僕が彼に求めていたのは、贖罪という名の死だった。
まさに魔の王となった彼が犯してきた罪をその身をもって償ってほしかった。 そう言ったら、言葉は綺麗だ。だが本心は違う。贖罪だとか償いだとか、そんなことより自分の目の前から消えてほしかっただけなのだ。 彼を自分の目の前から消すには贖罪という言葉が必要だった。死という結果が必要だった。 銃を向け合ったあの瞬間、確かに僕は彼を殺そうとしていた。でもこの手はこの身体は、彼を殺さなかった。殺さずに拘束して、皇帝の前に突き出していた。それが何故だかは分かっている。それは、僕が彼を好きだからだ。僕は彼を好きだったから殺さなかった。けれど、僕は彼を嫌いでもあった。相対する二つの思いがぶつかり合って、どちらかに決めないといけないと分かっていても一つだけを選べなかったのだ。彼は僕に殺してくれと叫んでいたが彼を好きな僕は彼を殺したくなかった、でもそれだけじゃ彼を嫌いな僕は満足しなかったから彼の一番嫌いな奴の前に彼を突きだすことにした。そうして僕の中にある二つの気持ちが思うままに行動していたら、どうやら僕はとても酷いことをしてしまったらしい。僕は欲張りだった。地位も名誉も彼も欲しくて、どれも捨てることができなくて。だから皇帝が彼の記憶を改竄すると言ったとき、つい願ってしまったのだ。

「ルルーシュが僕に逆らわないように、記憶を改竄してください」

そう僕が言った時の彼の絶望した表情と、皇帝の深い笑みは今も記憶に焼き付いて離れない。


初めて味わった彼の身体は、今まで抱いたどの女よりも柔らかく、今まで抱いたどの女よりも興奮し、今まで抱いたどの女よりも感じた。何でこんな記憶になってしまったのだろうと後悔していた矢先に彼に求められて、彼の押しに勝てず彼を抱いたのだ。初めてであろう彼は改竄された記憶のせいで積極的に迫ってきてはいたが、性器を挿入した途端に痛いだの嫌だの叫び始めた。彼のことは好きだったから傷つけたくなかったが、でも彼が嫌がる姿を見ると無性に興奮した。だから初めての一回は中で出した。でも射精して思考が落ち着いたら、後悔が倍になって押し寄せた。自分は何をやっているのだろう、彼に求めているのはこういうものではないのに。贖罪、償い、そんな言葉ばかりが頭の中を廻る。初めての挿入と中に出されたショックで彼は気絶してしまい、彼との、ルルーシュとの初めてはそれで終わった。

『スザク、今日はもう仕事はないのか?』
『スザク、ほらこの本見てみろよ』
『スザク、一緒にシャワー浴びないか』
『スザク、そんなにくっつくなよ』
『スザク、抱いて』
『スザク、好き』

あの日から始まったルルーシュとの日々。記憶を改竄されたルルーシュは、僕の願いどおり僕に逆らうことはなかった。慰み者として僕を主人と認識し、まるで昔のように穏やかな表情で僕に話しかけてくる。嬉しかったが正直戸惑いの方が大きかった。記憶の改竄のおかげでルルーシュはゼロの時の記憶はおろかナナリーのことさえ覚えていない。ルルーシュはストリートチルドレンでエリア11に居たがブラックリベリオンの時に僕に助けられて買われたという"設定"らしい。家族はいるのかと聞いた僕にルルーシュは可笑しそうに笑った。

