ジェレミア・ゴットバルトはその命でさえも簡単に差し出せるほどブリタニア皇帝ルルーシュに忠誠を誓っていた。かつて、マリアンヌ后妃を守れなかったという悲劇を二度と繰り返さないためにジェレミアはその身体の細胞全てをルルーシュへ捧げている。主君の願いが優しい世界であることを知り、そして主君がこれから起こそうとしていることも知りながら、ジェレミアはただルルーシュに尽くすのみだ。たとえ主君が消える結末だとしても、それは主君の決めたこと。ならば、ジェレミアは忠義の限りを貫くつもりだ。そんなジェレミアにあの事件が起こったのは、つい先日のことだった。

(0時までに予算書類と宮殿の警備について見直し。1時に格納庫で軍備確認、のち2時には…)

ジェレミアは頭の中に今夜の予定を思い浮かべながら大手を振って歩いていた。カツカツカツと速いペースの足音が、誰も居ない広い廊下に響く。時刻は既に夜の11時を過ぎていた。夜だから仕事はないというわけではないのだが、この時間は殆どの者が休息を取っている時間なので宮殿は物静かだ。ジェレミアは疲れを感じないと言えば嘘になるが休む暇など考えられなかった。1分1秒でもルルーシュのために何かしていないと気が済まない。本当ならばずっと傍に居てその身を守りたいのだが、やらねばいけないことは多くある。それにこの時間だとルルーシュはもう就寝しているだろうから睡眠の邪魔はしたくない。皇帝の部屋は警備が特に厳重にしてあるし、部屋の中にはC.C.という共犯者の女も居る。ジェレミアは万が一誰かが皇帝の部屋に侵入したとしても、最悪C.C.が身代りになってくれればいいと考えていた。

(そういえば、今日はあまりルルーシュ様とお話をしてないな)

昼間は世界各地の貴族が皇帝に謁見をしに来ていたのでジェレミアはただ周りを警戒しながらルルーシュから一歩離れた所で立っていただけだ。ルルーシュの背ばかりを見ているような気がするが、それが不満だとは思わない。その凛々しい姿を間近で見れるだけでも幸せだ。ただ、ルルーシュの美貌にはハッとするものがあり見とれてしまいそうになるのが困る。特に背後から見下ろしているとちょうど首から肩のラインがよく見えるのだが、たまにその長めの黒髪からうなじがちらり見える時などは何故かいけないものを見てしまったような気になって目を逸らしてしまいそうになってしまう。ルルーシュに対し劣情を抱いてしまう自分をジェレミアは戒めたかったが、正直なことを言ってしまえばルルーシュとジェレミアは所謂そういう関係でもあるため、劣情を抱いても罪悪感は感じなくていいはずだ。けれど、やはり、なんというのだろうか。主と仕える身分では差があるというのだろうか。やはり日常生活で騎士としてルルーシュを守るジェレミアが"そういう関係"になると立場が対等になるのがむず痒いのだ。ふと、何処からか話し声が聞こえてきた。ジェレミアの足音に掻き消されてしまいそうなほど小さな声だったが、機械化してから五感が鋭くなったジェレミアには聞こえた。誰か居るのだろうかとジェレミアが無意識のうちに耳を澄ませると、若い男と女の会話が耳に入ってきた。

「なぁ、いいだろ?」
「だめだって・・・あっ」
「誰も来ないよ、ね?」
「やぁよ・・・ちょっ、だめだってば」

色の含んだその声にジェレミアは眉を顰めて足を止めた。周りを見回し声の発生源を探すと、少し離れたところの曲がり角の柱の陰から声がする。よく聞いてみれば布ずれの音も聞こえてきた。ここは神聖なるブリタニア宮殿だというのに、そのような行為を、しかもこんなところで行おうとするとは許されるものではない。ジェレミアは溢れだしそうな不快感を隠すことなく柱へ近づいた。ダン!と強くジェレミアが床に足を叩きつけると、柱の影で抱き合っていた男女がバッとこちらを向いた。男のほうも女のほう顔に見覚えはなかったが、服装から警備兵と清掃係のメイドだと分かった。胸の部分を大きく肌蹴させたメイドが慌てて胸元を隠す。警備兵の男はジェレミアの顔を見た途端真っ青になってしまった。ジェレミアはじろりと二人を睨む。

