※7話捏造
※ある意味BADEND
※ロロが黒い
↑でもよろしい方はどうぞ。





いらないなら僕にちょうだい。
みんないらないから、そんなことばかりするんだよね?
もう必要ないなら、世界から捨てられたのなら、僕がもらってもいいよね。
僕のものなら、何してもかまわないよね。






「休学だなんて、復学したばかりなのに大変だな」
「うん、でもやらなくちゃいけないことがあるし・・・学校生活も大切にしたいけど今は特区日本のほうが大事なんだ」

スザクはプランターを持つ手に力を入れてルルーシュを盗み見る。 倉庫の中は薄暗く足元がよく見えなかったが、外に出ると眩しいほどの日差しがルルーシュとスザクを照らした。 暑さから逃れるのに校舎の壁際の木陰を歩きながら他愛のない会話をする。 たまに木々の間から零れ落ちる光が過去の夏の日を思い出させてスザクは胸が苦しかった。 学校裏の倉庫に置いてある園芸道具を取りに行くのに、スザクはあえてルルーシュと二人で行くと名乗り出た。 そのことに何の疑いもしない生徒会メンバーはルルーシュは力ないから頑張ってなどと茶化して笑っていたがロロだけが冷たい視線でスザクを見ていたのをスザク自身は気づいていた。 立場としては仲間側にいるロロだったが、スザクはロロを信用しているわけではなかった。 まだ自分より年下の子供、ということもあったが何より記憶を改竄されてからのルルーシュと一緒に暮らしたロロが今こうしてゼロが復活したというのに何も行動してないからだ。 ルルーシュは記憶が戻っておらず今のゼロはルルーシュではない、と今のところ報告が来ているが そんなもの到底信じられるものではなかった。 復活したゼロは間違いなくルルーシュだ。そうスザクは確信している。 それは行動がとかそんな理由がつけられるものから来たものではなく、彼と、ルルーシュと自分との間にある何かで分かってしまうものだった。 ロロは恐らくルルーシュがゼロだと分かってるはず。なのにそれを隠すのは何故か? ルルーシュに脅されているのかそれとも、ルルーシュがギアスの使ったのか。 どちらにせよ今のロロはゼロが復活する前のロロとは違う状況だろう。 ルルーシュの報告は主に監視と弟役のロロからされている。 監視なんてルルーシュにとってはあっても障害にならないだろう。 ロロがもしルルーシュの味方になったのなら、ロロはきっとルルーシュとって「よくない」報告はしない。 だからこそスザクは学園へ復学し自分の目で確かめたかった。 そして何故あんなことをしたのかと、ルルーシュに問いたかった。 ユフィを殺したことや自分にかけた生きろというギアスのこと、本当のことが知りたかった。 しかし復学してからルルーシュと何度も接触しているがルルーシュの態度は変わらなかった。 今だってこうして普通に会話してくだらない話で笑っている。

「自分が優先したいと思うことをすればいい。まぁ一般人の俺が言うのもなんだけどな」
「・・・ううん。ありがとう、ルルーシュ。」
「いつでも戻ってくればいいさ、でも戻ってきたときに俺と同じ学年に居れるとは限らないから覚悟しとけよ?」
「え、どういうこと?」
「お前は休みすぎだってことさ。そんなんじゃ勉強だってついていけないだろう?」
「あぁ・・・そういうことか。はは、肝に銘じておくよ」

