこから真っ赤な血が流れた。離れていくジノの唇をルルーシュがぺろりと嘗める。ルルーシュの口の端から血がぽたりと落ちた。ジノの唇にもルルーシュの血が少しついており、満足げにジノはそれを舐める。ルルーシュは絶え間なく流れる血を味わいながら言った。

「ジノ、お前にはもう与えているよ。俺を愛する権利を・・・」

スザクが一度捨て、今再び欲しがっている権利をお前は持っているんだよとルルーシュが囁いた。      



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ふしだらなマゾランペルージと少し変なサドヴァインベルグ卿