「りんご」 「・・・はぁ」 「食べて」 「あ、ありがとうございます・・・」 「・・・」 「・・・」 「おいしい?」 「え・・・あ、はい。とてもおいしいです」 「そう」 「・・・」 (誰か助けてくれ・・・) 刺すようなアーニャの視線を感じながら、一口サイズに切られた林檎をルルーシュは口に運んだ。冷たくて甘くて、美味しい。しゃりしゃりとした歯ごたえを楽しもうと努力はするが、やはりこう至近距離でじっと見つめられたままだと食べにくい。一緒にどうですかと勧めたら、別にいい、と素っ気なく返された。いや、彼女からしたら素っ気なく返事をしたわけではないのだろう、彼女はいつもああいう話し方しかしないのだから。最初は嫌われているのかと思って何も言わなかったけれど、彼女の性格を把握していくにつれだんだんと気になってしまうものだ。違う状況でなら楽しみながら食べれたであろう林檎をさっさと口の中に収め、空になった皿を渡すとアーニャはそれを持って出て行った。やっと一人になれたとホッとしたのも束の間、すぐにアーニャが帰ってくる。その手に今度はパイナップルの入った皿を持って。 「パイナップル」 「えっと、あの」 「食べて」 皿を差し出され困ってしまう。林檎の前は葡萄1房、マンゴー2個、洋梨1個とメロンを半玉を食べさせられたのだ。いくら果物だからと言って流石にもうこれ以上は食べれない。胃の中で果汁が揺れるイメージを想像し、溜息をつく。皿の端を掴んでアーニャの方へと軽く押す。首を横に振ってアピールするも、アーニャは何も反応を示さない。 「お気遣いは嬉しいのですが、もう・・・」 「食べて」 間髪入れずに言われる。もう一度ずいと皿を差し出してきたアーニャに、いつもの頭痛とは違う頭痛が起きそうになった。 「ですから・・・」 「ジノからのだから、食べて」 「ジノ・・・からの?」 「そう、今までのも全部。」 「・・・そう、なんですか」 ジノという名前を出されては、何だか食べないのも悪い気がしてきた。ジノからのというそれだけで、さっきまで何の変哲もなかったパイナップルが何か特別なもののように見える。誰からからの贈り物というだけで物の価値は変わる。それを知っていたから、気づいたらパイナップルの皿は自分の両手の中におさまっていた。やはり冷たくて美味しいパイナップルをひとつひとつ味わいながら食べていく。独特の酸味と甘い果汁が口いっぱいに広がって、飲み込むためにパイナップルの繊維をさらに崩すように噛んだ。食べている時はもちろん口がふさがっているので喋れない。アーニャもぺらぺらとお喋るをするタイプではなかったので、食べている間はずっと二人とも無言のままだった。ゆっくりと時間をかけて皿を空にしてアーニャに渡した。 「おいしいかったです。ジノに、ありがとうって伝えておいてください」 「分かった。」 立ち上がりまた出て行こうとしたアーニャが扉の前で止まる。不自然に止まったアーニャにどうしたのだろうと思っていると、アーニャが振り返った。 「りんご」 「・・・?」 「りんごだけは、私から」 どうやらさっきの林檎だけはジノからのではなくアーニャからのということらしい。てっきり果物は全てジノからのだと思っていたので、まさかアーニャがと驚いたが、反応を窺うようにじっと見てくる彼女が可愛らしく見えた。アーニャはいつも無表情で無感動な人間だと思っていたから、こういう人間らしいところを見せられるとつい嬉しくなってしまう。 「そうだったんですか、ありがとうございます。林檎おいしかったですよ」 にこりと微笑んで言うと、アーニャはすぐさまくるりと扉の方を向いてしまった。そして扉が開き、出ていく直前にアーニャが呟く。 「そう」 アーニャらしい簡素な返事だった。扉が閉まり、思わず笑みが零れる。スザクに頼まれたのか、たまにアーニャはこうして病室を訪ねに来てくれる。最初は話しずらい人間だと思った。あまり自分も会話をたくさんするほうではないので、ジノみたいに暇なく喋ってくるような相手でも困ったが、アーニャのように何も話してこないというのも少し気まずい。やはりラウンズは変人ばかりなのかと思っていたが、ちょっと違うようだ。ただアーニャは感情を表に出すことが苦手なだけなようで、何も感じていないわけじゃない。この前だって左目が痛むと漏らしたら蒸しタオルを持ってきてくれたし、携帯をよく触っているので携帯が好きなのかと尋ねたらぽつりぽつりと写真のことやブログのことを話してくれた。口調で誤解されやすいようだが、ちゃんと話してみると彼女はまだ子供だということがよく分かる。年相応の考えや趣味を持ち、女性らしい優しさも具えている。ただ、ラウンズという名誉と責任のある仕事に就いているせいかたまに大人びた発言もする。