改竄された記憶通りの行動、友達としてかけてくる言葉。 ルルーシュが自分との会話などでボロを出すとは思わなかったから学園祭の日にナナリーのことを出してみたが、それでもルルーシュはおかしな行動をしなかった。 彼が妹を大事にしているのは身にしみるほど知っている、妹にだけは偽らないということも知っていた。 だからルルーシュが目の前でナナリーに向かって人違いではないかとと言った時、酷い罪悪感が胸を刺した。 もしルルーシュが記憶が戻ってないままだったら、自分はルルーシュに酷いことをしている。 自覚はあった。自覚はあったが止められなかった。気持ちを抑えることなんて昔は簡単なことだったのに、ブラックリベリオンの時からその行動が自分にはできなくなっていた。 身体の中に溜まる憎しみと戸惑い。それが大きな怒りとなって渦を巻く。 ナナリーと電話をさせてから程無く、総督としてナナリーがエリア11へ来た。 そしてその途中にゼロが現れた。こうなることは予想できたいた。しかしその予想はルルーシュがゼロの記憶を取り戻しているということ前提だったため、学園祭の夜のことを考えると復活したゼロはルルーシュではないのかと混乱してしまった。 本当はあの場でゼロを捕まえたかった。捕まえてその仮面を外し、問いたかった。 しかし予想外なことが起きてしまい、ナナリーを連れて脱出するしかなかった。ナナリーに罪はない、それに彼女は大切な人のうちの一人だ。 ゼロがあの場で死ぬことはない。そう思ったからナナリーを連れてゼロを尻目に脱出したのだが 崩れゆく戦艦を背にした時、聞こえるはずのない叫びが聞こえた気がして心臓がドクンと波打った。 悲痛な叫び、ナナリーと呼ぶその声。それは間違いなくゼロではなくルルーシュの叫びだった。 あれから数日、ナナリーにより行政特区日本の復活も宣言されエリア11は揺れていた。 悲劇がまた起きるのかと日本人の嘆く声や怒りの声、イレヴンなどに権利を与えるのかというブリタニア側の声。 世間は黒の騎士団の反応を待っていたが、黒の騎士団いやゼロは一向に動きを見せない。 黒の騎士団が行政特区日本に参加するのかどうか。大きな決断を下すのにまだ迷っているのだろうか? 式典もあと数日後に迫っている。式典前にはゼロからのコンタクトがブリタニア軍になければそれは参加しないということだろう。

(時間がない・・・今、ここで・・・)

ルルーシュがゼロであるのならきっとナナリーのことを考えて行政特区日本に参加するだろう。 しかし決断が下されるのが遅すぎる、ゼロからの返事は早く貰うべきだ。 急かすとういわけではないがスザク自身が焦っていた。 ゼロとしての記憶が戻った今、真実を問うチャンスは今しかないのではないかと。 スザクは自分の隣を歩くルルーシュをチラリと見て確認する。 日差しは暑いというのに崩すことなくキチンと着られている制服、視線はただ前に続く道だけを見ている。 今日のルルーシュはどこか違和感があったが、行動も言葉もいつもと変わらない。 あと50メートルもしたら道が開けて中庭に出でしまう。人がいるところは避けたい、なら。 スザクは歩く速度を弛めて自然とルルーシュの後ろについた。そしてルルーシュの左腕に素早く手を伸ばす。

< 「本当に覚悟しておかないと留年に・・・っ!?」

2人の手から落ちたプランターや園芸道具の入った箱が大きな音をたてて地面に落ちる。ルルーシュの左腕を強く掴んだスザクは、ルルーシュが反応するより早くルルーシュを壁に押し付けた。何が起こったのか分らないルルーシュは目をパチパチと瞬きさせてスザクを見る。掴んだ左腕はそのままで空いた手でルルーシュの右手首を掴んだ時、ルルーシュはハッと我に返ったように抵抗した。

「何するんだスザク!」
「暴れないでルルーシュ」
「だったらこの手を放せ・・・っ!」

暴れる手足を力で無理やりねじ込むとルルーシュが痛みに呻いた。ルルーシュの背中を校舎の壁に押し付けるようにして向い合せにする。 掴んでいた左腕を離して代わりに右手を掴んでいた手で両手首をルルーシュの頭の上でまとめるようにして壁に押さえつけて拘束した。 ルルーシュは痛みに耐えて、唯一自由な足をバタつかせている。 プランターの落ちた音で誰か気やしないかと思ったが、この道は倉庫に行く時以外に使うことはない。 倉庫なんてそうそう行く機会もないだろうし、誰かに見つかる可能性は低い。 抵抗するルルーシュが落ち着くまで押さえつけると、体力のないルルーシュは暴れるのに疲れたのか抵抗が弱くなった。

「これは一体なんの真似だ・・・?」
「君に聞きたいことがあるんだ」
「俺に・・・聞きたいこと?」

そんなに痛かったのか、暑さのせいかルルーシュの米神から汗が流れる。 遠くで聞こえる生徒の声がやけにリアルで、スザクは早くなる鼓動を抑えきれない。

「君は何故ユフィを殺した?」
「・・・は?お前、何を言ってるんだ?」
「演技しても無駄だよ、僕は騙せない」
「なんのことだかサッパリ分からないんだが。いいから放せよ」

