ゼロの正体が、全世界へと知らされた。情報の発信源はシュナイゼル・エル・ブリタニア、彼は全世界へゼロの正体を明かしたのだ。知らされた事実に、黒の騎士団はゼロを裏切った。今まで騙してきたのだなと罵り、蔑み、軽蔑の限りを尽くしてゼロは黒の騎士団から追放された。トップが追放だなんておかしいけれど、既に黒の騎士団はゼロのものではなくなっていたのだ。藤堂を始めとする純日本人が新たに黒の騎士団を改革、ブリタニア人は皆追放された。日本を取り戻すのは日本人だ。思わぬ部下の反乱に、ゼロは何もいうことなく黒の騎士団を去った。まるで全てを受け入れるかのようなゼロの行動だったが、それは誰にも評価されることなくゼロは裏切者として日本人の敵になった。いや、日本人だけの敵ではなくゼロは全世界の敵となった。超合衆国日本は辛うじて存在しつづけていたが、空中分解するのも時間の問題であろう。日本を再び取り戻すと躍起になった新黒の騎士団であったが、ゼロがいなくなってからはあっという間であった。日本に駐留していたナイトオブラウンズ達によってあっさりと黒の騎士団は敗れることになる。主力戦力の藤堂が残っていても死者や負傷者が多数いるなかでの戦闘はあまりにも負担が大きすぎたのだ。黒の騎士団の団員は全て処刑され、他の国へと見せしめとばかりにエリア11は日本人を次々と処分していった。名誉ブリタニア人の制度も日本人には無効とされてしまい、ブリタニア人に脅えながら暮らす日本人は子孫を残すこともなくその数を減らしていった。



「ナナリー総督は骨も残らなかったらしいぞ。全く、ゼロは人間じゃないな。あんな租界の真ん中でフレイヤを撃つなど・・・」
「血も涙もないとは奴のことを言うのだろうな。フレイヤは軍から盗まれたものだったのだろう?」
「ああ、シュナイゼル陛下はそう仰っていた。ニーナ博士も気の毒だろうな・・・自分の作った兵器がゼロに使われてしまうなんて」
「そういえばニーナ博士はどうされているんだ?最近姿を見かけないが・・・」
「なんでも、フレイヤの件で精神が・・・その・・・な?今は軍の精神病棟に入院されていると聞いたな」
「ああ・・・そんな・・・。あれほどの才能を持った人間、他には居ないというのに・・・」
「しょうがないさ、二―ナ博士は誰よりもゼロを憎んでいたからな」

廊下の隅でこそこそと話す兵士達の会話をこれ以上聞きたくないと、スザクは隠れるようにその場を立ち去った。バクバクと脈打つ心臓を限界まで抑え、拳を握って襲いくる幾多の感情に耐える。あまりに強く手を握りしめすぎて、手袋越しに爪が親指の根元に刺さった。血はでないものの、その痛みはスザクの精神を和らげる。肉体の痛みならいくらでも耐えられるからと唇を噛み締めた。罪の意識がスザクの心を苛む。

(違うんだ、フレイヤを撃ったのは、僕なんだ!!!)

第二次東京決戦の罪はシュナイゼルによって全てゼロへと擦り付けられた。ナナリーを殺された報復としてシュナイゼルは黒の騎士団への徹底抗戦を図り、ゼロの正体を明かした。シュナイゼルの言葉を疑う者など誰一人と存在しなく、シュナイゼルの思惑通りに事は進んだ。いくらスザクが周りにフレイヤを撃ったのは自分だと訴えても信じる者はいなかった。証拠がないのである。あの場にいた者は全てフレイヤの光に吸い込まれてしまったし、目撃していた者達も不自然な事故や病気で全員死んだ。全てはシュナイゼルの罠であったのだ。それに気づいた時には既に何もかもが遅過ぎて、日本という国は存在しなくなっていた。