少し変かと思えば変なのかもしれないが、別に異常というわけではない。はっきりとは思いだせないが昔相手した客の中に、アーニャのような人もいたような気がする。それを考えると、まだアーニャのほうが可愛げがあっていいと思った。果物で膨れた胃を労わるように腹の上から撫でる。あまり運動もせずに食べてばかりいると体型が醜くなってしまいそうだ。病室の中を歩くくらいなら大丈夫だろうかとそんなことを考えていたら扉がまた開いた。アーニャが戻ってきたのだなと扉に視線をやると、アーニャの手にあるそれに思考が停止しかける。 「いちご。これは、スザクから。」 皿に盛られた苺の山。あれを食べろというのだろうか。スザクからとは言え、もう胃は限界を超えている。持ってくるのは嬉しいがせめてもう少し時間を開けてから、いやアーニャだってそんなに暇じゃないのかもしれない。だからと言って一つずつ連続で持ってくるのも、いやいやしかし。ぐるぐると色々な考えが頭の中を駆け巡る。再び皿を差し出され、艶々とした苺の表面に光が反射した。 「食べて。」 皿を受け取りながら、なんだかんだ言ってアーニャに逆らえないのは何故だろうと思った。 「果物ばっかり食べたから、身体が水っぽくなっちゃったんじゃない?」 スザクが意味の分からないことを言ったが、寝起きだったので返事をする気力がなかった。ルルーシュはベッドに横たわったまま、目の前を右へ左へと忙しそうに動くスザクを見つめる。スザクは小さい鞄から新しい服を取り出して応接台の上に置いた。 「これ、新しいのね」 この個室の病室に移動してからルルーシュは服をちゃんと着るようになった。ちゃんと着るようになったと言ったら、まるで着るのを嫌がってたというようにも聞こえるがそういうわけではない。今までルルーシュはスザク以外の人間はメイドのナタリーしか会うことはなかったので、衣類は特に必要ではなかったのだ。何故今さらかとルルーシュが問えば、スザク曰くこれからは自分以外の人と接することが多くなるだろうからあまり人前で肌を見せないようにしたいからだそうだ。別に服は着ようが着まいがどっちでもよかったのでルルーシュはスザクの言うとおりにした。でもやはり何か物を貰うというのは気が引けるような気がする。スザクがベッドの近くに椅子を持ってきて座ったので、ルルーシュは上半身だけ起こしてスザクの方を向いた。 「仕事は終わったのか?」 「うん、予定より早く終わったんだ」 「そうか・・・よかったな」 スザクは三日ほど前から中華連邦の方へ行っていた。最近やけにスザクは出動が多い気がするが、今までが少なかっただけでもしかしたらラウンズだったらこれくらいが当たり前なのかもしれない。スザクの大きな手がルルーシュの頭に触れ、寝ぐせで乱れた髪を直す。ルルーシュは、梳かすその動きが心地よくて目を瞑ってしまいそうだと思った。 「部屋の修理もね、あと一週間もあれば終わるって。ごめんね一ヶ月もこんなとこに置いちゃって・・・」 「いいさ、俺は居させて貰えるのなら何処でもいいんだから」 あの侵入者事件からもう一ヶ月と数日が経った。あの時に壊れてしまった部屋を直すということで一時的に個室の病室に移動になったのだが、部屋の修理はなかなか終わらなかった。窓ガラスが何枚かとあとは扉の取り付けだけのはずなのに何故時間がかかるのだろうと思っていたら、どうやら扉のほうが用意に時間がかかるとのことだった。ラウンズだからか、それともブリタニア宮殿だからなのか、扉は特別製で完全発注らしい。たとえガラスがすぐに貼り終わっても扉がないのでは部屋として機能しないため、なかなかスザクの部屋に戻れないでいた。スザクはスザクで修理中は別に部屋を用意してもらったらしいが、帰って来てもその部屋に行くことはほとんどなく病室の中で一緒に過ごしている。ふいに、髪を撫でていたスザクの手が止まった。 「何処でもいいって言ってもさ、僕は困るなぁ」 「どうしてだ?」 「だって、ここ防音じゃないからさ。できないし」 「あ・・・」 何ができないのかと一瞬だけ分からなかったがすぐに何を指して言っているの分かった。ルルーシュの顔がかぁっと顔が赤くなって、それを見たスザクがくすりと笑う。ルルーシュの頭の上にあったスザクの手がするりと移動して頬に添えられる。掴む様にして軽く上を向かせられれば、目の前にスザクの顔が広がった。相変わらず綺麗な翡翠の瞳に吸い込まれそうになったが、少し手が震えてきた。それを隠すようにして拳を作るが、スザクは気付いていないようだ。 「ルルーシュは声おっきいもんね」 「馬鹿・・・それは、お前が・・・」 「最初は声抑えるくせに、最後には善がっちゃってさ」 「・・・はっ・・・」 耳元で囁かれれば背筋が痺れが走る。