どうでもいいというようなルルーシュのイラついた声にスザクはカッと頭に血が昇るのが分かった。 空いた手でルルーシュの顔を叩く。バチンと大きな叩く音がして、叩かれたほうに曲がったルルーシュの顔は叩かれたことに驚いていた。


「とぼけるのもいい加減にしろ!」
「っふざけるな!いい加減にしてもらいたいのはこっちのほうだ!」
「ユフィのことだけじゃない、何故僕にあんなギアスをかけた?!答えろよ!」

今度は反対の頬を叩くのではなく殴る。そしてルルーシュの首を掴み上げる。感情を隠さずに睨むと、ルルーシュはビクリと身を固まらせた。 逃げるつもりなのかと、理由を教えてくれないのかと、そう思うとスザクはとても悲しくそれと同時に憎かった。 殺したいと思ったことは何度もあるが、その度に今までの思い出が頭の中をよぎってどうしても殺すことができなかった。 まだルルーシュを何所かで信じている自分が嫌で嫌でしょうがなかった。 殴った時に切れたのかルルーシュの唇の端から細く血が流れている。 半開きになったルルーシュの唇が何か言いたげに開いたのを見たその時。 突然、ルルーシュが立つ力を失ってずるずると座り込み始めた。

「!?」

スザクは驚いて、すぐにルルーシュの足の間を割って片足を潜り込ませる。力の抜けたルルーシュはスザクの片足に座るような形になって なんとか立っている。 さっきの威勢はどこへ行ったのか、急におとなしくなったルルーシュの顔を見てスザクは呼吸が止まった。 ルルーシュは怯えるようにスザクを見ていたのだ。

「スザク・・・すまない・・・本当に分からないんだ・・・っ!だからっ・・・痛いから・・・っ!!!」

「ルルーシュ・・・?」

首を絞められながらルルーシュが途切れ途切れに言葉を発する。 違う。これはゼロ(ルルーシュ)じゃない。そうスザクは感じた。 今までルルーシュが怯えるところなど見たことがない。しかもこんな状況で怯えるだなんておかしい。 ルルーシュが怯えているのが自分の罪なら分かるが、今のルルーシュが怯えているのは自分の暴力にだ。 目の前の人物は誰だ?ルルーシュだ。ただの、ルルーシュだ。ゼロじゃない、ゼロを持つルルーシュはこんな表情をしない。 これは演技ではないことはすぐに分かった。震えるルルーシュの足がとうとう力尽きて壁に背をつけてずるずると地面に落ちる。 支えていたスザクの足をずれてルルーシュは地面に腰をつけた。ルルーシュが落ちるとともに放されたスザクの両手は、困惑するように拳を作っている。

「っ・・・ゲホッゲホッ!・・・ぐっ・・・ぅっ・・・っ」

絞められた首を押えながらルルーシュが咳き込む。スザクはそんなルルーシュを茫然と見下ろす。 つい最近再会した時の彼は確かにゼロを持つルルーシュだった。しかし今のルルーシュはゼロを持っていない。 何故?記憶を取り戻したのに何故ルルーシュはゼロではない?ほんの数日前に会った時はゼロだったルルーシュが、今はいない。 今日会ったときから感じていた違和感の正体はこれだったのか?とスザクは唇を噛んだ。 苦しそうに息をするルルーシュの後姿、ルルーシュの顔の下にある乾いた地面に濡れた雫がぽたぽたと落ちたのを見てスザクは考えるより早く屈んでルルーシュの背中をさすった。

