※ボロ雑巾思考のルルでなく、ロロを本当に弟のように大事にしてるルルです。
※5話後捏造
※監視はヴィレッタを脅して外させました。
↑を前提にどうぞ。




携帯から聞こえる声。とても嬉しそうに呼びかけてくる少女の声。記憶の中だけで繰り返していた声を今まさに聞いている。 本当なら喜びたい。そして無事なのかと問いかけたい。しかし、この最悪な状況の中ではそんなことできるはずがなかった。 背中から突き刺さるスザクの視線が痛い。動揺を見せたらいけないと、震えそうな身体を感情ごと押し込める。 乾く唇が動こうとしない。ルルーシュはその頭脳が出した、この場を切り抜ける回答を言えずにいた。

「ルルーシュ、失礼のないように・・・ね」

スザクが後ろから投げかけた言葉。何処か冷たい喜びを孕んだ声色。

『お兄様? お兄様ですよね?』

そうだ、そうだよ。俺だよ。ずっと心配していたんだよ。身体は大丈夫なのか?今どこにいるんだ?酷い目にあってはいないか?今すぐ会いたいよ。会って抱きしめたいよ。一年もひとりにしてごめんと、謝りたいよ。

ここを切り抜けるには答えはひとつしかないのに、頭に次々と浮かんでくる言葉がそれを阻む。 スザク、それがお前のやり方なのか?俺がゼロだから、ナナリーを使ったのか? お前ならナナリーは守ってくれると信じていた俺が、馬鹿だったのか? 早く返事をしなければ怪しまれる。ここで記憶が戻ったことがバレたら、今度こそ全てが終わる。 こんなとこで終わるわけにはいかない。終わってはいけない、全ては未来のために。 だからこそ今、俺が発するべき言葉はひとつだ。

「恐れ入りますが、人違いではないでしょうか?」







ロロは玄関の鍵を開けようとし、そこで既に鍵が開いていることに気づき急いで扉を開けた。 作戦通りヴィレッタを脅し監視を外させたあとからルルーシュと離れてしまい、ルルーシュが何処にいるのか分からなかった。 祭りのフィナーレには壇上の上に生徒会メンバーは集まっていたが、そこにルルーシュの姿は無かった。 リヴァルに聞くと、どうせまた何処かでサボってるんだろと言っていた。 その言葉に嘘はないだろうから生徒会メンバーはルルーシュの居場所を知らないようだった。その時、リヴァルと一緒に居た枢木スザクはなんともいえない表情をしていた。 枢木スザクのことはルルーシュから話を聞いていたので、話しかける気にはなれなかった。 ちなみに、ルルーシュは枢木スザクのことについて悪い印象を与えるようなことは言っていない。 ルルーシュはスザクは優しくてお人よしで天然で、とごくごく普通に彼の性格を説明し彼と自分の間に起こったことを簡単に言っただけだった。 それが逆にロロには枢木スザクに嫌な印象を与えた。 枢木スザクという人間をロロはもちろんよく知っているわけではない。 ルルーシュの説明と今日一日見た限りでは、悪というイメージとは程遠い。 しかしロロは感じていた。彼が、枢木スザクがルルーシュに向ける視線に憎しみがあることを。 初めはゼロの記憶が戻ったことがバレたのかと思ったがそうではないらしい。 ただルルーシュが枢木スザクから視線を外したときなど、誰も見ていないふとした瞬間に枢木スザクはじっとルルーシュを見つめていた。 氷より冷たい一瞬の視線。殺意というには生ぬるく、怒りというには深すぎる。執着、と言ったほうがいいかもしれない。 そんな視線でルルーシュを見る枢木スザクを、ロロはどうしても好きになれなかった。 ルルーシュは誰よりも敏感だからその視線には気づいているだろう。 フィナーレの時に見せた枢木スザクの複雑な表情、姿が見えないルルーシュ。 作戦のあとだったので何かあったのではないかと不安だったが、だからと言って今のロロの立場では何かをすることもできず ロロは仕方なくクラブハウスに戻ってルルーシュの帰りを待つことにした。 しかしクラブハウスに帰ると扉は開いていた。鍵はたしかにキチンとかけたし、誰かに破られたというわけではない。ということはルルーシュはもう帰ってきているのだろうか? だが帰ってきてたとしても何か変だった。鍵は開いていたが、家の中の照明は一つも点いていない。 閉め忘れ、というのは己とルルーシュの性格上絶対にないだろう。 家の中は、物音一つしない。リビングを覘くがルルーシュはいない。キッチンにもバスルームにもいない、ということは。ロロは不審に思いながらも灯りを点けながらルルーシュの部屋へ向かった。