反射的に身体を後ろに引いてしまいそうになったが、スザクのもう片方の手によって阻止されてしまった。息使いまでもはっきりと聞こえ、ただそれだけのことなのにゾクゾクとしてしまう。 「僕がいない間、寂しかった?」 「・・・別に寂しくなんか、なかったさ。アーニャも来てくれていたし」 「ふふ、毎日果物攻めに遭ってたらしいね」 「それはお前やジノが無駄に果物を置いていくから、腐らせたら勿体ないと思っただけだ」 「・・・ジノ?・・・ああ、なるほどね。」 スザクの声がひやりと冷たくなったことに、しまったと思ったがもう遅かった。ぐんと顔が近づき食む様に唇を重ねられる。久し振りだったそれに身体が固まったが、すぐに力を抜く。映画のワンシーンのような口づけに息が上がりそうになる。鼻から抜ける声が恥ずかしくて抑えようとしたが、舌を吸われてしまえばそんな考えは何処かへ飛んで行ってしまう。ぐいぐいと顔を押しつけてくるスザクに身体がどんどん押される。このままベッドに押し倒されてしまうのだろうかと思っていたが、倒れる寸前のところでスザクは顔を離した。お互いの唇が唾液で濡れていて、スザクが唇についた残滓を舐めとる。 「ジノは僕と一緒の任務だったんけど、ジノだけ帰りは遅いんだ。なんでか分かる?」 余韻でぼーっとしてある頭では考えつかず、ルルーシュが首を横に振るとスザクがおかしそうに笑った。 「中華連邦・・・向こうのお偉いさんの娘さんがジノのこと気にいったんだ。帰ろうとしたら、お食事でもどうですか?って。中華連邦は色々と面倒な国だからさ、断って、変なところで相手のプライド折るのもいけないだろう?ジノは、今頃あの娘さんと2人で中国料理でも食べてるんじゃないかな?」 「そう・・・なのか・・・」 「まぁジノもまんざらじゃないみたいだったよ。綺麗な女性だったしね、ジノは綺麗な人がいるとすぐに手出しちゃうから。」 遥か遠い中国の地で、豪華な中華料理を挟みながら楽しそうに会話をするジノと美しい女性の姿がルルーシュの頭に浮かぶ。ジノのあの容姿なら気にいられるのも当然だろうなと思う反面、何故か胸が痛い。胸が痛くなるのはおかしいじゃないか、別にジノと女性が何をしていようが自分には関係ない。分かっているのに心臓の中心をチクチクと針で刺されるような痛みが続く。もしかしてジノに嫉妬しているのだろうか?そんな上流階級の女性に目を付けられたことが羨ましいと。そう考えてみたがなんだかしっくりこない。嫉妬に似ているが、ジノに対してではないような気がする。では誰に、それを考え始めようとしたらスザクにぎゅっと肩を掴まれた。痛いほどに掴まれてハッと我に返る、少し考え過ぎていたようだ。怒っているだろうかとスザクを見たら怒ってはいなく、寧ろ何処か切なそうな目でこちらを見ていた。 「本当は僕も誘われてたんだけど、断ったんだ。ね、なんでか分かる?」 「なんでってそんなの・・・」 分かるわけがない。関係を友好になどと言っておきながら、スザクが断る理由なんて。ジノに気を使ったということだろうか?女性と二人きりにさせるために。今のところ思いつくのはそれくらいしかない。しかし口に出しては言いにくくそのまま黙っていると、スザクの口が深く笑みをつくる。 「ルルーシュがいるから」 「え?」 「たとえ仕事上の付き合いだとしても、僕にはルルーシュがいるから。」 「スザク・・・」 きゅうと胸が締め付けられる。外交の付き合いだって大事なはずなのにそれを私情で断るなんてと思ってしまうが、それ以上に言葉にできない気持ちがわき上がる。 (俺がいるから断ったというのか?そんな、馬鹿なこと・・・) 嬉しさと戸惑いの入り混じった感情が顔に出ていたのか、スザクが言い聞かせるように続ける。 「この前みたいなことがいつ起こるか分からないから・・・心配で早く帰りたかったんだよ」 「でも、お前・・・仕事は・・・」 「今回はジノがフォローしてくれたからね。ジノが僕たちのこと知ってて良かったよ」 「ジノが?」 「うん。快く送り出してくれたよ」 想像し、そうだよなと少しだけ気分が沈む。ジノが自分だけを好きでいる理由はない。四日前、中華連邦に明日から行くのだと言いに来てくれたジノは、やはりただの"友達"でしかないのかもしれない。好きだという言葉だって、同じことを他の人間にも言ってるかもしれない。好きや愛してるの価値観は個人差があるとは思うけれど、自分にとっての好きや愛してるは大事なものなのだ。上辺で好きと囁かれることが多すぎて、本当の好きや愛してるは大切にしたい。もしジノが好きや愛してるを誰にでも振りまくような人間だとしたら、いちいちその言葉を真摯に受け止めていたらいけないのだろう。それにジノが本気だとしたら、帰ろうとするスザクを引き留めるならまだしも快く送り出すなんてしないのではないだろうか。