「お前達、こんなところで何をしている」
「えっあの、えっと・・・その・・・」
「・・・・所属は何処だ」

ジェレミアが胸のポケットから端末を取り出す。警備兵の男とメイドの女が小さな声で名前を所属を言うと、ジェレミアはそれを書き留めるかのように端末を操作した。画面を何度か押したジェレミアが端末を仕舞う。

「時機に処分が行くだろう。二人とも今から荷物をまとめておくことだな」

死刑宣告のようなジェレミアの言葉に警備兵の男とメイドの女が目を見開き絶望の色を露わにする。ジェレミアはそんな二人を一瞥してから踵を返した。あんな不純な輩はこの宮殿には必要ない。ジェレミアの背後で言い争うような男女の声が聞こえてきたが、ジェレミアにはもう関係のないことだった。ジェレミアは足を自室へ進めながら、そういえば最近性処理をしていないことに気づいた。溜まった時に事務的に自慰で処理することは多かったが、それでも幾度もルルーシュと身体を重ねたことはある。ただルルーシュに仕える身として、ルルーシュの体力に合わせることが一番重要なため頻繁には行うことはない。下品な話だが、できれば性処理ならば自慰より性交のほうが良い。処理というとなんだか冷たいようなものに聞こえるがジェレミアはルルーシュと性交する時、最大限の優しさと鉄のような理性を総動員させてそれを行っている。ただやはりルルーシュの身を考えると性交はしないほうがいい。女性との性交ならばルルーシュに良い刺激になるかもしれないが、同性なのが問題である。挿入する側とそれを受け入れる側とでは身体にかかる負担は大きく違ってくる。ルルーシュの立場が受け入れる側であるため、ただでさえ体力のないルルーシュにとっては辛いことであろう。なのでジェレミアは本当に我慢が出来なくなった時以外はルルーシュと性交を行わないと心に誓っていた。

(・・・ああ、いけない。こんな不埒な考えは)

そんなことを考えていたら、だんだんと気分がむらむらとしてきてしまった。今は仕事中だと考えても、一度気になりだすとなかなか頭からそれが離れなかった。最後にルルーシュと身体を重ねたのはいつだったか、一ヶ月ほど前だったような気もするし一週間前だったような気もする。女性のように柔らかくはないが、それでも肌理の細かなあの白い肌。突きあげるたびに唇を噛み締めて声を殺すのがルルーシュ様の癖だったなぁ、とそんなことを考え始めたらもう止まらなかった。下半身に熱が集まりそうになったのを察知してジェレミアは慌てて自分に冷静になれと言い聞かせた。よく考えてみろ、相手は11歳も年下の男だ。二十にも満たない同性の子供相手にそんな行為を行うのは人道に反しているのではないか?

「・・・はぁ」

などと気をそらしてみようとしても無駄だった。こうなればさっさと処理したほうが早いのだろう。ジェレミアは勤務中にそんなことを考えてしまった自分に落ち込みながら、自分の部屋で済ましてしまおうと考えた。ほんの5分もあれば終わるであろうからそのあとに仕事をすればいい。さて、抜いてしまおうと考えてからジェレミアの頭の中にあの存在が浮かび上がってきた。ジェレミアの部屋にある、あのCD−ROMのことだ。これは誰にも知られてはいけない秘密で、またルルーシュなどには絶対に知られてはならない。主君であるルルーシュにも言えない、ジェレミアが墓まで持っていこうと決意しているあのCD−ROMの存在。ジェレミアはそわそわとしながら自室の扉を開けた。

『あっ、や・・・いっ!!!』
『さあ白状するんだ!お前がゼロなんだろう!?』
『ッ違う、と・・・言って・・・・あァッ!?』

部屋に入った途端、大きな音で聞こえてきたそれにジェレミアはビシリと硬直した。なんで、こんな声が。背後で扉が閉まり、ジェレミアは顔を強張らせてパソコンの前に座る人物を見つめた。どうして彼がここに居るのか、というか、そのパソコンの画面に流れている映像は。パソコンから流れる映像に合わせて流れる卑猥な声と音。ジェレミアが入ってきたことに気づいた彼、ルルーシュはくるりと扉の方を向いた。顔を真っ青にして固まっているジェレミアを見てクスリと笑いながら、パソコンの画面がよく見えるように身体を横にずらす。