『家族なんているわけないじゃないか』

それを聞いた時、ナナリーの姿を思い出して僕は悲しくなった。ルルーシュの中にナナリーはいない。ナナリーの中のルルーシュも、行方不明ということになっている。可哀想な兄妹、近くにいるのに互いの存在に気づけないまま。そうしたのは誰だと問えば答えは僕なのだが。慰み者となったルルーシュとの生活は、幸せすぎるほど穏やかだった。相変わらず僕は戦場に出ていたが、帰るとルルーシュが待っていてくれるという安心感から以前のように情緒不安定になることがなくなった。身体の関係を意識しているルルーシュは僕にそういう目線をチラチラを送ってくるが、僕はそれに気づかないふりをする。一度目は勢いでやってしまったようなものだったので、二度目はちゃんとしたかったのだ。それで気持ちを整え二度目に及んだ時、ある事に気づいた。不意に僕を見るルルーシュの目が、怯えているのだ。僕がルルーシュに触れるたびその身体は快楽とは別の感情でビクリと揺れるし、身体を密着させると無意識のうちに逃げようとする。口は求めているのに身体は拒絶している。やはり記憶だけをいじっても身体は覚えている、ということなのだろう。ルルーシュもそれに気づいているようで、最も、記憶を改竄された彼は己の行動に混乱するだけだったが。結局ルルーシュと性行為を何度もしたが、挿入したのは数えても5回程度だ。殆どはルルーシュが僕のを口で処理して終わる。プライドの高かった彼が僕の股の間に膝まづいて浅ましく性器を口に含んでる姿はとても見物だったが、きっと内心では吐き気をおさえているのだろうなと思った。申し訳ないという気持ちと反対にざまぁみろという気持ちが同時に湧き上がる。ゼロなんて愚かな仮面を被らなければ、僕がずっと守ってあげていたのに。自分から檻を抜け出して、自由だと思いたかったのだろうか。ルルーシュについているいくつもの足枷を僕は知っている。皇族とか、過去の事件とか、皇帝に対する怒りとか、ナナリーとか。その足枷がある限りルルーシュは僕のものにならないと気づいていたから、でもその足枷は外れることはないと知っていたから昔の僕はルルーシュに思いを告げなかった。相手に伝わらない思いなど、言わない方がいい。自分が傷つく結果が見えているのに、傷つきに行きたくはない。・・・そう思っていたのが間違いだったのだ。ルルーシュは足枷がついているにも関わらず、継ぎ接ぎの翼で飛び立とうとしてしまった。絶対遵守の力を片方の翼に、黒の騎士団をもう片方の翼に。ルルーシュは自分が、そんなに長さのない鎖で繋がれていることを知らなかった。だからルルーシュは飛び立つのに失敗し、多くの命を奪ってしまった。その奪った命の中に、ユフィが居た。敬愛していた彼女を殺され、怒り狂った僕はルルーシュの翼を力任せに無理やりもいだ。お前なんか飛ばなくていい、飛ぶ権利なんてお前にはない。翼を亡くしたルルーシュには罪しか残らず、僕はルルーシュの全てを消した。翼の生えていたあとから足枷まで全て。そして生まれ変わったルルーシュを僕は手にした。間違った手段だって分かっている。分かっているけど、僕は自分の欲に勝てなかった。忌わしい記憶を全てを失くしたルルーシュを自分のものにできるのなら、僕は。



「ルルーシュあのね、僕明日からEUに行くんだ」
「えっ・・・EU?」
「うん、たぶん一週間くらいで戻ってこれると思うだけど」
「ああ、分かったよ。一週間か・・・お前が一週間もいないと思うと寂しいな」
「そういうのはベッドから起き上がれるようになってから言ってくれると嬉しいな」

僕がそう言うと、ルルーシュは恥ずかしそうに視線を逸らした。ベッドの中で寄せ合うようにして眠る僕らは、ついさっきまでそういう行為をしていた。やはり最後はルルーシュが口でしてくれるだけで終わったが、最初少しばかり挿入してしまったせいでルルーシュが腰を痛めてしまったのだ。少し血が出て炎症してしまったそこに薬を塗ってあげると、ルルーシュはふるりと身体を震わせた。照明を暗くした部屋の中は天井の四隅と中央に小さな明かりが灯っているだけで、あとは窓から射す月の光がうっすらと床に影を作っている。ルルーシュの漆黒の髪を撫でると、ルルーシュは犬のように僕の手に顔をこすりつけてきた。愛しいその行動に笑みがこぼれる。ずっとこうしたかった。

「食事だけは運ばせるから、大人しく部屋で待っててね」
「ああ、一週間か・・・何をしていようかな・・・」
「まだ読んでない本があったでしょう?出発する前にまた何冊か持ってきてあげるからさ」
「そうだな、そうしてるよ」