そこまで考えて、ルルーシュはジノが自分のことを本気で好きなのだと思い掛けていた自分が恥ずかしくなってきた。 「ルルーシュ」 甘く名前呼ばれ、スザクを見ると目が合った。そうだ、スザクがいればいいんだ。スザクさえいれば、そう決めたはずじゃないか。いつの間にか決心が揺らいでいた。ゆっくり近づいてくるスザクにルルーシュはまた口づけされるのだろうなと思いながら目を瞑った。あと数センチで唇が触れ合おうとしていた、その時である。 「っだー!スザクこの野郎、お前っ、酷過ぎるんじゃないか!?」 突然扉が開き、大きな声が病室に響き渡った。聞き覚えのある声にルルーシュは思わずスザクの身体を強く突き飛ばす。 「わっ!」 「あっ、す、すまない!」 バランスを崩して床に倒れるスザクをルルーシュが心配するが、その前に先ほどの大声の人物がスザクに近づいてスザクの胸倉をゆさゆさと揺さぶった。頭を打ったのか後頭部を押さえつつもスザクがその人物の手を掴む。 「ジノ・・・ッ」 「なんでお前先に帰ってんだよ!私にあんなローランドゴリラみたいな人を押しつけて、どういうつもりだ!」 ギロリとジノを睨むスザクだったがそれ以上にジノは怒っているらしく、宥めようとするルルーシュの言葉も聞こえていないようだ。 「ゴリラなんて失礼だよジノ。あの顔はカピパラと言ったほうが近い」 「どっちも似たようなもんだろ!おかしいと思ったんだよお前が食事行こうなんて言うはずないもんなァ!はめやがって!」 「別に、僕と食事に行こうとは一言も言ってないはずだけどね。だいたい早くルルーシュのとこに帰りたいって言ってたんだから、悠長に食事なんかするわけないって気づきなよ」 「こ、の、や、ろ、ぉ〜!!!」 二人が会話に何か引っかかるものがあったが、ルルーシュは、スザクは何処も怪我をしていないように見えてよかったと安堵の息を漏らした。とりあえずジノを止めなければとベッドから降りたら、それに気づいたジノがルルーシュの方を見る。ルルーシュの顔を見た瞬間ジノの顔がパァっと明るくなり眉が頼りなさげに下がった。スザクを掴んでいた手を離し、大きく両手を開いてルルーシュを抱きしめた。突然抱きしめられてルルーシュは驚いてその腕から抜け出そうとするが、もちろん抜け出せるわけがない。 「ルルーシュ〜!よかった、無事だったか?ナニもされてないか?」 「ジノ・・・く、苦し・・・!」 「いやさ、別にルルーシュは僕のものなんだからナニしたっていいんだと思うだけど」 服についた汚れを払い立ち上がったスザクの言葉に、ジノがキッとスザクを睨んだ。何故か眼尻に涙が溜まっている。 「お前に分かるもんか!私を置き去りにして先に帰ったお前に!」 「しょうがないじゃないか、あの人の相手しなくちゃいけなかったし。それに僕は早く帰りたかったんだ。」 「私だって早くルルーシュのところへ帰りたかったさ!ああ、思いだすだけでも鳥肌が立つ・・・あの人、フカヒレばっか食ってたなぁ・・・」 「へえ、いいねフカヒレ。あ、そうだルルーシュ今度中華料理頼んでみようか?ここの料理人のならきっとおいしいよ」 「あぁ・・・ええっと・・・」 まずどちらに反応すればいいのだろうとルルーシュは迷った。まずはジノの熱い抱擁を止めさせようと腕を突っ撥ねてみるがビクともしない。ジタバタと暴れてみるがジノは気付いてくれず、スザクに助けを求める目を送る。それに気づいたスザクは、安心させるような笑みを浮かべながら傍にあったルルーシュの読みかけの本でジノの頭を力いっぱい殴った。 「い゛っ・・・〜〜〜!!!」 バコンと鈍い音がして、ジノが痛みに歯を食いしばる。言葉にならない痛みにルルーシュを掴んでいた手を離してしゃがみこんだ。まさか本で殴るとは思わずルルーシュはなんてことをするんだとスザクに言ったが、スザクは悪びれた様子もなく本を元の位置に戻した。 「これくらいやらないとジノは放さないでしょ」 「だからってお前、これはやり過ぎだぞ!大丈夫かジノ?」 ジノの傍に膝まづいてルルーシュは顔を覗きこむ。深く俯いているせいで顔は見えなかったが、黙っているということは本当に痛いのかもしれない。ジノの方に触れ、何か冷やすものはあっただろうかと周りを見ま渡したルルーシュの身体にドンと何かがぶつかった。 「ううう・・・ルルーシューッ!」 「ほわぁっ!」 しゃがんだままだったジノがタックルするようにルルーシュを床へ押し倒した。しっかりとルルーシュの後頭部を手でガードしながら押し倒したあたりを見ると、痛がっていたふりをしていたのだろう。ジノの大きな身体に押し倒されて、ルルーシュの肺が押しつぶされる。抱え込まれるようにしてまた抱きしめられると、ジノの身体を無情にもスザクの足が蹴った。 