「ル、ル、ル、ルルーシュ様どうしてここに」
「確認したいことがあってな、部屋に来たんだがお前がいなかったから勝手にパソコンを使わせてもらったよ。でもまさか、こんなものがあるとは思っていなかったがな?」

ルルーシュが右手にCDケースを持ちひらひらとさせている。透明なCDケースに書かれた『secret.L』の字に、ああ終わった、とジェレミアは絶望に突き落とされた。木を隠すなら森の中と、CD−ROMのケースの中に紛れさせていたのが災いしたのだろうか。思わず崩れ落ちるように床に両手を着いたジェレミアをルルーシュは面白そうに見てからまた視線をパソコンの画面に戻した。

「それにしてもよく撮れているじゃないか。まさか、あの時にカメラを回していたなんてな」

画面の中では黒い学生服姿の青年・・・ルルーシュが両手を後ろ手に縛られ冷たいコンクリートの床に押し付けられている映像が流れている。その上に圧し掛かりながらルルーシュの尻を突く軍人の男・・・ジェレミアの姿。この映像は一年前、まだジェレミアが純血派として軍に居た頃に撮られたものだ。 オレンジ事件で失脚したジェレミアがゼロと疑われる学生を尋問した時に撮ったものなのだが、どうしてそうなったのか分からないがいつの間にか誘導尋問のために彼を強姦していた。ルルーシュがゼロという証拠はなかったものの確証はあったため、何としても吐き出させようと思っていたのだ。後に使えるかもしれないと部屋の隅にこっそりとカメラを用意しておいてその様子を撮っていたのだが、結果としてこんな映像が撮れてしまったわけだ。ナリタ山での一件以来、ジェレミアの私物の中に長いこと紛れたままになっていたそのCDは幸いジェレミア以外の誰かの目に触れることはなかった。今でこそ穏やかな関係だが、ファーストインプレッションは過激なものだったのだ。

「ルルーシュ様、その、それは」
「こんな昔の映像を取っておいて、俺を脅す計画でも立てていたか?」
「滅相も御座いません!!!そのような思想、私は微塵も!!!」
「じゃあなんだというんだ。こんな映像、今になって必要ないだろう?」

ルルーシュがマウスをクリックして映像を止めると、部屋中に響いていた卑猥な音が止んだ。正座するジェレミアを見下ろす様にルルーシュは椅子の上で足を組んでいる。ジェレミアはだらだらと流れ出しそうな冷や汗を抑えながら目を泳がせた。何でその映像を今でも取っておいているのかと言うと、用途はあれしかないわけで。しかしあんな映像を見ながら自慰をしていましたなどと口に出せるわけもなく、ただただジェレミアはルルーシュから目を逸らし続けた。これまで忠義がどうこう言っていたくせに裏ではこんなものを見ていただなんてと思われているだろう。もしやもうお前は要らないと言われてしまうかもしれない。ああ、あんなものさっさと処分でもなんでもしておけばよかった。しかし見るたびに衝動は抑えきれず、捨てるという選択肢は選べなかったのだ。すっかりその背を縮こまらせてしまったジェレミアだったがルルーシュの顔に怒りの色はなかった。かと言って恥ずかしがっている様子もなく、ケロリとした表情で平然としている。何が面白いのか口元は緩んでいるようだが。ルルーシュはジェレミアの言いたいことは分かっているようで、くるくると手の中で空のケースを回している。

「そうか、お前はこれを見て抜いていたのか」
「なっ、そ、そんなことは」
「言い訳などしなくても俺は怒らないぞ。そうだな、強いて言うなら・・・お前は俺と"こういう風"にセックスしたいと思っていたのか」