一週間もの間ここを不在にすることは初めてで、少し不安があった。もし僕のいない間に記憶が戻ったらどうしようとか、逃げ出したりしないだろうかとか。この部屋は生憎カードロック式ではない。内側からなら簡単に開けられてしまうのだ。本当はルルーシュが意識を取り戻す前に部屋の鍵を取換えようと思っていたのだが、先にルルーシュが目覚めてしまいなんとなく機会を逃していた。EUから戻ってきてからでもいいから鍵だけは交換しておこうか。そんなことを考えていると、ルルーシュに手を握られた。ハッとしてルルーシュを見ると、ルルーシュは枕に頭を摺り寄せながらこっちを見ている。

「戦場は辛いだろうけど、頑張れよ。俺はここで待ってるから・・・」

まさかそんなことを言われると思わず、唖然としていたらルルーシュは瞼を閉じてしまった。握られた手は外されないまま聞こえてきた寝息に、いつの間にか緊張していた身体の力が抜ける。体温が伝わる距離にいるのに、不自然に近づいた心の距離に違和感を感じざるを得ない。確かに求めていたのはこれそのものだ。いつでもルルーシュが自分のことを待っていてくれるという、頭に何度も描いた理想の関係。それなのに、心に突っかかるトゲのようなものはなんだ?

「・・・僕は・・・僕は・・・」

空いた手でルルーシュの左目瞼を撫でる。今は力を失くした悪魔の瞳。皇帝は言った、もしまたこの瞳が赤く染まったら、その時が終りの合図だと。ゼロだったルルーシュを絶対に見放さない人物が1人だけいる。C.C.、彼女はルルーシュと"契約"をした。ルルーシュが生きている限り、彼女は必ずルルーシュの前に姿を現す。たとえそこがブリタニア宮殿であろうと。皇帝はルルーシュを取り戻しにきたC.C.を捕まえるつもりらしい。何故皇帝がC.C.を欲しているのかは知らない。けれど今のルルーシュにとっての"本当"は今やC.C.だけなのだ、もし彼女とルルーシュが接触しルルーシュの記憶が戻ったりなどしたら・・・。考えただけでゾッとする。握られていた手をそっと解き、すやすやと眠るルルーシュの細い体を抱きよせた。やっと手に入れた存在なのに、やっと僕だけのものになったのに。いつかくる終わりを想像すると怖くてたまらない。ルルーシュにとっては記憶は戻った方がいいのだろう。でも、記憶を戻したらルルーシュはきっと僕のことが嫌いになる。嫌だ、嫌われたくない。さんざん酷いことしてきて、言っていいことじゃないかもしれないけどルルーシュに嫌われたくない。僕がルルーシュを嫌いになるのはいいけど、ルルーシュには嫌われたくないという自己中心的な考え。記憶と共に歪んでしまった関係に縋るのは、間違っているんだろうか。




ランスロットから降りると、ちょうどアーニャがモルドレッドの整備に立ち会っているところだった。格納庫からロイドさん達の所へ送られるであろう僕の機体は、EUから帰って来たばかりでまだエンジン部分に熱を持っている。鎮圧も終わり本当はそのまま外交の仕事へと回される予定だったのだが、外交の仕事が急きょ中止になった。なんでも相手国内で大規模な内乱が起ったらしく、外交などできる状態ではなくなってしまったのだ。生憎、そこまで外交の進んだ国ではなかったので内乱までは面倒みれない。ルルーシュのこともありさっさと帰りたかった僕は、航空母艦から一足先にランスロットでブリタニア帰って来た。ロイドさん達は航空母艦に乗っていたので、空母が帰ってこない限りランスロットの本格的な整備はできなさそうだ。忙しく走り回る人たちの邪魔にならないように出口へ向かう。ふと見ると、ジノのトリスタンの脚部が置いてあるのが見えた。そういえばEUへ行く時にジノが見送りに来てくれたなと思いだす。脚部を壊してしまい本部待機になってしまったジノが書類仕事は嫌だと愚痴っていたような気がする。

(そういえば見送りの時やけに機嫌が良かったけど・・・)