「ルルーシュ!大丈夫?」
「はぁ・・・はぁ・・・っ・・・大、丈夫だ・・・っ」
「こめん・・・本当に・・・ごめん・・・」

何故謝るのだ?ルルーシュはこうされてもおかしくないことをしてきた。心の中のもう一人の自分が言っている。でも彼は今はゼロじゃない、ルルーシュだ。ルルーシュかゼロかなんてどっちでもいいじゃないか、ユフィの殺したのはその手なんだから。違うユフィを殺したのはゼロで・・・ゼロはルルーシュで・・・。 頭の中が混乱する、謝罪の気持ちと怒りの気持ちがごっちゃになってスザクは自分が何をしようとしたのか分らなくなった。 問わなければいけないのに、その答えを今の彼は持っていない。なぜ?どうして?なんで! 荒れた息を整えてルルーシュが顔を上げる。その頬に流れ落ちた涙の痕を見て、スザクの思考は真っ白になった。 フラッシュバックするのは8年前の彼と1年前再会した彼、そしてブラックリベリオン時に神根島で会った彼。 目まぐるしく流れていく彼らの自分を呼ぶ声が、フィルターを通したようにぼやけて聞こえる。 だんだんとその音の中から一つの声がはっきりと聞こえてきて・・・

「・・・い・・・おい、スザクッ!」


ハッと気がつくとルルーシュが心配そうにこちらを見ていた。

「っ!あ・・・ルルーシュ・・・?」
「大丈夫か?お前、なんかおかしいぞ?」

意識が飛んでいたのだろう、スザクは痛む頭を押さえた。 自分は何をしてしてしまったのだろう。冷静になって思い返すと、自分がやったのはただの暴力だ。 焦りすぎていた。時間がとばかりにそればかりを気にしすぎて先走ってしまったのだ。 そう思うと後悔が押し寄せてくる。この1年間に少しは成長したと思ってたが、こんなとろこは成長していなかったようだ。 ルルーシュを見るとさっきまでの怯えは消え、今はただ自分を心配していた。

「ごめんルルーシュ・・・僕・・・」
「いいから、さっきのことは気にするなよ。何かあったんだろ?」
「・・・ごめん・・・君にあんなことするつもりはなかったんだ・・・」
「だから気にするなって、軍は辛いんだろ?俺こそ気づいてやれなくてすまなかった」
「ルルーシュが謝ることないんだ・・・ごめん・・・」

焦らなくてもいい。チャンスはいくらでもある。無理に問いただしたところで彼の策略にハマってしまうのがオチだ。 謝り続けるスザクにルルーシュはもういいからとバラバラに放り出されたプランターを拾い始めた。 園芸道具を取りに来てからずいぶんと時間が経ってしまった、生徒会メンバーが待ちくたびれてるかもしれない。

(でもなんでルルーシュはゼロではなくなっている?皇帝のギアスの能力がまた効き始めたのか?)

もしルルーシュの記憶が皇帝のギアス能力が一時的に下がったため戻ったと考えるのもあり得なくはない。 スザクがそう考えながらプランターや園芸道具を一緒に拾っていると、ふとルルーシュが口を開いた。

「まさかスザク、軍でもああやってすぐに手をあげてないだろうな?」
「し、してないよそんなこと!戦闘以外では人を傷つけてないよ」
「本当か?お前のことだからカッとなって誰かを殴ったりしてないか?」

そう聞かれて、ふと先日のことを思い出す。
軍の廊下で下級兵士がユーフェミアのことを話しているところを聞いてしまい、その話の内容の酷さに思わず会話していた下級兵士2人を殴ってしまったのだ。

「う、いや、そんなことしないよ・・・そんなには」

そのことを言われたように感じ、スザクは図星を隠せなかった。 言い当てられてしまった恥ずかしさとそんな風に思われていたのかという思いがこみ上げる。 スザクの反応を見たルルーシュは笑って、散らばった道具の最後の一つを拾い上げた。


「そういうすぐ手を出してしまうところは子供のころから変わってないんだな」


その一言に、スザクは目を見開いた。子供のころから、そう彼は言った。
思わずルルーシュの顔を見ると、ルルーシュは不思議そうな顔でこちらを見返してくる。 改竄された記憶では、スザクとルルーシュは子供の時会っていないはずだ。 何故なら子供の時に会うはずはないからだ。ルルーシュが皇子で、人質として送られた記憶がない限り・・・。 やはり記憶は戻っていたのか?と思うと同時に、ルルーシュの不思議そうな顔が気になった。 もし今までのが演技だったとしても、彼がこんな初歩的なミスをするわけがない。こんな簡単なミス。 その証拠にルルーシュの顔に焦りは出ていない。だとしたら何故子供のころを知っている・・・? スザクは恐る恐る尋ねてみた。