ルルーシュの部屋をノックする。返事はない。部屋の中は電気は点いていないようだ。 ここにもいないとすると、鍵は開いていたが家には誰も居なかったということになる。 まさか扉以外から侵入者が入って、鍵をかけずに扉から出て行ったのではないだろうか? その可能性もあると考えロロが家の全ての窓を確認しようと踵を返したその時、ルルーシュの部屋から微かな物音が聞こえた。 ピタリと動きを止め、ロロは中の様子を伺う。室内に誰か居る。もう一度ノックをするが返事はない。 もし侵入者だとしたら殺さなければならない、とロロは隠し持っていた小振りのナイフを取り出す。 使い慣れたそれを構え、ロロはルルーシュの部屋の扉を開いた。 シュン、と小さな音をたてて扉が開く。廊下の灯りが真っ暗な部屋に射し込み、ロロは目を凝らした。 部屋には確かに一人の人物が居た。しかしそれは侵入者でも敵でもなく、ルルーシュだった。 ルルーシュはベッドに寄り掛かるように顔を埋めて床に座り込んでいる。 ロロは構えていたナイフを下ろし、息を吐く。敵ではなかったことと、ルルーシュが居たということのふたつに安堵した。 だが、ルルーシュはロロが入ってきても死んでるかのように動かなかった。 ルルーシュのおかしい様子にロロはしゃがみこんでルルーシュの肩を掴み揺らした。

「どうしたんですか?」

制服のままのルルーシュは、何処か怪我をしているというわけではないようだ。 だとしたらどうしたのだろう?ロロはルルーシュのこんな様子を見たことがなかった。 薄暗い部屋では互いの顔を見るのがやっとだ。とりあえず電気を点けようとロロは立ち上がろうとした。

「ロロ・・・」

弱弱しいルルーシュの声。ロロがルルーシュを見ると、ルルーシュは顔を上げてロロを見ていた。 あまりにも悲しい瞳。顔色の悪いルルーシュはロロの服の袖を掴んだ。 ロロはその行動に驚くが、ルルーシュの身体が震えていることに気づき立ち上がるのをやめた。

「ロロ・・・ロロ・・・!」

「・・・っ?」


ロロの服を掴むルルーシュの手がだんだんとロロの身体を掴むようになっていく。 ルルーシュはロロに縋るように身を寄せる。名前を呼び続け、力の無い指でロロの身体を掴む。 そんなルルーシュをロロは、まるで以前にルルーシュがそうしてくれたように抱きとめた。 身体も身長もルルーシュのほうが大きいはずなのに、ロロは今自分の腕の中にいる彼が自分よりも小さく見えた。

「大丈夫ですか?医師を呼びましょうか?」
「そんな言葉遣いしないでくれ・・・」
「え?」
「お前は弟なんだ・・・そんな言葉遣いしないでくれ・・・!」

昼間にも言われたことにロロは無意識のうちに敬語になっていたことに気づく。 ルルーシュはロロを本当の弟のように接してくれる。それにロロは戸惑っていた。 嬉しくないわけではない、寧ろ嬉しくてしょうがないくらいだ。 だが所詮は赤の他人。しかもルルーシュの大切な妹の存在と入れ替わり、偽り。 そんな自分をルルーシュは偽者だと分かっていながら弟だといってくれた。 自分なんかがその言葉を素直に受け取ってくれていいのだろうかと不安なのだ。 しかし今のルルーシュの言葉には何処か切実な思いがあるように聞こえ、ルルーシュに何かあったのだと悟る。