嫌いな書類仕事をやるというのに何故機嫌がよかったのだろうと今になって疑問に思う。確かラウンズはあの日から日数は少なくともジノ以外は全員出払っていたはずだ。ふつりと胸の奥に何か嫌な予感が沸く。いやまさか、ただの気にし過ぎだろう。それに部屋にはちゃんと鍵をかけてあるし、メイドにだって口止めをしてある。ルルーシュが自分からあの部屋を出るとも思わないし、きっとジノの機嫌はルルーシュとは何の関係もないことだ。離れていたため少し神経質になってしまったかなと自分の心配性に苦笑しながらも、格納庫を出た。まずは皇帝へ報告に行ったのち報告書を提出しなければならない。兵士を呼び出し帰還した趣旨を述べると、皇帝は来客中だという。ならば報告は空いた時間にでもすればいいかと、既にランスロット内で書いてしまった報告書を提出した。午前中に帰ってこれたから午後は何もないかと思いきや、報告書を提出した代わりに書類の束を受け取らされた。

「これは?」
「枢木卿の本日午後の仕事内容で御座います」
「書類仕事はヴァインベルグ卿がやっていたのでは?」
「ヴァインベルグ卿が仕事を怠慢致しまして、期限が迫っている書類も御座いますので・・・」
「・・・ヴァインベルグ卿は今何処に」
「ノネット卿が執務室へ、恐らく本日は出れ来れないのではないかと」
「そうか、分かった。仕事は自室でする、何かあったら連絡をしてくれ」
「かしこまりました」

一礼をして去って行った女性の後ろ姿を眺めながらため息をつく。全くジノは何をやっていたんだ。書類嫌いだと言っても、これは職務怠慢だ。ジノらしくない行動にどうかしたのだろうかと思いながらも、手の中に増えた書類をめくる。幸い、そんなに難しそうなものではないようだ。あと20分もすれば昼食の時間になる。ルルーシュと昼食を取った後に書類仕事をすればいいか、そう思って私室へと足早に向かう。なんだか急いでしまうのは、さっきから晴れない不安が積もっているからだ。特定の心配要素はなかったはずなのに、帰ってきたら急に心臓がドキドキし始めた。何が心配だというのだ、何も心配することなんてないじゃないか。自分にそう言い聞かせるが、嫌な予感は大きくなるばかり。早くこのもやを消し去りたくて、部屋の前まで走った。

「・・・っはぁ、・・・・・・」

戦闘疲れで少しだるい身体を走らせたせいで、息がつまった。でもすぐに整えて鍵に手を伸ばす。ポケットから金色の鍵を取り出し、鍵を開けた。鍵の開くガチャリという音が鳴り、ノブを回すと扉が開いた。ルルーシュはもう起きて、本を読んでいるだろう。ルルーシュはいつだって規則正しい生活をしていたから、夜に性行為をしない時はいつも早起きだった。だからきっともう起きているだろうなと部屋に入ると、部屋は薄暗いままだった。

「ルルーシュ?」

何故部屋が暗いのだろうと中央のベッドに視線を向ける。ベッドの上の不自然な膨らみに気づき、音をたてないようにゆっくり扉を閉め鍵をかけた。足音もできるだけ静かにベッドに近づく。マントだけ脱いで近くの椅子にかけるとベッドを覗き込んだ。

「・・・ルルーシュ・・・寝てる・・・」

何日ぶりにあったルルーシュはシャツ姿のままで眠っていた。この時間になっても起きないなんて彼にしては珍しいなと思いつつ、久し振りの顔に頬が緩む。起こさないようにそっとベッドに腰かけると、体重の重みで少しベッドが傾いた。しかしそのくらいの傾きではルルーシュが起きないことを知っているので、手を伸ばし顔にかかっていた髪の毛を払う。

「少し痩せたかな・・・ご飯食べてるのかな・・・」

食事というものに拘らないルルーシュは放っておくと食事を抜いてしまう。水とある程度空腹を満たすものがあればそれだけでいい、なんて言っていたけどそんなんじゃ身体に悪い。病的に白い肌を撫でるとルルーシュのうっすらと開いた口から小さな声が漏れた。それが面白くてついついルルーシュの首筋へと手を伸ばしてしまう。漆黒の髪をかきわけるようにしてうなじをなぞると、ルルーシュが眉をよせて身じろぐ。

