麗らかな昼の日差しも、ルルーシュにとって曇天にしか見えなかった。 それもこれも原因は下半身に走る痛みで、いつもなら窓際に座り本を読んでいるのにベッドから一歩も出れなかった。 手を伸ばすと届くサイドボードに一杯のコップ。のろのろとそれを手に取り一口飲んだ。喉が渇いていたわけじゃなかったが、やることがなかったのだ。ルルーシュはため息をついて、もう見慣れてしまった窓の外を眺める。せめてナタリーが来てくれたら、そう思ったが食事も掃除の時間も終わってしまったから彼女がこの部屋に来ることはない。何故、ルルーシュが下半身の痛みに魘されているかというと、先日からどうもスザクとのセックスがうまくいかなくなってしまったのだ。以前はあんなにもしていたというのに、頭をぶつけ一時的な記憶喪失になった日からセックスが上手にいかないのである。何人もの人間を咥えこんだ下半身でさえ、先端を入れられただけで激痛が走り生娘のように叫んでしまった。頭では、何でこのくらいで、と思うのだが身体が拒絶反応を起こすのだ。スザクは申し訳なさそうに謝ってくるが、謝るのは本来こちらのほうで、セックスの1つもできないなんて慰み者失格なのではないかとも思う。仕方ないので昂ったスザク自身を口で処理するのだが、それもまたうまくいかない。あんなにおいしいと思えたそれが気持ち悪くしか感じられないのだ。だが下も使えず上も使えないとなると本当に捨てられかねないので、必至に表情を隠して我慢する。生憎、演技はうまいほうなのでスザクはきっと気づいていないだろう。だが、処理したあとのスザクの表情はどこか辛そうだった。今まで、あんな表情は見せたことなかったというのに。記憶喪失になったことで、今まで経験してきたことまで忘れてしまったのかと思う。気持ちがついていかないなら分かるが、身体がついていかないというのはどういうことなんだろう。気持は全然余裕がある、寧ろこっちから迫っていきたいと思うくらいだ。だが、身体が拒否するのだ。記憶が戻って一番最初にした時、血が出た。どこからとは言わないが、とくにかく出た。そこから血を出したのなんて、それこそ初めて経験した幼少のころと、運悪く路地裏で強姦された時くらいしかない。何故今になってそこから血が出たのか全く分からなかった。久し振りってことなどなかったし、濡れてなかったわけでもない。舐めなかったのが悪かったのだろうかと悩んでみるが、舐める舐めないにしてもいつも突っ込まれればそこは受け入れていたはずなのに。

(これはマズイかもしれない・・・ここを追い出されたら、アテなんかないのに・・・)

ルルーシュは毛布に顔を埋めて唸るように悩んだ。行為もロクにできない人間を、このまま置いておくはずがないだろう。それならそれで、また元の生活に戻るからいいと思ったがここはブリタニア本国だ。ルルーシュは、本国のことを全く知らない。ずっと日本で暮らしていたため本土がどのようなところなのか知らないのだ。本土でも身体だけ売っていきていけるか分からない。日本だったらこのあたりは貴族がよく通るとか、ここは警察が来るから行ってはいけないとか、それと多少のツテもあったから生きていけたが本土ではどうだろう。どこで生活すればいいかとか、どこで売ればいいかなど見当がつかない。それに、日本ではブリタニア人ということに加え美形の分類に入ったから売れたものの、本土では同じルックスの男娼などいくらでもいるのではないかと思ってしまう。誘い文句と口説きには自信があるが、日常会話は淡白なほうなのですぐに飽きられてしまうかもしれない。いや、それ以前に、身体が拒否反応を示しているうちは売りなんてできたものではない。売りをしたら名前は意外とすぐに広まるものだ。いい噂も悪い噂も同じく。自分の戸籍がどうなってるのかは知らないが、今更普通に働くことなんて無理だ。囲われる生活をしていたものだから学校に行っていなくても自分で勉強して、ある程度の教養はある。それでも書類上学歴がない以上、雇ってくれるところなんて酷い所だけだろう。

(何か、いい方法は・・・)

一人のとき、試しに穴に触ってみたのだが自分でやっても拒否反応が出てしまった。風呂場で、いくらボディーソープを使っても無理だった。捨てられないようにするには早く身体の拒否反応を消さなければならない。だがルルーシュがいくら一人で頑張ったとしても、自慰と本番は違う。入れるものも触るものも他人なのだ。うーん、と一人悩むルルーシュはある一つの方法に思いついた。

(誰か、練習台になってくれれば・・・)

スザク以外の男性に練習相手になってもらえばいいと考えたのだ。もちろんルルーシュはこの部屋から出ることを禁じられているが、バレなければいいのではないかと思い始めてきた。ルルーシュは足をパタつかせ、扉を見つめる。スザクは昨日からEUにテロの鎮圧に行って一週間ほど帰ってこないらしい。正直、チャンスだと思う。