「何してるんだジノ!早くどきなよ!」 「嫌だ〜私はルルーシュに慰めてもらうんだ〜!」 「ジノ・・・ちょっ・・・」 肩口にぐりぐりと顔を擦り付けられ、くすぐったさにルル―シュは身を捩る。ジノを蹴っていたスザクだったが、蹴ると衝撃がルルーシュにまで伝わってしまうので仕方なく手で引き剥がすことにした。肩を掴んで引っ張るが、さすがのスザクでも体格の違うジノを引き剥がすのは難しいようだ。 「僕のルルーシュなんだから触らないでよ!」 「そんなの知らない!ルルーシュッ、慰めてくれー!」 焦るように怒るスザクと形振り構わず縋りついてくるジノ。まるでずっと前からこんな関係だったような三人の状態に、ルルーシュは心の中でくすりと笑った。スザクの前だというのにかまわずアピールしてくるジノやそれを止めるスザク。こんな光景がしばらく前から続いている。争いの種となっている身なのでいつも大変だが、それと同時にその争いに日常の穏やかさを感じる時がある。喧嘩と言っても二人とも本気でやっているわけではない、それが分かっているからそう感じてしまうのだろう。スザクはもちろん好きだし、ジノも嫌いじゃない。もしこの二人と、もっと違う形で会えたなら三人で友達としてやっていけたのではないかとたまに思うことがある。もしなんて今更考えてもどうにもならないのだが。でも時々思ってしまうのだ。 「ジノ!いい加減にしないと怒るよ!」 「もう怒ってるだろスザク!」 こんな時が続けばいいなと。 宿舎のある一室で4人の兵士達が愚痴をこぼし合っていた。小さな四人部屋、二段ベッドが壁の両側にあり、その中心のフリースペースで円になって座っている。植民エリアで小さい功績を上げ苦労して昇進しブリタニア宮殿配属になれたというのに、演習では何をしても怒られるわ実戦には下っ端でしか出してもらえないわで、その兵士達は苛立っていた。つい先ほども演習をしてきたばかりで、今回はラウンズ二人が特別に指導してくれるということもだったので気合を入れて挑んだのだが。 『君たちはそれでも軍人かい?これじゃ、せいぜい見回り兵が限界だぞ』 『ジノの言葉に賛同するわけじゃないけど、確かにちょっと君たちはなってないよ』 ナイトオブスリーとセブンにこっぴどく叱られてしまった。兵士達は頑張っているつもりなのだ、いや一般基準から見ると優れているはずだ。だがやはりラウンズの目線から見るとまだまだらしく、ナイトメアの演習では開始3分程度で全滅してしまった。ラウンズ相手に勝てというのは無理な話だとは思うが、手も足も出なかったのだ。攻撃をしてきてくれたらこちらも指導のしようがあるが、何もせずにやられてるのではアドバイスも何もできないとナイトオブスリーは言った。 「くそっ!なんだよ、ラウンズだからっていい気になりやがって!」 「やっとここに来れたってのに、これじゃまた植民エリアに飛ばされちまうよ」 「だいたい、スリーならまだしもセブンはナンバーズなんだろ?なのに俺達ブリタニア人を舐めやがって・・・!」 「虐殺皇女サマを垂らし込んで騎士になったんだ、汚ぇやつなんだよ」 日頃の鬱憤が一気に爆発する。ガンと床を叩いて苛立ちをぶつけるものの、一向に怒りは鎮まらない。だいたいラウンズはと怒りの矛先をラウンズに向け怒りを言葉に乗せる。 「どうせ力のあるやつは下っ端の気持ちなんか分かりゃしないんだ。どうせ貴族出身ばかりなんだろ」 「俺達みたいに庶民からのし上がってきた人間の苦労なんぞ、これっぽっちも理解してないのさ」 「こっちがコツコツと金溜めてる間によ、ラウンズは出撃で俺たちの月給三ヶ月分は貰えるんだろ?いいよな、ほんとに」 ブリタニア宮殿配属になってから給料は上がったものの、やはり功績を上げない分最低限の給料しか貰えない。功績を上げようとしても、今までいたエリアとはわけが違うのだ。 「女でも居れば、ストレス発散できるんだけどな」 「駄目駄目、ここに居る女はみーんな固いんだ。メイドですらガードしっかりしてるんだぜ?」 「まあ軍に居る時点で女はそういう気持ち捨ててるんじゃねーの?あ、でもあいつはナタリーと付き合ってるって言ってたよな。か〜羨ましいねぇ」 ため息混じりに愚痴る3人だが、1人だけじっと考え込んでいる兵士が居た。最初は会話に参加していたのに急に黙ってしまったその兵士に、その隣にいた兵士がどうしたんだと聞いた。 「いやさ、ほら、ナイトオブセブンの慰み者の話・・・知ってるだろ?」 「ああ。いたなぁそんなの」 「俺、医務室に他の奴らと見に行ったらスリーに追い返されちまったよ」 「なんでスリーなんだよ、セブンの慰み者なんだろ?」 「さぁ?スリーもヤってるんじゃねぇの?