さらりと爆弾発言を連発していくルルーシュにジェレミアは思考が追い付いていかなかった。ルルーシュに知られてしまったということがあまりにもショックで、頭脳の一部が停止してしまったようだ。知られてしまったからにはもうここには居れないのだろうと、ジェレミアは涙がこみ上げてきそうになる。頭を垂れながらジェレミアは精一杯の謝罪を態度で示す。額を床に押し付けて土下座をすると涙声のままジェレミアが口を開く。

「ルルーシュ様に仕える身でありながらルルーシュ様を汚すような真似をしてしまい何とお詫びしたら良いのか・・・!」
「おいジェレミア」
「本当に申し訳御座いません。責任は取らせて頂きます、即刻私を解雇・・・いや、極刑に!!!」
「おい、さっきから何を言ってるんだ?いいから顔を上げろ」

ジェレミアが恐る恐る顔を上げると、呆れたような目のルルーシュとかち合った。申し訳ないという気持ちを胸に抱えたままジェレミアは身体を起こし正座のままじっとルルーシュを待った。ルルーシュは額に手をあてて、これだから堅物はと呟いた。

「全く、俺がいつお前を処罰すると言ったんだ。真面目なのはいいがその思い込みをどうにか・・・・・・そうだ」

ルルーシュが突然、何かを思いついたように声を上げる。片手でパソコンを操作し始めたルルーシュにジェレミアが首を傾げると、不意にルルーシュがジェレミアの方を向いた。そして、明らかに裏がありそうな笑顔をにっこりと作り手招きする。

「おいで」

まるで親が子を呼ぶような優しい言葉だが、その笑顔の裏にはどんなものが隠されているのか。けれど主君の命令に逆らうわけにもいかず、ジェレミアは膝立ちをしてずるずるとルルーシュの傍まで行くとまた正座をする。カチャカチャとジェレミアのパソコンを操作するルルーシュが手を止め、パソコンの裏から伸びたあるコードを引っ張ってくる。

「後ろを向け」
「る、ルルーシュ様それは」
「いいから早くしろ」
「イエス、ユア・マジェスティ・・・」

ルルーシュが手にしているのはジェレミアに接続する機械の端子だ。バトレーに実験的合成体として改造されてからジェレミアの身体はサイボーグのような状態になっている。そのためサザーランドジークなどに搭乗するときには神経電位接続を行い操縦を行うのだが、ルルーシュが持っている端子はラクシャータがジェレミアの身体に埋め込まれた機械システムを管理するために作ったものだ。それをジェレミアに差し込みパソコンなどの電子端末で操作することによって性能の制御などが出来るのだが、いきなりそれを取り出したルルーシュは何をしようというのだろうか。言われるがままに後ろを向いたジェレミアの首の後ろに出っ張っている背骨付近をルルーシュの指が撫でた。肌に混じって銀色のパネルがはめ込まれているそこに端子を差し込む。ジェレミアは軽く後ろを振り返りパソコンの画面を見た。ルルーシュは制御システムに干渉するプログラムを開いているようで、その中のギアスキャンセラーの項目を見ていた。動作状況は可動中と書かれている。ルルーシュはそれを停止させた。思わずジェレミアが焦り声を上げる。

「ルルーシュ様、そのようなことをされたらギアスキャンセラーが使えなくなって・・・」
「そんなこと分かっている・・・っと、これでいいな」

ギアスキャンセラーの可動を3時間後に自動的に行うという設定をしたルルーシュは端子をジェレミアの首から抜いた。プシュウ、とジェレミアの機械である左目が微かな音をたてる。ギアスキャンセラーを停止させられたということはもう用無しということなのだろうかとジェレミアはサッと顔を青くする。しかしそれは仕方ない、そうされて当然なことを自分はやってしまったのだから。落ち込むジェレミアに気づいたのかルルーシュが微笑しながらジェレミアを呼んだ。

「こっちを向けジェレミア」
「はい・・・ルルーシュ様」

ジェレミアは身体を反転させてルルーシュに向き合う。ルルーシュはパソコンの画面にまたあの映像を呼び出すと、「このあたりでいいか」と呟きながらあるシーンで映像を止めた。それはちょうどジェレミアがルルーシュの服をまさに破かんとしている場面で、ジェレミアは居た堪れなくなる。しかしルルーシュは笑顔を作ったままジェレミアの顎を靴の先でくいと持ち上げる。ジェレミアがルルーシュの目を見ると、いつの間にかルルーシュの両目は真っ赤な色に染まっていた。ギアスの紋章がうっすらと浮かび上がり、ルルーシュがパソコンの画面を指しながら楽しそうに口を開いた。