「ん・・・ぅ・・・・」
「ルルーシュ、起きて・・・」
「・・・ぁ・・・や・・・」
「ほら、帰ってきたよ・・・ねえ、起きてってば・・・」

ルルーシュの肩をやんわりと掴んで揺らす。いつもなら少し揺らしただけで起きるのに、何故かルルーシュは唸るだけでなかなか起きない。早くおかえりって言ってもらいたくて、きっちりとボタンの閉められたシャツに下から手を入れる。するとルルーシュの目がわずかに開かれた。それでも完璧には起きていないようで、ぼんやりとした目を何度もパチパチとさせている。焦点の合っていない目がうろうろと宙を見ていた。僕は薄い胸板を撫でまわしながらルルーシュに覆いかぶさった。耳元に口を近づけて耳たぶと食む。これで起きるだろうと内心ほくそ笑んでいた僕の考えは、次の瞬間、ルルーシュの口から発せられた言葉によって止まる。


「あ・・・っ・・・ジノ・・・今日は・・・もうしないって、言っただろ・・・」


自分の耳を疑わずにはいられなかった。今ルルーシュは何と言った?ジノ?今日は、もうしないって、?ルルーシュは無意識で言ったらしい。開かれていた瞼がまた閉じようとしている。停止した脳が動き出し、導き出した答え、それは。僕は急に思考が底冷えていくのが分かった。さっきまで浮かべていた暖かな笑みは一瞬にして消え、覆いかぶさっていた身体を起こし乱暴に毛布をはぎ取る。バサリと大きな音をたてながら床に落ちた毛布。肩を強く掴んでルルーシュを仰向けにするとシャツを、思い切り引き千切った。

「・・・っ!?・・・ス、ザ・・・?」

突然シャツを破かれたことでまどろんでいた意識が覚醒したのか、ルルーシュは驚いたように目を見開いていた。シャツのボタンが全て弾け飛ぶ。無残に飛び散ったボタン達が床に落ちて弾けていく。ルルーシュに馬乗りになって、その白い身体を見下ろす。鎖骨辺りに見覚えのない赤い痕を見つけ、その部分を親指で抉るようにして引っ掻いた。

「いっ・・・」
「ねえルルーシュ、これ、なに?」

いっそ恐ろしく感じるほどの冷たい笑顔で問いかけると、ルルーシュの顔が凍った。なあに、その、身に覚えがあるって顔は。無性にムカついて僕は右手を大きく振り上げると無防備なその頬を叩いた。風船が割れたみたいな破裂音がしてルルーシュの顔が左に曲がる。未だに目を見開いたままのルルーシュは、ゆるゆると視線を上げて僕を見た。唇が震えている。

「スザ・・・ク・・・」
「なに?僕がいない間、楽しかった?僕、言ったよね?"大人しく部屋で待ってて"って・・・さっ!」

ルルーシュの前髪を鷲掴みにして持ち上げると、ルルーシュがバタバタと抵抗した。叩いただけであっという間に赤くなった頬は少々腫れているようだ。か細い両腕が前髪を掴む僕の手を放させようと必死にもがいている。いっそ折ってしまいたいほどの非力な腕に何ができるというのだ。そんなに放して欲しいなら放してやるよ。僕は持ち上げた腕をそのまま下に振り落とし、枕へルルーシュの頭を叩きつけた。もちろんベッドの上、しかも枕だから打撃も痛みも何もない。でも急に首がガクンと後ろに行ったものだから、ルルーシュはびっくりしたようだ。手を離すと僕はかろうじて残っていたルルーシュのシャツに手をかけ、包帯くらいの細さに引き裂く。ピリピリとシャツが破ける音は、酷く、耳障りだ。

「なんで僕の言うこと聞けなかったの?ねえ、誘惑したの?ジノをさ」
「ど・・・っ・・・して・・・ジノ、だ・・って・っ」
「どうしてだって?ハッ、君が言ったんじゃないか!『ジノ、今日はもうしないって言っただろ』って!」

頭を押さえるルルーシュの両手を掴み取り引き裂いたシャツを使ってベッドの、パイプのようになっているヘッドボードへと縛り付けた。手首を一纏めにしてから頭の上に来るようにしてギチギチに縛る。手を拘束されルルーシュは青ざめていた。自由な足をバタバタと動かしているが、馬乗りになっている僕には関係ない。着ていた上着を着崩し、詰めていた襟のボタンを外す。僕を待っていてくれると言っていたのに、あの言葉は嘘だったのか?