「・・・子供のころって、いつの話かな?」
「何言ってるんだ、8年前のことだよ。まさか忘れたとか言うなよ?初対面で俺のこと殴っておいて・・・」
「・・・!」

その言葉に嘘はなかった。確かにルルーシュは子供のころの記憶があった。 子供のころの本当の記憶があるのなら、それ以降の本当の記憶もあるはずではないのか? ルルーシュの態度は変わらない。しかし子供のころの記憶はある。なぜ? スザクは急に乾いてきた口内の唾を飲み込んで、ゆっくり質問し始めた。

「そう、だよね・・・8年前・・・ねえ、なんで僕たちあの時喧嘩になったんだっけ?」
「はぁ?覚えてないのか?確かお前が俺のこと嘘吐きだって言ったからだろ」
「・・・あぁ、そうだったね、なんだか詳しいことまで覚えてなくて」
「お前からしたら些細なことだったんだろ。あの時は、俺も切羽詰ってたからな・・・今思うと幼稚な理由だよな」

そう言ってルルーシュは苦笑する。何故そこまで詳しく覚えておきながら・・・?

「しょうがないよ、ルルーシュにとっては敵国の地だったんだから」
「・・・それは言うなよ。もう俺は皇子じゃない、あの頃だって人質と同じようなものだったんだ」
「・・・っ、そっか・・・うん・・・そうだよね」

皇子だったことまで覚えている。何がおかしいとスザクは思った。 何処かで何かが矛盾している。今のルルーシュの記憶はなんなんだ?ゼロではないのに過去の真実の記憶を持っている。こんなことありえるはずがない。懐かしいな、と思い出しながら微笑むルルーシュ。

「でもまぁ、最初はあんなだったけどあの頃は楽しかったよ。俺達3人でよく遊んだよな」
「うん、僕たちが言い争ったりするとナナリーがよく困ってたね、喧嘩はダメですよって」
「ん?」
「え?」

ルルーシュが首をかしげる。変に中断された会話にスザクも首をかしげる。何かおかしなことを言っただろうか。
ルルーシュはうーんとしばらく考えるような仕草をして、スザクに聞いた。


「ナナリーって誰のことだ?」


一瞬、ルルーシュの言ってる言葉の意味が分からなかった。「ナナリーって誰のことだ」?それはどういう意味なのか。 嫌な汗が流れる。そんなことあるわけないと願いながらスザクは言った。

「誰って、ナナリーは君の妹じゃないか」
「妹?何言ってるんだよスザク。俺には弟しかいないぞ?」

弟しかいない。ルルーシュの言葉が胸に刺さる。ナナリーを、覚えていない?

「だ、だって俺達3人でって・・・」
「だから、俺、スザク、ロロで3人だろ?」
「ロ、ロ・・・?」

「あの頃は車椅子で目も見えなかったけど、それでもお前がロロを差別しなくて嬉しかったよ」

違う、それはナナリーだ。覚えていない、ルルーシュはナナリーを覚えていない! 脳裏に、行方知れずになった兄に会いたいと話していたナナリーのことが思い浮かぶ。 ルルーシュが覚えていないならナナリーは。ふと、そこでスザクは微笑むルルーシュと今日初めて目が合った。 そして瞬間、背筋が凍った。何故ならルルーシュの瞳は光が無く濁っていたからだ。

「ル、ルーシュ・・・?」


「兄さん」


呼びかけられる声。この声は、と思うと同時にスザクが振り返ると目線の先にはロロが立っていた。 いつの間に?いや、いつから?ロロの冷たい目線が一瞬スザクを貫く。 ルルーシュはロロのその視線に気づかずにロロを嬉しそうに呼んだ。ロロはルルーシュの傍まで近づくといつも通りの顔で言った。

「もう、遅いからミレイさんが見てきなさいって。こんなところで何してたの?」
「それは会長に悪いことしたな。ちょっと昔のことを話してたんだよ」
「・・・へぇ、昔のこと、ね。そうなんですか?スザクさん」
「う、うん。話が盛り上がっちゃって、つい時間が過ぎちゃったんだ」

ふぅん、とロロが素気なく言う。このタイミングで来るなんておかしい、きっとロロは。 手に汗が滲んでスザクはそれを振り払うようにルルーシュを見た。 よく見なければ分らない変化、目の光が少し淡い。透通るような紫だった瞳が、力無い闇のように濁っている。その目はまるで何かに取りつかれたような目。