あ、でもカーテンの隙間からチラッと見えたんだけど、すっげー美人だった」 「ラウンズ様はお持ちになる娼婦すらレベルが高いってか」 はん、と鼻で笑ったブラウンの短髪の男。この4人の中ではリーダー格の男である。先ほどまで黙っていた男は眼鏡の金髪の男だ。その眼鏡の男が声をひそめて言った。 「その慰み者さ・・・ヤっちゃわね?」 その言葉に他の3人の顔色が変わった。少しの間だけしんと静まり、黒の長髪の男が慌てたように言う。 「お前、それはヤバいって!ラウンズのものに手ぇだしたら減給だけじゃ済まされねぇよ」 「そうだよ。しかもあのセブンとスリーのものなんだろ?」 「そんなこと分かってるさ。でもよ、スリーとセブンにあんな言われて悔しくねぇの?」 「悔しいけどよォ・・・」 どうにかしてセブンとスリーに仕返しできないかとまで考えていた3人だったので、眼鏡の男の言葉に口が止まる。そんな3人の様子を見て眼鏡の男はニヤリと笑った。 「だからよ、その慰み者に俺たちのストレス解消してもらおうぜ」 「でもいくら慰み者だからってヤってくれると思うかぁ?」 「そうだぞ、金やるにしたって俺達にゃラウンズ様の慰み者とヤる金の余裕なんてないのに」 「ばぁか。いくらラウンズのものでも、慰み者は慰み者なんだよ。ある程度の金渡せば無理矢理やっても平気さ」 でもなぁと渋っている兵士2人だが、リーダーの男がバンと床を叩いたことに驚いてリーダーの男のほうを向いた。 「・・・ヤるか。俺達で、その慰み者を」 「っ本気かよ!無理無理!ぜーったい無理だって!」 「そうだぜ!だいたいあいつの傍にいつもラウンズの誰かがいるじゃねぇかよ、隙なんてねぇぜ」 「確かに、今はセブンもスリーも何処にも派遣されてないみたいだしな・・・でも、お前が言いだすってことは何か策があるんだろ?」 リーダーの男が眼鏡の男を見て言う。眼鏡の男はリーダーの男の言葉を聞いて、眼鏡のふちをクイと上げた。 「勿論。」 朝からやけに左目が痛くて、それに加え頭痛もするのでルルーシュはその日ベッドの中から動けずにいた。スザクも見舞いに来てくれたジノやアーニャも心配してくれたが、今この部屋にはその3人のうち1人もいない。時計の針は夕刻を指している。スザク達が出て行ってまだ一時間しか経っていないのだなと思うと、時間の流れが遅く感じられた。 『ごめんね、急にラウンズの会議が入っちゃって・・・すぐ!すぐに戻ってくるから!』 『さっさと終わらせてくるから無理はするなよ?分かったか?』 『スザク、ジノ、うるさい。・・・ルルーシュ、大人しくしてて。』 それぞれに言いたいことを言って3人は会議へと向かってしまった。ラウンズの会議だから3人が行くのは当たり前だが、こうしてラウンズの仕事が入るたびにあの3人はナイトオブラウンズの一員なのだなと実感する。あの3人の仕事風景を書類仕事以外見たことがないのでそう思ってしまうのかもしれないが、やはり戦場でなどは違うのだろう。見てみたいなと思うが、少し怖い。戦場はいつ命を落としてもおかしくないものだろうし、ラウンズといえど苦戦するときはあるだろう。ブラックリベリオンの時に巻き込まれたせいか、ナイトメアによる争いはルルーシュは嫌いだった。 (・・・痛い) 左目がじんじんと痛む。蒸しタオルをあてているのだが一向に痛みは引かない。普通目の痛みは温めると治るはずなのだが、もし原因が瞼などの腫れならば冷やした方がいいのだろうかと考える。目が痛いのでは本を読む気にもなれず、何もすることができないまま無駄にベッドの上で時間を過ごしていく。頭痛については、医師は片頭痛の一種だろうと言っていたが目の痛みについては何も分からないらしい。鎮痛剤を貰ったものの、全然効かない。スザクに言うと心配するので薬が効いたふりをしていたのだが、今日の痛みは我慢できないものだった。 (ブリタニア宮殿の医師なら、頭痛や目の痛みくらい簡単に治してくれ・・・) 医師へ八つ当たりしてみるが痛みは引かない。異様にだるく、身体を動かすのが億劫だ。再度時計に目をやる、そろそろ晩飯が運ばれてくる時間だ。夕食前までには帰ると言っていたスザクだったが、会議が長引いているのだろうか。一人で食事をするのは別にいいけれど、この状態で食べれるだろうかと心配してみる。一食くらい抜いてもいいだろうかと思うが、スザクにバレたりしたらうるさいのでそれはやめておく。あまり食べないでいるとスザクが居ない間また果物の盛り合わせを食べさせられるかもしれないからだ。そんな取りとめもないことを考えていると、扉の外で物音がした。 (・・・?ナタリーか?) 確かにそろそろだとは思っていたが、少し早いような気もする。いつも時間に忠実なナタリーは誤差一分以内で部屋に訪ねてくる。今日は6分も早いじゃないか。 (まぁナタリーにも都合があるんだろう。