「ごめんね兄さん、気をつけるよ。大丈夫?どこか具合でも悪いの?」
「ロロ・・・お前を・・・お前を信じさせてくれ・・・」
「兄さん・・・?」

信じさせてくれ、とはどういう意味だ? ロロはルルーシュの手を取り、労わるように包んだ。 突然包まれた手のひらにルルーシュは顔を上げる。

「兄さん・・・何か、あったの?」

ロロはルルーシュの目を見て問いかけた。 光の無いルルーシュの瞳と暫く見つめあう、そしてルルーシュはぽつりぽつりと話し始めた。 スザクと屋上で話したこと。突然渡された携帯からナナリーの声が聞こえたこと。ナナリーが総督として日本に来ること。ナナリーに何も言ってあげられなかったこと。

「俺は、俺は・・・兄なのに、ナナリーに何一つ言ってやることができなかった・・・! それどころか他人だと、知らないふりをしてナナリーを傷つけてしまったんだ! 記憶のことがバレてしまうからと言って・・・妹を・・・ナナリーを突き放した・・・」

ロロは今にも泣きそうなルルーシュに胸が締め付けられた。 ルルーシュが妹を大事にしているということは、この一年間で自分が受けてきたことを考えると痛いほど分かった。 何よりも妹の幸せを願っていたのに、それを自分で傷つけてしまったという事実。 たとえそれがどんな状況だったとしても、ルルーシュはそれが許せないらしい。 ロロからしてみれば、それは枢木スザクの罠であってルルーシュが傷つくことではないと思ったがルルーシュは違うらしい。

「スザクは・・・結局俺の記憶が戻ってないと判断して戻っていったよ・・・」
「うん」
「こんなことなら、違う方法で俺の記憶が戻ってないとスザクに思わせるべきだった・・・!」
「・・・うん」

ルルーシュはこんな結果になってしまったことに、自分を悔いていた。 枢木スザク。気に入らないやつだとは思っていたが、まさかこんなことをする奴だったなんて。 ロロはルルーシュをぎゅっと抱きしめて奥歯を噛んだ。 あまりもルルーシュがそう、可哀想だった。 可哀想なんて同情の言葉は安っぽいかもしれないが、胸の奥から湧き上がってくるこの感情は自分の身さえキリキリと痛むものだ。

「でも多分スザクは気づいてる・・・俺の記憶が戻っていることに・・・それを分かっていながら今回は引いたんだろう・・・」

枢木スザクという人間の前に、ルルーシュという人間はあまりにも弱すぎた。 ゼロではなくルルーシュという人間を攻撃するのは、軍人としては正しい。だがそれは心というものを考えていない行為だ。 枢木スザクがゼロを、ルルーシュを恨む理由。それを考えれば仕方の無いことなんだろうか? そんなことがあったのか、とロロはルルーシュから目を離したことを後悔する。 もし自分がいればこんなことにならなかったのではないか。そう考えてしまうのだ。 しかし、やはり実の妹のことになるとこんなにもルルーシュは変わるのかとロロはそう思った。 ブラックリベリオンの時だって最後に妹のことを考えて行動し、捕らわれてしまった。 家族のことを知らない自分が言うのはどうかと思うが、兄妹とはこういうものなんだろうと思った。 それを思うと同時にロロは切なくなった。家族、妹を思って苦しむルルーシュ。 自分にも家族がいたら、そういう思いをする時があったんだろうか。

「兄さん、大丈夫だよ、ナナリーはきっと分かってくれてるよ。だから・・・」
「それだけじゃ・・・ないんだ・・・」

遮られた言葉に、え?とロロは聞き返した。 それだけじゃない。ナナリーのことだけではないということなんだろう。 まさか他のことで責められたりしたのだろうか? 枢木スザクは何処まで酷い人間なんだと憤慨するロロに突然ルルーシュが抱きついた。

「兄さん!?」

「スザクが、最後に言ったんだ・・・」



『ルルーシュとロロってさ、似てないよね。兄弟にしては。』
『・・・そうか?兄弟だから似てるとは限らないと思うぞ』
『うん。でもさ、目の色とか微妙に違うし・・・雰囲気も兄弟じゃないみたい』
『変な言い方はやめてくれよ。ロロは俺の弟だ、お前も分かってるだろ?』
『そうだね、変なこと言ってごめん』
『全く、おかしなことを言うやつだな』
『ごめんごめん。       でも、ロロはルルーシュのこと兄さんだと思ってないかもしれいよ』
『・・・っ ん?何か言ったか?』
『ううん、なんでもない。じゃあ僕先に行くね。』