「そうだロロ、お前ナナリーって子、知ってるか?」
「ナナリー・・・?・・・さぁ、僕は知らないけどその子がどうしたの?」
「そうか・・・いや、スザクがナナリーって子が俺の妹だっていうんだけど、ナナリーって子と家族ごっことかしたかなと思って」
「そっか、妹・・・ね」

ロロがスザクを見る。氷のような冷たい目がスザクを睨み、そしてクスリと嘲笑うかのように口の端を歪ませた。

(こいつ、何か知っている・・・)

そのロロの頬笑みにスザクは悟る。ロロは、何か知っている。スザクもロロを睨むとロロは一瞥してルルーシュのほうを向いた。

「いや、スザクさんの勘違いじゃないかな。大体僕たちの他に一緒に遊んだ子なんていなかったでしょ?」
「・・・そうか、そうだよな。よく考えればそうだったな」
「もう、しょうがないな兄さんは・・・」

笑いあう2人に違和感を感じないわけがなかった。ルルーシュの記憶のナナリーに関する所だけがロロに変わっている。 それ以外は皇子だったということも人質として送られたことも覚えているというのに。 ルルーシュに聞きたいことはたくさんあったがロロが居る今、聞くのは難しいだろう。 しかし、ルルーシュに聞けないのなら・・・。スザクはロロを見て、その目に気づいたロロはその目の意味を汲み取って、ルルーシュ顔を向けて口を開いた。

「・・・あぁ、そういえばヴィレッタ先生が兄さんのこと呼んでたよ」
「ヴィレッタ先生が?」
「また補修のことじゃないかな、ミレイさんが兄さんは先にヴィレッタ先生のほうに行きなさいって、道具は僕が持ってくから」
「そうか?いやでも道具を置いてからでも・・・」
「だーめ、ミレイさんに怒られちゃうよ?授業が始まる前に行ってきちゃいなよ」

ほら、とロロに促されてルルーシュはしぶしぶ持っていた道具をロロに渡す。 きっと呼んでいたなんて嘘だろう。しかしロロと話をするにはちょうどいい嘘だと思った。 ヴィレッタが呼んでいないと言ってもルルーシュがロロが言っていたと言えば、足止めくらいしてくれるはずだ。

「じゃあ、行ってくるから。道具の中には危ないものもあるから持つのには気をつけろよ!」

「はいはい、分かったよ兄さん」

名残惜しそうにルルーシュは校舎へ続く中庭へと走って行った。スザクはその後ろ姿を見送る。 ふといつもは髪で隠れるルルーシュの首筋のところに絆創膏が貼ってあるのが見えたが、それを問う前にルルーシュは行ってしまった。 心地よい風が吹いて髪を揺らす。この場にいるのは二人だけになった、自分とロロだけだ。 ルルーシュがいなくなった途端に顔色を変えたロロに、スザクはいい機会だから明らかにしてしまおうかと思った。ロロが、寝返ったのかを。 C.C.を誘き出すためのルルーシュを監視するいう立場のロロはゼロが復活した今、意味を成して無かった。 スザクにとってロロが寝返ろうが寝返らないでいようがどっちでもよかったが、ロロがルルーシュに何かするのだけは許せなかった。ロロがルルーシュから渡された道具を地面に置き、わざとらしく背を伸ばす。

「さて、兄さんはいなくなったし、お互いに本音でお話しましょうか、スザクさん。」

ルルーシュがいないこの場でもルルーシュを兄さんと呼ぶロロ。 その言動がスザクは何故か気に食わなかった。 ルルーシュの居ない今、確かにお互いに隠すことはない。 ルルーシュの記憶の矛盾、瞳の濁り、先ほどのロロとの会話。 スザクは舌打ちをしてからロロを睨んで言った。

「率直に聞く、ルルーシュに何をした?」

あのルルーシュの変化は、ロロがルルーシュに何かしたとしか思えなかった。 数日前まで普通だったのに(ゼロだったのに)、数日会わなかっただけでこんなに変化してしまうなんて。 ロロは鋭いスザク剣幕に動じることもなくクスクス笑った。