(誰でもいい、できれば見張りとかの下級兵士がいいな)

でも、とルルーシュは枕に突っ伏した。もしスザクにバレたら、セックスができるようになっても捨てられてしまうだろう。主人の言うことも聞けない奴なんかいらない、と。ただでさえ最近のスザクの様子はおかしいのだから、刺激したら何をされるか分からない。それにルルーシュ自身もなんだか自分がおかしいと思うのだ。あんなに大好きだったスザクのことが、最近怖い。何がと問われれば分からないのだが、ふとした時にスザクが触れることを嫌と思ってしまうのだ。好きだ好きだと思えてたのに、なぜなんだろう。ルルーシュは僅かながらスザクと自分の間にある溝に気づいてしまった。スザクは気付かれてないと思っているかもしれないが、たまにスザクがルルーシュのことを鋭い視線で見ていることにルルーシュは気付いていた。何かしただろうかと思っても心当たりはセックスしかないし、もう邪魔としか思われてないのかもしれない。

(それは嫌だ・・・捨てられるのは・・・こわい・・・)

ルルーシュは痛む腰を押えて起き上った。先ほど昼食を持ってきてもらう時、ついでに鎮痛薬も頼んで持ってきてもらったのだ。幾分楽になった腰をかばいながらベッドから降りる。ずっと裸だったくせに、最近やけにこの格好が恥ずかしく思える。どれもこれも、記憶喪失を起こしてから変わってしまった。あの日を境にいいことが全くない。自分の人生は、うまくいってると思ったら転落する場合が多い。今回もそうなるかもしれないが、こんな環境がいいところを出ていくのは惜しかった。ルルーシュはシャワールームに掛けられていたワイシャツを着た。大きめサイズのそれはなんとか股間は隠れたが、動くと揺れて見えてしまう。見ず知らずの人間がこんな格好で歩いてきたら、誘われる人間も逃げてしまうだろう。他に何か着れるようなものはないだろうかとルルーシュは部屋の中を探し始めた。ここはスザクの部屋だからスザクの服ならいくらでもあった。だが、主人の服を勝手に着るのはどうかと思ったのだ。それに、行為で汚してしまう可能性が大いにある。洗い物はスザクがここにいる時にしか回収しに来ない。ワイシャツ一枚を着まわしてるルルーシュに出す洗濯ものなんてそれしかないからだ。もしシャツが汚れても全裸でいればいい、部屋の外にでないのだから。よってスザクの服を勝手に借りることはできないのである。ルルーシュは困りはて、ふとベッドのシーツを見た。ある程度の大きさのあるそれは使えるかもしれない。シーツだったらいくら汚しても自慰をしたと言い訳すればいい。ルルーシュはベッドからシーツを剥ぎ取った。大きなそれを何度か折って適当な大きさにする。どうするかと考え、巻いてみたり色々と試したが結局ワイシャツの上から羽織ることにした。シーツで巻いてもスカートのようになってしまい女に見えるのだ。女と勘違いされ落胆されるのは避けたい。シーツを羽織ったことでひざ裏まで体が隠れるようになった。ルルーシュは、今からするのはイケナイことだというとこにドキドキと緊張した。履くものは流石に代用できるものがなかったが、それくらいいいだろう。今まで近づくことのなかった扉に向かう。心臓が高鳴り、ドアノブに手を伸ばした。この部屋には基本的に鍵がかけられている。カードキーが主流の今時では珍しい、普通の金属で出来た鍵だ。外からこの部屋に入ってくる人はいつもそれで鍵を開けて入ってくる。入るときに開け、出ていく時に閉める。内側からは捻って鍵が開けられる、閉める時も同様。つまり誰かが部屋に来ない限り、ルルーシュが鍵を開けて出て行けば鍵は開けたままの状態になるのだ。この部屋によく出入りするナタリーだって晩飯の時間までは来ないはずだ。

(スザク・・・ごめんっ)

ルルーシュは意を決して鍵を開いた。ガチャリと何かが外れる音がし、ドアノブを捻ると簡単に扉は開いた。初めて出る扉の外に好奇心と恐怖が同じくらい湧き上がる。3センチほど開けてから隙間から目を覗かせる。どうやら誰もいないらしい。今度は頭が出るくらいまで扉を開け、廊下に顔を出した。周りを見回し誰もいないことを確認する。人通りが少ないとはいえ足音が聞こえるのだからここも人が通るのだ、あまりのんびり行動はしていられない。ルルーシュは音をたてないように廊下に出て、扉を閉めた。普通なら気にならない扉の閉まる音も、今のルルーシュには大きな音に聞こえる。