「この時のお前に戻ろうか、ジェレミア」





熱い。皇帝の服の殆どを纏っていないというのに身体が熱くてしょうがない。ルルーシュはぼんやりと意識を濁らせていたが、バシンと背中を叩かれてハッと我に返った。背後を振り返り見ればジェレミアが荒い息を漏らしながら腰を振っている。ふと、突いてくるジェレミアと目が合いルルーシュは後ろ髪を鷲掴みにされる。そのまま上に持ち上げられるように引っ張り上げられ、頭皮の痛みに声を漏らした。

「考え事か?随分と余裕があるんだな?」
「・・・っ、は・・・黙れ、オレンジ・・・がッ・・・!」
「早く認めてしまえ、お前が、ゼロだということをな!」

ガツガツと貪られるように突き上げられるとルルーシュの口から無駄な喘ぎが飛び出してくる。ルルーシュはジェレミアの匂いがするシーツをぎゅうと握りしめて腰を震わせた。久しぶりだからかジェレミアの動きが激しい。こんなになるまで溜めるくらいならばセックスくらい何時でもしてやるというのに。ジェレミアの部屋であのCD−ROMを見つけた時、最初は驚いたがルルーシュはとても興味深かった。

(ジェレミアは俺をこうして犯したかったのか)

ジェレミアがルルーシュの下に仕える身となってから、そういう関係になったもののジェレミアはあまりセックスを要求してこなかった。それはきっとルルーシュの身体を大事に思っているからなのだろうが、はっきり言ってしまえばルルーシュとってそれは要らぬ気遣いだ。確かにルルーシュは性には淡白なほうで体力もないためあまり頻繁にセックスはできないものの、ルルーシュだって溜まってしまう時はある。その度にルルーシュは自分からジェレミアを誘うのが恥ずかしくてしょうがなかった。向こうが無理にでも襲ってくれたら、なんてことを考えてしまったことだってある。ルルーシュがジェレミアにあんなギアスをかけたのはそんな想いがあったからだった。

「っは、ァ・・・あっ!?」
「フン、尻の穴に突っ込まれてそんな声を上げるなど気色が悪いな」
「う・・・っく・・・ふ・・・ッ!」

罵倒の言葉が降ってくる。いつものジェレミアだったらセックスの時は「大丈夫ですか?」「痛くはないですか?」を何度も問いかけてくる。同じ人間だというのに対象が主君であるか憎き相手であるかによってこんなに違うとは不思議だ。無理強いされるようなセックスに不覚にも心が満たされそうになってしまいそうで、ルルーシュはそれを振り払うように頭をシーツに擦りつけた。自分がマゾヒストだとは思いたくないけれど、ジェレミアにこうされるのは嫌ではない。言うならば、いつものジェレミアは優し過ぎるのだ。大切にしてくれるのは嬉しいが、だからと言って我慢し続けるのはルルーシュにとって悲しいことでもあった。

(こうすることも、あと何度できるか分からないというのに・・・ジェレミアの馬鹿野郎・・・!)

ルルーシュには時間がない。ゼロレクイエムは着実に迫ってきており、うかうかしていたらあっという間に近づいてきてしまうのだ。ジェレミアがルルーシュがこの世から居なくなるということを知っているはずなのに、それでも触れようとしてこないことにルルーシュは実は怒りと悲しみを抱いていた。いっそのこと騎士など辞めて、ただ対等な立場で隣に居てくれればいいのに。ジェレミアの忠義は本当はマリアンヌに向けられるものだったせいもあり、ルルーシュは本当にジェレミアは自分のことが好きなのかと疑問に思うこともあった。けれど、今こうしてジェレミアと繋がっているのはマリアンヌではなく自分だ。それが何よりの証拠となればいいと、ルルーシュは背筋を駆け上がってきた快楽に下唇を噛んだ。