「何が僕が一週間もいないと思うと寂しい、だよ。ルルーシュは僕なんかいなくったって、かまってもらえる相手がいたんでしょう?」
「ちっ、違う!これは!」
「股開いて男でも誘惑してたわけ?よかったね、ジノみたいに良い男がひっかかってくれて!」
「スザク!話を聞いてくれ!」
「言い訳は聞かないよ。君は僕との約束を破ったんだ。いい機会だからちゃんと教えておこうかな、君は僕に逆らっちゃいけないってことをさ・・・」

僕はルルーシュに会いたくて早く帰ってきたというのに、ルルーシュは僕なんかどうでもよかったんだ。あんなに好きだと言っていたのも、全部ウソだったんだ。そう思うと手が止まらなかった。抵抗もできないルルーシュの腹を殴る。鳩尾に入ったのが痛かったのか、ルルーシュが咳き込んだ。咳き込む姿さえ僕に反抗しているように見え、ルルーシュの顎を掴むとその唇に噛み付いた。

「んっ!!む、ぅっ・・・!!!」

咳き込んでいる最中にキスをされて、酸欠になっているようだ。一旦口を離すと馬鹿みたいに空気を吸ってて、僕は再度ルルーシュの唇に食らい付く。強引に唇を割ると喉の奥に届けと言わんばかりに舌を捻じ込む。苦しそうにぎゅっと目を瞑るルルーシュから僕は目を離さなかった。唾液を送るようにしてルルーシュの舌を捕まえると、ルルーシュの口の端からどちらのか分からない唾液が流れ落ちた。透明なそれがルルーシュの顎を通り、首筋を通り、真白なシーツへと染み込む。僕が唇を離すころには、ルルーシュは顔を真っ赤にして息を途切れ途切れにさせていた。ふと何も履いていないルルーシュの下半身を見ると、ルルーシュの性器はゆるやかに勃起していた。

「ふぅん、キスひとつで感じるなんて変態だね君は。・・・あぁそうか、慰み者だからしょうがないか。ほんと、誰に教え込まれたんだか・・・」
「・・・ぁ・・・ス・・・ザク・・・んっ・・・」

ほんの数日前まではこんな反応しなかったはずなのに。誰に教え込まれた?そんなの考えなくたって分かる。ジノ、あいつが、ルルーシュを。僕のいない間に好き勝手やってくれていたようだね。あの時、君の上機嫌を疑っていればよかった。きっと君はあのあとルルーシュを抱いたんだね。だからあんなにも上機嫌だったんだね。わざわざ見送りまでして、そんなにルルーシュを抱きたかった?ジノ、君は騙されているんだよ。本当のルルーシュはこんなに淫乱じゃない。悪魔なんだ。だから僕が全てを奪ったというのに、本質は変わっていなかったんだね。僕がいくら頑張ろうとルルーシュは結局僕に嘘を。

「やっぱり、ルルーシュは、嘘つきだ」
「あっ、や、めっあああぁぁぁァァァッッッ!!!」

何にも慣らしていないそこに性器を突き入れる。ミチミチと肉の裂ける感覚がして、真っ赤な血がそこから流れたのが見えた。あまりの痛さにルルーシュは絶叫して、頭を左右にぶんぶんと振っている。こんな状況でギンギンに勃起してる僕もどうかと思うけど、でも、悪いのはルルーシュだから。ルルーシュの両膝に手を入れて前へと倒すとより深く性器が挿入された。気持いい。ルルーシュの顔に近づけるように膝を押すと、ルルーシュの腰の部分がシーツから離れる。腰だけを上にあげたような体勢になって、ルルーシュは肺がつぶされ苦しそうだ。