「俺は・・・ロロ、お前を本当の弟だと思っている・・・!血の繋がりなんて関係ない!敵だったとしても、あの時俺を守ってくれたことが真実だと信じている!だけど・・・!」
< 「にい、さん・・・」

本当の弟なんかではないことはルルーシュだって分かっていた。血の繋がりを変えることはどうあがいても無理だ。 しかし、家族というのは血の繋がりだけなんかじゃない。もっと心の深く暖かいところで繋がる存在こそが家族なのではないのだろうか。 そう思っていたルルーシュにとって、スザクの言ったことは怖かった。 ナナリーを傷つけてしまい、不安定な時に言われた言葉。 ロロは今でも自分の命を狙っている?弟のふりをして、ずっと殺す機会を窺っている?そう考え出すときりがなかった。 ロロが偽物だと分かった時、初めこそルルーシュは怒ったがこれまでの一年間とゼロだと分かったときのロロの反応を見て彼は敵なんかじゃないと思ったのだ。 彼が家族に飢えているのは調べて分かった。だかそれを知ったから家族という言葉を使って利用したわけではない。 飢えているなら与えてあげよう。役不足かもしれないが、彼の家族になってあげよう。 それはギアスという因果な能力を持ってしまった彼が感じていた寂しさを、ブリタニアに利用されて罪を重ねてきたことで沈んでしまった心を暖かいところへ出してあげたかった。 ギアスという能力は仕方がないかもしれない。だからといって、そんな冷たいところにいる必要なんかはないんだと。 ロロがどんな過去でどんな能力でどんな罪を犯してきたのかは全ては知らない。人を殺してきた数とか、罪の重さは逃げていいものではない。 それが彼を縛り付けているのだとしたら、その重さを一緒に背負ってやるのが「兄」ではないのだろうか? だがそれがルルーシュの独りよがりだとしたら。そんなルルーシュを影でロロが嘲笑っていたら。 ロロがギルバートから自分を守ってくれたこと。お前は弟だと言った自分に見せた嬉しさと戸惑いを含んだあの表情。


「お前を・・・信じていたいのに・・・っ!」


ルルーシュのその告白に、ロロは目を見開いて言葉を失った。 まさかルルーシュがナナリーのことだけでなく、自分のことでも傷ついていたなんて。 弟だと、家族だと、ルルーシュが自分を思ってくれていた。 目頭が熱くなるのを我慢して、ロロはルルーシュはこんなにも自分を信じてくれていたのにそれが偽りなんじゃないかと疑っていた自分が恥ずかしかった。 俯くルルーシュの両頬にそっと触れる。向き合うように顔を上げさせると、ロロは泣きそうになるのをおさえきれなかった。

「兄さん・・・僕を、信じて?」
「ロロ・・・」

ロロの声が震える。


「僕が言うのはおかしいかもしれない・・・けど、僕たち「家族」・・・でしょ・・・っ?」


堪え切れなかった涙がロロの頬を伝った。ロロから言われた家族という言葉を聞いた瞬間、ルルーシュは顔を泣きそうに歪ませロロの胸に顔を押し付けた。 窓から見える星が何故か霞んで見えない。しかしロロはその目を拭うことなく、ただルルーシュを抱きしめた。 ロロは、迷いを捨てることにした。 たとえ裏切られてもいい、ルルーシュの言葉が演技でもいい。その言葉が自分に向けられただけで、ロロはルルーシュを信じることにした。 顔は見えないがルルーシュは泣いているのだろうか、時折ルルーシュの身体がひくりと揺れる。 静かな空間の中、心地よい沈黙が流れていく。 今まで冷え切っていた心が温まっていくような感覚。お互いの熱を分け合うように慰めあう自分たち。

今この瞬間、彼らは確かに家族だった。





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ロロとルルは仲良くあるべき。いや仲良くしてください。お願いします。