「わっ・・・すごい・・・」

足の裏に感じた、ふわっとした絨毯の柔らかさに感激する。思わず何度も踏みしめて感触を楽しんでしまう。子供のような行動だがどうせ誰も見てないだろう、それにこんなにふわふわした絨毯をルルーシュは見たことがなかったのだ。流石ブリタニア宮殿だなと思いルルーシュは足の指をにぎにぎと動かす。見張りならきっとそこらへんに居るだろう、こんなに広いのだから行為をするスペースのことは考えなくてもいいだろうなと、そんなことを考えながらルルーシュはもふもふとした絨毯を楽しみながら歩き始めた。柔らかい絨毯というものだけで、先ほどのスザクに対する罪悪感だとか部屋を抜け抜け出したという緊張感はルルーシュの頭から小鳥のように飛んで行ってしまった。





ナイトオブセブン、枢木スザクの部屋に"住民"が居るらしい。
ジノがそれを聞いたのは、つい先日のことだ。常日頃からボーダーレスに生きるジノは、見回りの兵士や身の回りを世話するメイドと広く知りあっていた。先日不注意からトリスタンの脚部を派手に壊してしまい、作戦に出れないジノは苦手な書類仕事をしていた。トリスタンに乗れなくなったのは自分のせいなのだが、終わることのない書類の山に嫌気がさすこともしばしば。そんな時は適当な兵を呼び出して、お喋りをするのだ。お喋りというと女性っぽく思うかもしれないが、お喋りはお喋りなのだから仕方がない。そして何度も会話のしたことのある兵を呼び、他愛もない話をしていたジノにその兵はある噂を言った。枢木卿の部屋に、誰かが住んでいるという噂があるということを。ジノはそのことに大変興味を持った。枢木スザクといえばナンバーズからラウンズに入ってきた新人だ。新人と言ってももうスザクがラウンズになってから幾らか過ぎているが。クールでとっつきにくい性格かと思いきや、年相応の反応をする彼。年も近いということでジノはよくスザクに絡んでいたが、スザクにそんな噂があったなんて知らなかった。

「なんでも、皇帝陛下からの、夜の贈り物って噂ですよ」
「皇帝からの・・・夜の贈り物ォ?なんだそれ?」
「男娼ですよ男娼!男らしいんですが、皇帝陛下が枢木卿にその男娼を送ったとかなんとか」
「・・・嘘くさい」
「本当ですって!皇帝陛下からのってのは本当かどうか分かりませんが、枢木卿の部屋に住民がいるのは確かですよ」
「男娼ねえ、あいつそんなに困ってなさそうに見えるけど、なんで男なんか・・・」
「さあ?でも、ものすごい美人らしいです。俺の彼女が言ってたんだから確かですよ!」
「あ〜・・・メイドのナタリーだっけ?」
「はい!あ、ちなみにこのことは秘密ですよ!見回り兵の中での噂なんで、それにナタリーにも誰にも言うなって言われてるし」
「ふうん・・・・・・なぁ、ちょっと頼みたいことがあるんだけどさ」

この日、EUへと向かったスザクを見送ったジノは見回り兵の服を着て廊下を歩いていた。本来ならばジノがそんな服を着ているのはおかしいし、書類仕事をやっている時間だ。ジノはあの噂を聞いた時、とてもそのことに興味を持った。ただの暇つぶし、というのもあったがあのスザクが個人的に男娼を部屋に囲っているタイプに見えなかったからだ。スザクが周りに隠していたその存在が見てみたかった。よく考えるとジノはスザクの部屋に入ったことがない。行こうとしてもやんわり断られてしまう。自分の部屋は見られたくないタイプなのかと思ってその時はそれで済ましていたが男娼の噂を聞いたあとだと、そりゃ部屋には入れられないよなと頷く。 あわよくばスザクをからかう会話の材料にしようと、ジノは噂を教えてくれた見回り兵にある頼みごとをしたのだ。それはスザクがいなくなる時に、少しでいいから服を貸してくれないかということだ。見回り兵の服などラウンズが手に入れようとしてもなかなか難しいのである。ジノの提案にその見回り兵は拒否することなく服を貸してくれた。そして書類仕事を抜け出す手伝いまでしてくれた。やはり持つべきものは人徳だとジノは思う。まずはジノはその噂の男娼に会おうと、ラウンズ達の部屋が並ぶそこへと向かった。基本的にラウンズの部屋は一か所に集められている。ほとんどの人間が寝るとき以外その部屋にいることはない。寝る時間だって、朝夜関係ないラウンズの仕事だから揃うことはない。ナンバー順に手前から並んでいる部屋。一つ一つの部屋の扉の間隔はとても広い。部屋が広いのだから当たり前だがナイトオブワンなど、この廊下の一番奥にある部屋だから行くのは大変だろう。