「い、痛い・・・痛いッ・・・抜いてっ・・・スザクぅ・・・!!!」
「痛い?本当にそれだけ?君のここ勃起してるよ、痛いだけじゃないんだろ!!!」

ルルーシュの陰茎は完全に勃起していた。ぷるぷると震え先端から我慢汁を出しているくせに、抜いてだなんて可笑しいね。ルルーシュの額に汗が滲み出ている。歯をくいしばって尻穴の痛みに耐えているのだろうか。持って行かれそうなほどにぎゅうぎゅうと締め付けてくるルルーシュのそこ。ここに昨日まで誰かを咥えこんでいたのだと考えると、怒りに我を忘れそうになる。ルルーシュの身体に一切気を使わず、真上から叩きつける様に腰を動かした。激しすぎる運動に、流れていた血があちこちに飛び散る。

「いや、いやだぁっ!!!痛い・・・痛いよぉ・・・っ!!!」
「うるさい!黙れッ!!!」

ルルーシュの、今度は左頬を叩く。僕が本気で殴ったりなんかしたら歯の一本や二本簡単に飛んじゃうから顔は殴らない。ただ叩いた時に口を開けていたからかルルーシュは口の中を噛んでしまったらしい。痛みに結ばれた唇の間からつぅっと血が流れていた。ルルーシュの、血。それを見た瞬間、言いようのないような興奮が僕の身体中を駆け巡った。空いた手で唇をこじ開け、探るように血を求める。 口の中から手を引き抜くと、べっとりと唾液が手についていた。その中に混じる血液に、思わずそれを自分の口へと運ぶ。その間にも腰を動かすのを止めない。先ほどよりかは大人しくなったルルーシュは、今はもう突かれるたびに喘ぐだけだ。前立腺の部分をゴリゴリと押しつぶすように腰を動かしてやると、宙を蹴っていたルルーシュの両足がピンと伸ばされた。

「んっ、うぐっ、は、あぁっ!!!」
「君はっ本当にっ感じやすいね・・・っ!そんなんじゃ女も抱けないんじゃ・・・」

コンコン

「っぁあ!」
「・・・っ、誰だ・・・?」

突然、部屋の扉がノックされた。ノック音にルルーシュが身体を揺らす。腰の動きを激しいものから緩やかなものに変え、扉を振り返る。時計を見てみるが昼食にはまだ少し早い、だとしたらメイドではないだろう。部屋の電話は鳴らなかったから、先ほどの女性兵士でもないだろう。一体誰だろうと扉を凝視する。さっきのノックとは違い、今度はドンドンドンと強めに扉を叩いている。性器が萎えないよう、一定のリズムで腰を打つことを忘れない。ルルーシュは誰かが来てるから止めろと目で訴えていた。バレたら面倒だし、腰の動きを止めようとしたが、ある考えが浮かぶ。もしかして、今扉の前にいる人物は・・・。ルルーシュを一瞥し、僕は性器を亀頭ギリギリまで引き抜くと両手でルルーシュの腰をガッチリと掴んだ。

「!?スザクっ、誰かきて・・・!!!」
「そんなの関係ないよ、ね?」
「や・・・やだ、やだやめてスザ・・・ッあああァァァッ!!!」

力強くルルーシュに突き入れる。滑りの良くなったそこは拒絶することなく僕を受け入れる。一番奥まで突いたらまたギリギリまで引き抜いて突く。それを何度も繰り返す。必死に声を押えようとしているようだが、僕がルルーシュの揺れる性器を握って扱くとあっさりとギブアップした。形振り構わず喘ぐルルーシュ、すると扉の向こうから声が聞こえた。


『スザク?私だ、ジノだ。書類を持って来たのだが・・・』


やっぱり、そう思って口の端をつり上げた。どうやらジノの声はルルーシュにも聞こえていたらしく、ジノの声を聞いた途端締め付けが一層キツくなった。僕は舌打ちをしてルルーシュの耳元に顔を近づけ囁いた。

「ね、ジノだって。今すぐそこに、扉の前にジノがいるよ」
「や・・・スザク・・・やめ・・・」

怯えるルルーシュの唇に掠めるようなキスをして、僕は動きをさらに激しくした。性器が水音を立てて出入りする様はルルーシュも見えているだろう。息つく暇も与えずにルルーシュを責め立てると、ネジが飛んでしまったようにルルーシュは大声で喘いだ。ベッドのスプリングを最大限に活用してピストン運動を加速させる。