料理は生モノだしな) ナタリーが来たのならば起きなければならないなとベッドから降りた。応接台に向かい、上に置いてあった物達をどかす。放っておけばナタリーがやってくれるが、女性にはあまり苦労をかけたくはない。積み上げられた本を持ってベッド脇にある小さなサイドテーブルに置いた時、後ろで扉の開く音がした。いつもなら失礼しますと一声あるのにその声が聞こえず、疑問に思いながら振り返ったルルーシュの表情が一瞬にして凍った。 「へ〜、病室って言ってもいいとこ住んでるじゃん」 「俺たちの宿舎よりも豪華じゃねぇかよ」 見知らぬ兵士達が部屋に入ってくる。何か用があるわけもなさそうなのに、4人の兵士達が入ってきてルルーシュは顔を歪めた。ガラの悪そうな口調からして下っ端兵だろう。 「な、なんですかあなた達・・・っ!?」 ルルーシュがそう言った瞬間、男達のうち2人がルルーシュに襲いかかった。右腕と左腕を一人ずつ押さえ込まれ後ろ手に引っ張られる。手首に何か紐のようなものが食い込んだ感触を感じ、縛られたのだと気づく。本能が逃げろと叫び、ルルーシュは2人の隙をついて扉へ走り出したが、待ち構えていたもう2人の男達に捕まってしまう。 「っ放せ!」 唯一自由な足で男達を蹴ろうとしたが、あっさりと足首を掴まれてしまう。片足を上げたままの不安定な状態で抑えられ、ルルーシュの身体が倒れそうになる。しかし後ろに倒れそうになったルルーシュの身体を、黒髪の長髪の男が抱え込んだ。縛っている手を片手で押さえながら、後ろからルルーシュの顎を掴む。ルルーシュの真後ろに居る1人を除いて、男たちがルルーシュの顔をじっくりと覗きこんでくる。 「はー、こりゃまた美人だな」 「だから言っただろ?美人だって」 「これなら男でも大丈夫だな」 何が大丈夫なのかルルーシュには全く理解ができない。真正面に居るブラウンの短髪の男を睨んで威嚇するように口を開く。 「お前たち、何を言ってるんだ・・・何が目的でこんなことをするんだ」 まさかブリタニア軍人に扮したテロリストだろうか。でもだとしたらここで自分を捕まえるのはおかしいなともルルーシュは思う。スザクの部屋は今は一応別室ということになっているから、スザクを狙ったのならスザクの部屋に行くはずだ。男達の目的が分からずにいたルルーシュは、短髪の男が懐から取り出したナイフに身を固めた。ナイフの刃先を喉に添えられ、ビクリと身体が揺れる。 「お前ラウンズの慰み者なんだろ?俺たちも慰めてくれよ」 「・・・っは、どういうことだ」 「おら、金ならある。これでいいだろ?」 何枚かの紙幣の束を見せつけられ、ポケットに捻じ込まれる。男達の狙いが分かり、ルルーシュは不快になった。へらへらと笑う男達はこれからのことに期待しているのか皆目がギラギラしている。気持悪さに鳥肌が立ち、ルルーシュはハッキリと言い捨てた。 「断る。」 「・・・なに?」 「なんで俺がお前たちの相手をしなくてはいけないんだ、俺にだって選ぶ権利はある」 まさかのルルーシュの言葉に男達が驚く。が、短髪の男だけは面白そうに笑った。猫のように威嚇してくるルルーシュの目に、男はゾクゾクとした。喉にあてていたナイフをルルーシュの顔に移動させ、側面部分で頬を叩く。ひんやりとしたナイフの冷たさに、ルルーシュは足が震えた。 「選ぶ権利?・・・ククッ、そんなもんなぁ」 男が大きくナイフを振り上げる。まさかと目を見開いたルルーシュは、男の狂ったような笑みと振り下ろされたナイフの刃にギュッと目を瞑った。 「慰み者にはねぇんだよッ!!!」 ナイフはルルーシュの顔を綺麗に避け、ルルーシュの着ていた服を一直線に裂いた。首元からひっかけるようにして刃を滑り込ませ、そのまま流れに任せて布を切り裂く。こない痛みとビリビリと布の裂ける嫌な音にルルーシュが恐る恐る目を開けると、服の前がばっさりと切られていた。 「なっ・・・」 「おい、このままやっちまうぞ。腕もっとけ」 黒髪の長髪の男がルルーシュをベッドへ突き飛ばした。物のように扱われ、ベッドに投げられたルルーシュは起き上がろうとしたがすぐに上から押さえつけられてしまう。 「やめろ!いやだッ、放せ!」 「うるせぇ!」 バシンと頬を叩かれ、ルルーシュは涙がこぼれそうになった。それを合図に他の男達がルルーシュに手を上げる。抵抗の意思をなくすためなのか、遠慮なく殴られて胃液が喉の奥まで迫ってきそうになる。真っ赤になった頬や青痣の滲む肌が出来上がったころに男達はルルーシュを殴るのをやめた。しかしルルーシュは怯えてはいたが抵抗を弱めることはなかった。いっそこのままのほうが盛り上がると男たちはそのまま構わずに始めることにした。腕の紐を外され自由になったルルーシュの両手だったが、今度は前に組んだ状態で手錠を掛けられてしまう。