「さて、スザクの部屋は・・・」

スザクの部屋に勝手に入るわけにはいかない。鍵もかかっているだろうし、さすがに不法侵入なんて洒落にならない。だから、ジノはある作戦を考えてきていた。その作戦はこうだ。見回り兵に扮し、書類仕事から逃げ出したあと、スザク宛ての書類をいくつか拝借する。拝借した書類を急用のものだからと偽ってスザクの部屋に届けに行くのだ。もちろんスザクがEUに行ったと知らないふりをして。その住民とやらは部屋から出ることはないらしい。ジノはポケットに忍ばせたスザクの部屋の鍵を確認した。『書類を届けるため部屋に入ったら、そこで偶然その住民と会ってしまった』という計画だ。我ながら幼稚な作戦だと思い、ジノは手に持った書類を抱えなおした。スザクの部屋の位置を確認し、さあ作戦を開始するかとジノが歩き始めたその時。

ガチャ・・・

「っ!」

ジノは慌てて物陰に隠れた。何故なら、スザクの部屋の扉が開いたのだ。

(部屋から出ないんじゃなかったのかよ・・・!)

ジノは見つかると思い咄嗟に隠れてしまったが隠れる必要などないことに気づいた。自分は軍人で向こうは男娼、立場はこっちのほうが上だ。だが一回隠れてしまった以上変に出ていくのもおかしい。ジノは隠れなければよかったなと思いながら顔を覗かせた。遠くて顔まではよく見えないが、確かにスザクの部屋から誰か出てきた。その人物は扉から顔を出して辺りを見回しているようだ。

「へぇ、黒髪か」

てっきりスザクのことだから金髪の美少年でも囲っているのかと思ったが、その人物は黒髪のうえに年齢もスザクと同じくらいだ。何かシーツのようなものを羽織った彼が廊下に出てくる。何処かに行くのだろうかと彼をじっと観察した。すると、彼は絨毯に足をつけた瞬間声を上げた。

「わっ・・・すごい・・・」

何やら感動したような声、思ったより低い声にまた一つ彼のことを知る。彼は足を何度も上げたり下げたりして絨毯を踏みしめている。そんなに絨毯が気に入ったのだろうか、裸足の彼は絨毯を何度も何度も踏んでは感触を楽しんでいるようだ。

(意外と面白いやつなのかも・・・?)

ジノは絨毯をそんなにちゃんと見たことがなかったので、足もとに目をやった。しゃがんで撫でてみると、確かにふわふわして気持ちがいい。裸足で廊下を歩くなんてこと滅多にない(滅多に所か、普通はない)ので気付かなかったが、いい感触だ。新たな発見をし、身近にこんな発見だあるのだなとジノが一人思っていると、ふと絨毯に映った自分の影に何かが重なった。人の形をしたその影にジノが顔を上げる。

「ん・・・?うわっ!」
「わっ!?」

目の前に先ほどの人物が立っていた。どうやら絨毯を見ていた隙に彼は移動していたらしい。観察していた人物が急に目の前に現れ、ジノはびっくりして叫んでしまったが、その人物もジノのそんな声に驚いてしまったようだ。一歩後ずさり、ジノを不審な目で見ている。

「あ、す、すまない。驚かせるつもりはなかったんだが」

明らかに警戒している彼に、ジノは焦って言い訳をする。そして彼の格好を見て少し驚いた。シーツを羽織っているとはいえ、彼はワイシャツ一枚という格好なのだ。隙間からチラチラ見える足は折れそうなほど細い。顔をよく見ると、確かに美人だった。漆黒の黒髪に、透き通るようなアメジストの瞳。色白の肌が妖しさを醸し出している。それでも凛とした顔つきはストイックなのに、格好は男娼そのもの。そのギャップがなんと言えなかった。思わず見惚れてしまったジノを怪しげに見つめる彼はジノの気さくな話し方に肩の力を少し抜いたようだった。

「いや・・・別に、いい。お前、見回り兵か?」
「あー、うん。まあそんなところ」
「だったらこんなところで何をしてるんだ」

鋭い質問にジノは言葉に詰まった。書類を届けに来たと言えば、もしかしたら彼はそのまま部屋に戻っていってしまうかもしれない。せっかく話せたのだからもう少し捕まえておきたいし、何よりこんな美人な男をジノは見たことなかった。