はたと気がつけば、眼下に広がる光景にジェレミアは心臓が止まるかと思った。ぐったりと四肢を投げ出したルルーシュと、ぐしゃぐしゃにされた皇帝の服がベッドの上の方で丸まっている。いったい何が起きたのか全く理解できず身を引くと、己の格好に驚いて目を見開いた。中途半端に下げられたスラックスと下着。ぼろりと下着からこぼれ出ている性器は汚れてはいないが湿っている。それとは対照的にルルーシュの下半身は酷いものだった。どちらのものか分からない精液が飛び散り、シーツには染みができている。ルルーシュの口元についている精液を見てジェレミアは叫びそうになってしまった。自分は、いったいなんということをしてしまったのだろうか。明らかにこの状況は、ジェレミアが覚えていなくとも起こってしまった出来事を示している。気を失っているのか眠っているのか分からないルルーシュを見てジェレミアは慌ててベッドから飛び降りた。ルルーシュをこのままの姿で放置するわけにはいかないと、タオルを掻き集めてルルーシュの身を清める。しかし肌を拭いていくたびにそのルルーシュの白い肌につけられた青い痣や赤い痕を見つけてしまい、ジェレミアは自分の不甲斐なさに涙が出てきてしまった。

(ルルーシュ様にこんな酷いことを・・・私はもう、生きている価値など無い・・・!!!)

できればルルーシュにシャワーを浴びさせてやりたかったが、きっと疲れ果てているであろうルルーシュを起こすわけにはいかない。ジェレミアはルルーシュを起こさぬよう慎重に後始末をした。くしゃくしゃになった皇帝服の代わりにジェレミアのワイシャツを着せてやり布団をきちんと被せる。すっかり綺麗になったベッドの上のルルーシュを見つめて、ジェレミアは最早ため息も出なかった。




「・・・ん、ぅ・・・・・・?」

ルルーシュは目を覚ます。ゆっくりと瞼を開いてからパチパチと瞬きをした。一瞬自分が今何処にいるのか分からなかったが、腰に走った痛みにすぐに今居る場所と起こった出来事を思い出した。久しぶりのセックスだったからか体中が痛い。ルルーシュはごろりと何度か布団の中で寝返りを打ってから、そういえばジェレミアは何処だろうと気がついた。てっきり一緒のベッドで眠るかと思ったけれど先に起きたのだろうか。あれから何時間経ったかは知らないが、ギアスキャンセラーはきっともう可動しているはずだろう。ギアスにかかっている間はその記憶は失うがジェレミアは自分が何をしたかくらい理解しただろう。感想でも聞いてやろうかとルルーシュが考えていると、「ルルーシュ様」と弱弱しい声が聞こえてきた。突然声を掛けられて思わず肩を跳ねさせたルルーシュは声のした方へ振り向いた。ベッドのすぐ近くでジェレミアが正座してこちらを向いており、ルルーシュは痛む身体を起きあがらせた。いつになく真剣なジェレミアの表情にどうかしたのかと問うと、ジェレミアは膝の近くに置いてあった短剣をルルーシュに捧げるように両手で上に持ち上げた。

「いったいそれは何の儀式だジェレミア」
「ルルーシュ様、今まで私めを傍に置いてくださりありがとうございました。私は本当に幸せ者でした」
「おい、なんの話だ?」
「しかしルルーシュ様にあのような行為をしてしまった以上、私はもう生きている価値など御座いません!」
「はァっ!?」

突拍子もないことを言い出したジェレミアにルルーシュは素っ頓狂な声を上げてしまった。生きている価値など、なんの話をしているのか全く分からない。けれどジェレミアが両手で持っていた短剣を持ち替え、刃を己の腹に向け出したのでルルーシュは驚いてベッドから飛び降りその短剣を掴んだ。切腹でもしようというのかこの男は。

「馬鹿なことはやめろ!」
「お許しくださいルルーシュ様!私にはこうすることしか償いはできません!」
「だから、なんの話だと言ってるんだ!!!」

短剣の奪い合いになりながらルルーシュとジェレミアが揉み合う。ばたばたと暴れるジェレミアにルルーシュは、こいつには行動で示すよりも言葉で伝えたほうが早かったかもしれないと後悔した。




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いつもは似非女王様プレイ