蹴り上げた足をがっしりと持たれ、成すすべもなく足を開かされる。1人がルルーシュの手錠のかかった両手を押さえ、もう2人がルルーシュの足を片方ずつ持っている。ベッドに上がっていたのは服を裂いた短髪の男で、男はルルーシュのズボンに手をかけた。 「や、やめろ!いやだ、いやだ!!!」 男達の触れるところから不快感が走る。見知らぬ男達に、しかも複数に犯されるなど絶対に嫌だ。しかし男4人の前にルルーシュの力はあまりにも弱すぎた。ズボンを下着と一緒に尻の下まで下げられる。曝される性器に男達が盛り上がったような声を上げ、ルルーシュは舌を噛み切って死にたくなった。短髪の男がルルーシュの性器を弄っている間、足や胸の飾りを他の男達の手が這いまわる。 「いや・・・いやだぁ・・・っくぅ・・・!」 刺激を与えられてしまえば反応をしてしまう自分の身体が憎い。だがその快楽もほんのわずかで、不快感のほうが勝っていた。行為が進むにつれ酷くなる頭痛と左目の痛み。くらくらしてしまうほどの痛みに抵抗も少しだけ弱くなる。脳を苛む痛みと、肉体的な痛みが同時に起こりルルーシュの精神を削っていく。男の一人がジェルを取り出し、下の穴に注入してもルルーシュはどうすることもできなかった。太い指が出入りして吐きそうになる。ぐちゃぐちゃと粘着のある音に耳をふさぎたくなるが、それすら今のルルーシュにはできない。涙がボロボロと零れ、嗚咽が漏れる。 「あーあ、泣いちゃったよ」 「かわいー!痛い?痛いの?」 「あんま脅してやんなよ、痛いのはこれからなんだからよお」 男の言葉に、ルルーシュが視線をやるとそこに見えた男のそそり立った性器にヒッと声が引き攣る。スザクやジノとまではいかないが大きなそれに、首を横に何度も振る。ろくに慣らしてないのにそれを入れるつもりなのか。ルルーシュは狂ったように叫んだ。 「いやだ、いやだいやだ、やめろぉっ!!!」 「ここまで来てやめろはないよなぁ」 「ヘヘッ、次は俺だからな」 「あっずりぃ、じゃあ俺は口でしてもらおうかな〜」 「ちょっと待て、俺がいれてからだ」 足を肩につくまで上げられる。余すところなく曝されたそこに羞恥心で顔が真っ赤になる。足を暴れさせても、いくら叫んでも、助けは来ない。 (くそ、くそ、くそ!!!俺に力あれば、こんなやつら・・・!!!) 自分の弱さにルルーシュは打ちひしがれる。もっと強ければ、力があれば。そんな思いが強くなり、それと比例するかのようにルルーシュは左目に違和感を感じ始めた。痛みとは違う何か、例えるのならば海に投げ込まれた石が深海に沈んできているような重さ。心臓の鼓動が異常に速くなり、バクバクと鳴る心音と共に頭痛が強くなる。 (なんだ、これは・・・!) 「は・・・あっ・・・あァ・・・!」 苦しさから声を上げたルルーシュのそれを快楽のものだと勘違いした男たちがケラケラと笑う。左目に違和感に気を取られていたせいで意識がぼやけていたが、男のそれが窄まりに当てられた感触にハッと気がついた。ガチガチと歯が鳴るほど震え、涙が止まらない。どうにもならない状況に絶望し、ルルーシュは泣きじゃくる。そのルルーシュの姿に加虐心をそそられ、男がぐいと先端を押しつけた。 「まっ・・・!」 「いくぞ・・・ちゃんと、飲み込めよな!」 男のそれが入ってこようとしている。ルルーシュの頭の中を拒絶の二文字が支配する。周りの動きがスローモーションに見え、ルルーシュの中で何かが動きだした。 (力が、あれば・・・) 『力があれば生きられるか?』 (あの女の声・・・?) 脳の中であの女の声が聞こえる。女の問いかけに、何故そんなことを聞くのだと思ったが、違った。 (聞いたことある、その言葉、以前、何処かで) 頭を割る痛みに思考が中断される。激しいノイズが脳をかき回し、いくつものフラッシュバッグが起きた。ひとつひとつの記憶の流れが速すぎてそれがなんの記憶なのか把握することができない。ただ、以前に見た夢の内容と似ているような気がした。ふいに、真白な世界へ投げ出される。白と黒の世界で、地平線も何もないそこ。心音と共に真っ逆さまに落ちていく。すると、あの女が現れた。落ちていくルルーシュとは反対に、下から昇ってくる女。だんだん女との距離が近づき、すれ違うその時、女と目が合った。懐かしい、優しげな。そう感じた刹那、ルルーシュは現実世界へと引き戻された。 「っあああアアアァァァッッッ!!!俺に・・・おれに・・・!!!」 目を見開いて叫ぶ。ルルーシュの両手を掴んでいた男は見た、ルルーシュの左目が紫から血のような赤に変わる瞬間を。男達を見ながらルルーシュは"命令"した。 「俺に、触るなあああァァァッッッ!!!」 赤い鳥が飛んでいく。 |