「えーっと、サボり・・・かな」
「・・・」

とっさにでた言葉に、呆れた瞳で見られた。見回りなのにサボってるなんて、とその瞳が言っている。ジノは乾いた笑い声をあげながら、意外と真面目な人間なんだなと思った。先ほどの絨毯のように子供っぽいかと思えば、相手の隙を突くような鋭い質問。一筋縄じゃいかなそうだなとジノが期待に胸を膨らませると、彼はジノのことをじっと見つめ何かを考える仕草をした。突然考え出した彼にジノは首をかしげる。彼のほうが身長が低いのでどうしても見下ろす形になってしまうが、彼に上目使いで見つめられるのは悪い気分じゃない。

「・・・サボってるのなら、お前、時間あるよな?」
「え?あ、うん、まあ」
「そうか・・・・・・だったら」

スッと彼の目が細められる。なんだ?と思う前に彼を纏う空気の色が変わった。スイと近づかれ胸板に手を置かれる。体の輪郭を確かめられるように触られ、思わず退いてしまった。退いた体を追うことなく、彼の手はすぐに引かれた。そのままその手を自分の唇へと持っていき、唇をなぞるように撫でる。試すような目で見られ、ジノは唾を飲んだ。

「な、なに?」
「少し、練習相手をしてくれないか?」
「練習相手って何のかな」

見ず知らずの青年に惑わされまいとジノは全く分からないというふりをした。もちろん彼のしている行動の意味はジノは分かっている。ジノが分かっていながら分からないフリをしていることに、彼もまた気づいていた。そんなジノの言葉に彼は一瞬目を剥いたが、すぐにニッコリと笑って体を摺り寄せてきた。

「分かってるだろ・・・?」

背伸びをして耳元で囁かれる。彼の手がジノの太ももに触れた。近づいた彼の体を、ジノは片腕で支えた。面白い。ジノはそう思った。ジノから見て、この青年は頭がいいはずだ。洞察力もさながら相手を誘う方法を知っている。確かに一度味わったらハマりそうだ、とジノは今はEUに向かっているであろうスザクがこの青年を抱く姿を想像した。スザクは彼を抱いてその身体にハマってしまったのだろうか。そう考えてる間にも彼の手はジノの股間付近を行ったり来たりしていた。決してそこには直接触れないようにしているが、むず痒いような感覚がジノを興奮させる。

「じゃあ名前、教えてよ。教えてくれたら練習相手になってあげる」

ジノは空いた手で彼の顎をくいと上げた。目線が合うように覗きこめば、彼の驚きが走っているのが分かった。だがそれもやはりすぐに消え、彼の唇が三日月を描く。ジノを撫でていた手が止まり、抱きしめるように背中に手を回される。再び耳元に唇を寄せられ、ジノはその吐息に身震いした。

「ルルーシュ・・・ルルーシュだよ」

ルルーシュ。綺麗な名前だ。離れていった顔にジノは微笑むと、支えていた手を彼の腰に回して強く掴んだ。せっかく誘われたのだから、乗ってあげるべきだ。

「そう、私はジノ。なぁ、いい場所があるからそこに行かないか」

(悪いなスザク、ちょっと借りるだけだから)

心の中でスザクに謝り、ジノはこくりと頷いたルルーシュと一緒に近くの資料室へ向かった。ジノは掴んだ腰の細さに驚きつつも彼から香るいい匂いに自分の唇を舐めた。まるで狼がこれから食事をするかのように。スザクに届けるはずだった書類は、絨毯の上に置かれたままその場に放置された。



「ここ。電気はつける?」
「できれば、つけないでほしい」
「ん、分かった」

二人は第8資料室という所に来ていた。あの場所からすぐ近くにあるこの資料室は、滅多な事がない限り人の出入りはない。兵士達の格好のサボり場なのだが、好都合なことに今日は誰もいないらしい。ジノはルルーシュを中に入れると、こっそりとラウンズのカードキーを使って扉が開かないようにした。資料室だから埃っぽいのかと思えば、掃除の行き届いたそこは清潔だった。何が書いてあるのか分からない書類の棚を抜け、部屋の奥にある少し空いたスペースへと行く。高級なソファが2つ向かい合わせに置いてあり、その間にテーブリが置いてある。資料を読むためのものなのだろうそれを、ジノはソファを一つだけ残して端へと追いやった。ジノが移動させている間にルルーシュは羽織っていたシーツを綺麗に折りたたみ、汚れないように棚の上へと置いた。電気をつけていなくても相手の姿を確認できる程度の暗さ。空調は問題なし。隠れてするにはもってこいの場所だなとルルーシュは思った。

「ところで、ジノ、お前男の経験は?」
「ん?ないよ」
「・・・」
「いやっ、でも相手がルルーシュならきっと大丈夫だと思う。たぶん。」
「途中で萎えたとか言ったら許さないからな」