「・・・クソッ!!!」

行き場のない悲しみと苛立ちに思わず壁を殴る。鈍い痛みが拳に伝わるだけで、壁は傷一つつかなかった。しんと静まり返る宮殿の廊下に、スザクの荒い息遣いだけが響く。あれだけ泣いたというのに涙は今も枯れることなく、痛ましい記憶と共にスザクの頬を流れた。いくら自分が泣いても失ったものが戻ってくるわけではない。そう自分に言い聞かせるものの、涙は止まることを知らずに流れ続けた。うぅと情けない唸り声を上げながらずるずると廊下に座り込む。あの事件を真実を知っているからこそ、今の状況はスザクにとって身を裂くほどの苦痛だ。

(どうしてかな、どうしてこんなことになったのかな)

一度は手を取ろうとしたのだ。本当は、分かりあえるはずだったのだ。それがたった一つの罠にかかってしまったばかりに、ゼロを、ルルーシュを追い詰めることになってしまったなんて。ルルーシュは言った、戦いの引き金はスザクではないと。だがしかし裏切ったなと悲しみ絶叫したルルーシュをゼロへと変えたのは間違いなく自分であるとスザクは感じていた。ルルーシュに本当の気持ちを伝えることもできず、ルルーシュの本当の気持ちを知ることもできず、スザクの手はナナリーを殺した。死を受け入れ紅蓮の攻撃を受け入れたはずだったのに、気がついたらスザクの目の前には何もなくなっていた。敵も味方も巻き込んで、そびえ立っていた政庁は跡形もなく消え去っていたのだ。シュナイゼルの称賛する声に耳を傾けることなく、ただスザクは呆然と空中に立ち尽くした。目の前の出来事が信じられず、思考が真っ白になり、ふと目に入った蜃気楼に自分がしてしまったことの恐ろしさを味わうこととなる。シュナイゼルの公表はフレイヤを撃ってから10分もしない間に行われ、気がつくとゼロは蜃気楼ごと姿を消していた。

(これが僕への罰だというのなら、神様はなんて残酷なんだ・・・)

顔を両手で覆い不快悲しみへと浸る。ルルーシュの生きろというギアスは確かに呪いであった。今度こそは守ると決めたナナリーをこの手で殺してしまい、その罰を受けようと周りに訴えても周りは罪自体を認識することはなく、死んでしまいたいと思っても自分で命を絶つことができない。ルルーシュがこういうつもりでギアスをかけたのではないと分かっている。分かっているからこそ何故このようなことになってしまったのかと悔やんでも悔やみきれない。自分も、彼も、彼女も、ただ優しい世界が欲しかっただけなのに。欲しいものは同じだったのにどうしてこう道は食い違ってしまったのか。優しかったナナリー、優しかったルルーシュ、優しかった世界。生きろというギアスは未だにスザクを縛りつける。それは苦しいことであったが、唯一救いと思えることがあった。己のギアスが効いているうちはルルーシュは死んでいないと分かるから。この生きろというギアスが消えたとき、それはルルーシュの死を意味する。だから生きろというギアスが発動しているうちはルルーシュは生きているのだ、この世界の何処かで。

(あいたい、あいたいよ、るるーしゅ)

独り善がりの思いが降り積もる。ルルーシュなら自分を罰してくれる、そう思ってしまう。だがもうルルーシュは"生きていない"、ナナリー失ったルルーシュは"生きていられるはずがない"のだ。その証拠が今の世界の現状である。ゼロは何もしていない、もう何もできないのだ。ルルーシュが今何処に居るのかなんてスザクには分かるはずがなかった。C.C.と一緒に居るのか、あのロロという偽りの弟と一緒に居るのか、それすらも分からない。ただルルーシュが何処かで生きているということだけ、それだけしか分からないのだ。

『お前は世界から弾きだされたんだ!』

過去にルルーシュへ向けた言葉が蘇る。あの言葉を受けて、ルルーシュどう思ったのだろう。もしあの言葉を今言われたら自分は、とスザクは涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。


果てない絶望だけがスザクの世界を染めていた。




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ルルーシュが世界から見て一方的に悪役になってるのが好き。
誰かに責めてもらいたくても責めてもらえない苦しみ。
18話はみんな可哀想で泣ける・・・。