「あっ、やっ、すざくっ!やあっ、んぅっ、ひぁっ!!!」
「ルルーシュ、声抑えないと、聞こえちゃうよ?」
「んぅっ、だっ、て、すざくがっ、あああっ!」

もう理性が飛んでしまったらしい、抑えきれない喘ぎ声がどんどんルルーシュの口から発せられる。ルルーシュの両足を自分の両肩にかけ、ベッドへ手を着く。ラストスパートに向け腰の動きをより一層激しくさせながら、扉の前のジノが今どんな表情をしているのか考えると酷く愉快だった。ルルーシュの声も僕の声もきっと聞こえているだろう、だったら何をしているかくらい分かるはずだ。ジノには分からせてやらないといけない、ルルーシュは僕のものだということを。僕の下で喘ぐルルーシュの身体の痙攣がだんだんと大きくなっている。頃合いか、僕はルルーシュの性器を扱いてやりながら腰を打ちつける。そうしたらすぐにルルーシュは、目に生理的な涙を流し始めた。イくのだろう。

「も、もう・・・だめっ・・・あぅっ!!!」
「ほら、いいよ、イきなよ、ほら!」

促すように僕がルルーシュの性器の先端に爪を立てる。ルルーシュはぶるぶると内またを震わせ、全身に力を入れて尻穴をぎゅうぅと締めると射精した。水揚げされた魚のようにビクンビクンと身体を震わせ2、3度に分けて精液を出す。ルルーシュのキツイ締め付けに、僕は腰を一番奥へと押しつけて射精した。中に全部だすように何度か腰を揺らすと、その刺激にルルーシュが小さく声を上げる。時間にしたらほんの5秒程度だったかもしれないが、僕らにしたら永遠の時間の中に放り込まれたような感じだった。ぐったりと力を抜いたルルーシュ、僕も質量のなくなった性器をルルーシュのそこから出した。抜いた瞬間、ヒクヒクと穴を収縮させるそこはとても厭らしい。僕の放った精液がルルーシュの穴から流れ出した。ふぅ、と息をついてシャツの残骸で素早く性器をふき取ると下着の中へと仕舞った。男だというのに余韻などあるのだろうか、ルルーシュはぴくりとも動かない。乱れた息をはあはあとしながら、虚ろな目で天井を見つめていた。僕はベッドから降りると、扉へと向かう。きっとまだ居るだろう彼の顔を見るために。ガチャリと鍵を開け、扉を開く。案の定、そこにはジノが魂の抜けたような顔をして立っていた。

「やあジノ。ごめん、ちょっと電話しててさ」

分かりやすい嘘。でもそんなのジノだって分かってるはずだから、嘘はなんでもいい。ジノはハッと我に返ったようにして僕を見た。戸惑いの目だ。

「あ、あぁ・・・そう、なのか」
「うん。あ、書類ってそれ?」

ジノの持っていた書類は確かに僕のものだった。本当に書類を届けに来たのか、でも、普通ジノが届けに来るはずないよね。僕は書類を受け取ると確認するふりをしてこっそりジノの顔を盗み見た。どうやら室内が気になっているようだ。でも残念、この位置からじゃベッドは見えないんだよね。ああでも臭いはバレてるかもしれない。書類を小脇に抱えて、僕はドアノブを握った。これが最後のひと押し。

「わざわざありがとうね、それじゃ」

扉をバタンと強く閉め、拒絶の意を示す。間髪入れずに鍵を閉め、くるりと踵返した。今頃、ジノはどんな顔で扉を見てるかな?悔しがっているかな?ふふふと零れる笑みが止められない。受け取った書類をテーブルの上に投げ捨てると、僕は再びベッドに上がった。まだ復活しきれていないルルーシュは、ベッドに上がった僕をぼーっと見つめていた。シーツのあちこちに咲いている血の色。洗濯に出さなくてはいけないなと考えながら、僕はルルーシュにとびきり優しいキスを送った。ルルーシュは抵抗することなくそれを受け入れ、強請るように今度は自分から顔を近づけてくる。てっきりルルーシュは僕に怯えるかと思ったが、違うようだ。僕は唇を離してから、ルルーシュの腕を拘束していた布の縛り目に手をかける。解く前に、問う。

「ルルーシュ、ごめんなさいは?」

僕を見上げたルルーシュの瞳は、僕しか映していなかった。