いやきっとそれはないと思う。ジノは先ほどからルルーシュの身体を早く味わってみたくてそわそわしているのだ。確かに男に突っ込んだ経験も突っ込まれた経験もないが、それでも何となくだがジノはルルーシュ相手だったら大丈夫だろうと思った。女性では膣を使うのが肛門に変わっただけだと軽く考えればいい。突っ込まれるのは御免だが、是非ともルルーシュには突っ込んでみたい。と心の中だけで語ってみる。

「ところで、練習相手って何すればいいの?」
「ああ・・・最近セックスがうまくいかなくて」

はあ、とため息をついてルルーシュが悩んでいるように言う。ジノはあっさりとセックスなんて言葉を吐くルルーシュの手を取った。。ジノはジノの体格でも余裕ができるそのソファに座り、自分の膝にまたがせるようにルルーシュを座らせる。

「どうして?というか、ルルーシュはスザクの部屋から出てきたけど、どんな関係なの?」
「スザク・・・?」

馴れ馴れしい名前呼びにルルーシュは怪しげにジノを見た。その視線に、自分は見回り兵という設定だったことを思い出しジノは慌てた。

「ほら、枢木卿の部屋から出てきたの見えたから」
「・・・俺は、スザクの慰み者だよ」
「へえ・・・」

どうやら噂は本当らしいと、ジノは改めて確信した。ルルーシュがスザクの慰み者ということは、セックスがうまくいかないというのはスザクとのセックスがうまくいかないということらしい。男娼ではなく慰み者という言葉、ジノにとって初めて聞く言葉だ。日本独特の言い方なのだろうか。意味は分からなかったがニュアンスからして男娼と同じ意味なのだろう。下着を着けていないため、跨り拡げられたルルーシュの股間がジノからは丸見えだ。

「セックスがうまくいかないって、どうして?枢木卿は下手なのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ、この前からどうしても身体が受け付けなくて・・・」

身体が受け付けない。まさか慰み者なのにそんなことはないだろうとジノは冗談かと思ったが、ルルーシュの深刻そうな顔を見ると冗談ではないことが分かった。ジノはルルーシュの腰を掴んで、シャツの中を弄る様にその肌を撫で回した。ジノの指がルルーシュの胸の飾りに触れると、ルルーリュの体がピクンと動いた。小さく声を漏らしたルルーシュに、ジノは不感症になったというわけではなさそうだと考えた。

「どうして、なにかあったの?」
「実は先日ベッドから落ちて記憶喪失になったんだ」
「えっ、記憶喪失?大丈夫なのか?」
「ああ、一時的なものだから心配ない。でもその日からセックスしようとすると身体が拒否反応を起こしてしまうんだ」

拒否反応を起こすということは、今こうやっているのもルルーシュにとっては気持ちの悪いことなのだろうか?ジノはルルーシュの表情を探ると、その表情の中に少しだけ嫌悪のようなものがあるのに気づいた。ルルーシュの体も、無意識なのだろう、拒絶するように退いている。

「じゃあ練習っていうのは・・・」
「ああ、俺が慣れるようにセックスの練習相手になってほしいんだ。このままじゃ、俺は捨てられてしまう・・・」
「まあセックスのできない慰み者なんて意味ないからな」
「だろう。だから、俺が嫌がっても無理やりでいいからシてほしいんだ」

ルルーシュの手がジノの頬に触れる。真剣なルルーシュの瞳、捨てられることに怯えている。ルルーシュのその手をジノは掴んで問いかけた。

「いいの?私が無理やりしたら、ルルーシュ泣いちゃうかもよ」
「かまわない。その、できればフェラの練習もさせてほしいんだが、だめか?」

可愛らしく首をコテンと傾かせ聞かれれば拒否することなんてできない。ジノは二つ返事でOKした。ルルーシュに負担をかけないようにゆっくりを責め立てることにしたジノは、まず慣れさせることを考えてルルーシュの胸に手を伸ばした。外気に触れて寒そうにツンと立つをそれをキュッと握る。ルルーシュの体が跳ねた。

「でもいいのか?私とこんなことしたことがバレたら枢木卿に怒られるんじゃないか?」
「んっ・・・かまわない・・・でも、捨てられるのはっ・・・困るな・・・っ」
「他に買ってくれる人はいないの?」

コリコリとシコリを解すようにジノが手を動かす。リラックスできるようにと話しかけながらするが、快感に悶えながらも返答してくるルルーシュは予想以上に色っぽかった。痛いほど先端を握ったあと、手前に引っ張ってみる。サディスティックなその行動にルルーシュはひと鳴きした。

「俺は・・・ここに来る前には日本にいたから・・・んぅっ・・・ツテがないんだ・・・あっ!」
「へえ!エリア11に居たんだ。それじゃあこっちで探すのは大変だね」

ジノは掴んでいたそれをパッと離す。エリア11にいたから、エリア11出身のスザクに買われたのかな?と思いながらジノはルルーシュの体を引き寄せた。少々息が弾んでいるルルーシュの胸に顔を近づけ、弄り過ぎてぷっくりと色づいたそれを舐めた。ねっとりと舐め上げるとルルーシュの手がジノの髪の毛を掴んだ。抵抗があるのかジノの顔を離そうとしている。きっと無意識な行動なのだろうとジノは音を立ててそれを強く吸い上げた。

「ひ、ぃっ!!!」
「ねえ、もし枢木卿に捨てられたら・・・私が買ってもいいかい?」
「んっ・・・お、まえ・・・が・・・?」
「そう、こう見えてお金もたくさん持ってるんだ」

敏感なルルーシュの反応。そのひとつひとつにジノは煽られるのが分かった。貴族女性とのセックスだってこんなには興奮しなかった。最近ご無沙汰だったということもあるが、それ以上にルルーシュの身体は魅力的だ。スザクに捨てられることを恐れるルルーシュに、もしルルーシュがスザクに捨てられたら自分がルルーシュを買いたいと思ってしまったのだ。ジノのその言葉にルルーシュは戸惑った。

「で、も・・・見回り兵の金なんて・・・っん・・・・高が知れるだ・・・ろう・・・っ!」

ルルーシュの言葉に見下されたような気がして、ジノは舐めていたそれに歯を立てた。突然のことにルルーシュが思わずひときわ大きな声を上げてしまう。どうやらルルーシュにはマゾヒストの血があるらしい。噛んでしまったそれを労わる様に再び舐めるとルルーシュはくぐもった声で喘いだ。ルルーシュからしてみればそれは飴と鞭のようで、頭では何度も経験したことのあることだと分かっているのに身体はまるで初めてのように揺れた。首を縦に振らないルルーシュにジノはポケットにしまってあったそれに手を伸ばした。

「じゃあ、高が知れてなかったらいいんだよな?」
「ふぅ・・・っ・・・な、に・・・?」

ルルーシュの胸を攻めるのを一旦止め、ジノはポケットからそれを取り出しルルーシュの顔面に突きつけた。ラウンズの証明書、これを出すつもりはなかったがルルーシュはどうやらジノを本気にさせてしまったらしい。ルルーシュは一瞬突きつけられたものが何か分からなかったが、それに書いてある文字を読んだ途端目を見開いた。その証明書には丁寧に顔写真付きでこう書かれていた。『ナイトオブスリー ジノ・ヴァインベルグ』と。証明書の顔写真の男はまさに目の前で自分を抱いている男とそっくりで、名前も同じなのだ。

「なっ、お前・・・んむっ!」

ルルーシュが抗議するように口を開いた。その隙を狙ってジノは証明書を横に投げ捨て、片手でルルーシュの後頭部を掴みその唇へと食らいついた。ルルーシュの口が閉じる前にその口内へ舌をねじ込ませる。熱くぬめったものが口内に入ってきたことにルルーシュは成す術もなく、あっという間に舌を絡めとられた。ジノの身体を離そうと両手でジノの肩を押すがびくともしない。口内を暴れまわる舌にルルーシュは騙されたと心の中で舌打ちをした。廊下で暇そうにしゃがんでいるし、軍服も下級兵のようだったから手頃だと思い誘ったがとんだ伏兵だった。スザクと同じラウンズ、しかもスリー。ルルーシュはスザク以外のラウンズは知らなかったがきっとスザクのように落ち着いた人間のできた人たちばかりなのだろうと思っていたのに、こんなに節操のないやつがいるなんて。下級兵なら適当に口止めしておけばいいだろうと思っていたのに、ラウンズじゃ脅すこともできない。スリーということはセブンのスザクより立場が上だ。

「ん、ふぁ・・・んぅ・・・」

巧みな舌使いに頭がぼうっとしてきた。こんなキスひとつで身体が熱くなるなんて、とルルーシュは自分の身体を呪った。ジノは暫しの間ルルーシュの唇を堪能すると最後にちゅ、と音をたてて唇を離した。苦しそうに酸素を吸うルルーシュの顔は、酸欠のせいか別の理由か分からないが真っ赤に染まっていた。ルルーシュの唇の端からぽたりと唾が垂れる。

「たくさんお金持ってるって言っただろう?」
「ナイトオブスリーだなんて聞いてない!お前、見回り兵だって・・・」
「それは嘘。本当はルルーシュに会うためにあそこにいたんだ」
「俺に・・・っ?」

ジノがルルーシュの身体を抱きよせ、寄りかからせるような体勢にする。ルルーシュは抵抗することもできず、諦めてジノの厚い胸板に身体を預けた。よく考えれば見回り兵にしては身体がよく鍛えられている。それに雰囲気だって、下級というよりは上級だ。それに気付かなかった自分のミスだとルルーシュは悔しく思った。ジノがルルーシュの耳元で低く甘く囁く。

「スザクが男娼を囲ってるって噂があったから、確かめに行ったんだよ」
「っ耳元で・・・喋るなっ!」
「そしたらルルーシュが出てきたんだ。ね、スザクに捨てられるのが怖いなら私のとこにおいでよ」
「やっ・・・」

ルルーシュの小さな耳たぶをジノが食む。ジノの息遣いが脳に直接響くようで、ルルーシュは背中に甘い感じた。仰け反るルルーシュの身体を押さえつけてジノが言う。

「ルルーシュのこと、気に入ったんだ。スザクには勿体ない」
「でも・・・俺は・・・あっ」
「どうしてだい?もしかして、スザクのことが好きなのか?」
「そうじゃないっ・・・スザクには・・・助けてもらったから・・・っ」
「助けて・・・?」

ルルーシュの言葉に、ジノはぴたりと止まった。ルルーシュが上半身を起してジノの耳攻めから逃げた。助けてもらったということはどういうことなのかとルルーシュ問うと、ルルーシュは過去にあったことを簡単にジノに話した。ブラックリベリオンに巻き込まれた時にスザクに助けてもらったことを。ルルーシュの説明にジノはあれ?と疑問に思う。

「でもスザクがラウンズに入ったのってブラックリベリオンのすぐあとだったような気がするんだが」
「それがどうしたんだ?」
「いや、時期が合わないような気がして」
「・・・?」

ブラックリベリオンの時、スザクはまだラウンズ入りをしていない。ブラックリベリオン時にゼロを捕えてラウンズ入りした彼なのだ、ルルーシュを助ける余裕などあったのだろうか。ルルーシュの説明だと目が覚めた時にスザクに会いラウンズだと知ったと言ったが、ラウンズ入りした直後の彼はとても忙しくて病院なんかに見舞いにいく余裕なんてあったのだろうか?なんだか矛盾した部分があるような気がしたが、ルルーシュは全く分かっていないようだった。

「・・・まあ、いっか。じゃあルルーシュはスザクが命の恩人だから私のところには来れないっていうのか?」
「ああ、スザクが助けてくれなかったら死んでいたから。それに本もくれるし」
「本?」
「スザクは俺に本を読ませてくれる。それにここは何もかもが全て綺麗だ。俺はストリートチルドレンだったから・・・」
「ストリートチルドレンって・・・」
「・・・」

ルルーシュは口が滑ったとでもいうような表情を浮かべた。それ以上のことを話そうとしないルルーシュに、ジノはルルーシュの抱える闇に気づいた。ルルーシュのことを知るたびに、ルルーシュに惹かれているのがジノには分かった。美貌もさることながらミステリアスな"ルルーシュ"という人間の不思議さ。全く掴めないルルーシュの言動に、ジノはすっかりはまり込んでしまった。軽い沈黙が流れ、ジノは気まずそうに視線を逸らすルルーシュの尻を加減した力で叩いた。

「ひっ!」
「分かった、それ以上のことは聞かないよ。でもルルーシュが私にその続きを話してくれるまで口説くのは、いいよな?」
「ジノ・・・っ」
「本当にスザクには勿体ないよ・・・」

そう呟くとジノは放置されて少し鎮まってしまったルルーシュ自身に初めて触れた。急に行為を再開し始めたジノにルルーシュは身を捩った。遠慮なしに掴まれて乱暴に擦られる。早急な刺激にルルーシュはジノの肩を強く掴んだ。

「私はスザクからルルーシュを奪う、覚悟しておいてくれよ」
「あ、あ、う、やっ、ジ、ノ・・・ッ!」

ぶるぶると震えるるルルーシュの身体を持ち上げ、ジノはくるりと態勢を変えた。ルルーシュをソファに座らせ、覆いかぶさるように押し倒す。ルルーシュは後ろに下がろうにもソファの背もたれのせいでそれ以上逃げることができない。ルルーシュの細い両足首を掴んで股を割る様に広げた。ソファの手すり部分に膝の裏をひっかけて大きく広げる。ルルーシュが恥ずかしさに股を閉める前にジノは身体を割り入れて閉めないようにした。

「やだ、こんな・・・っ」
「無理やりでもいいからしてほしいんだろ?」

ルルーシュの顎を掴んで自分のほうへ向かせる。僅かながら怯えの走ったルルーシュの瞳に、ジノは安心させるようにルルーシュの頭を撫でた。片手はルルーシュ自身を再び握り先端の窄まりに指を押し当てる。ビクンとルルーシュの身体が跳ねるのをジノは楽しそうに見つめ、言った。

「ルルーシュがセックスに慣れるまで、付き合ってあげるからな」