「やだな、そんなに怖い顔、しないでくださいよ」
「・・・答えろ、一体何をしたッ!」

茶化すロロにスザクが声を張り上げる。途端、ロロの目がスッと細められる。

「答えは・・・何をしたからと言ってあなたに関係あるんですか?」
「なんだと・・・ッ?」
「気づいてると思いますが、兄さんはゼロです。記憶も戻りました。」

あっさりと重大なことを言うロロ。しかしそれはスザクも気づいていたことだったので、動揺することはなかった。

「だったら何故ナナリーを覚えていない!」
「・・・」
「それに記憶が戻ったのならお前はルルーシュを殺すはずなのになぜそれをしない?情にでも絆されたのか?」
「っあなたは何も分かっていない、あなたは兄さんのことなんか何も理解していない!」

それまで冷静だったロロが急に怒鳴り傍にあった校舎の壁を強く叩いた。 呪わんばかりに睨んでくるロロの視線は、今にも爆発しそうな感情で殺気立っていた。


「ナナリーが総督としてエリア11に来る時、ゼロが総督を奪いに行ったことは知ってますよね」
「・・・あの場には僕もいた」
「だったら少しぐらい察したらどうなんですか?あのナナリーがゼロを受け入れるわけないの、分かってましたよね?」
「ゼロは間違っている、受け入れるとかそういう問題じゃない!」

「そういう問題なんですよ。ゼロはナナリーに否定された・・・その上、行政特区日本の復活ですよ?兄さんが何も思わないとでも?」
「そうじゃない、ゼロは自分の犯した罪を認めて償うべきなんだ。そしてこれ以上日本人を犠牲しないためにも行政特区日本は必要なんだ!」
「確かにそうかもしれません。これ以上犠牲を出さないで解決する方法なんて限られますからね」

賛同するようなロロの言葉をスザクは怪訝に思い眉を寄せる。

「だったら・・・」
「でも僕が今話してるのはそんなことじゃない、兄さんのことなんですよ」
「っ・・・?」

ルルーシュのこと。スザクが話していたのは道徳的なところから見たゼロのことだった。 ロロの言いたいことが理解できずにスザクが黙っていると、ロロは一人で話し始めた。

「僕にはエリア11とかブリタニアとか、どうでもいいんですよ。誰が死のうが、どんなことがあろうが、今の僕はそんなのどうでもいい。兄さんさえいればいいんです。兄さんが僕に居場所をくれる、だったら僕はその手助けをする。ゼロだとか黒の騎士団とか、そんなの気にしない。兄さんさえいてくれれば・・・僕は・・・。」

ロロが愛おしそうに携帯についているそれを撫でる。 ルルーシュに落とされたのか、スザクはそう思ったがどうやら違うらしい。むしろ逆のように思えた。

「ナナリー奪還に失敗した兄さんは酷く傷ついていました。それこそ、ゼロをやめてしまおうかというほど・・・ね。」
「なに・・・!?」
「だってそうでしょう?ナナリーのための黒の騎士団、ナナリーのためのブリタニアの破壊。でもその考えはナナリーに否定され、そして行政特区日本への参加の誘い・・・。ナナリーのためならと兄さんなら行政特区日本に参加したでしょうけど、黒の騎士団は大きくなりすぎた。もう兄さんの一存で行政特区日本に参加することなんてできないんですよ。下手したら、内乱が起きて組織は崩れる・・・。苦しんでいたんですよ、兄さんは。実の妹と日本人に挟まれて・・・悩んで、考えて。」

痛むように目を伏せるロロは、ぎゅっと拳を握った。

「ねえ、スザクさん。あなた兄さんにこう言ったんですよね?「お前は世界から弾き出されたんだ」・・・って」
「・・・!なんでそれを・・・」
「兄さんが教えてくれたんですよ。行政特区日本の復活が宣言されてからの兄さんの様子、教えてあげましょうか?黒の騎士団に行くこともなく学園に戻ることもなく、ふらふらと街を彷徨っていたんですよ。それこそ悩みながら、ね。僕は監視役だからあとをつけていたんですけど、見れられませんでしたよ。でもシンジュクゲットーの跡地で何処かの貴族から貰ったリフレインをやろうとした時は、さすがに止めましたけどね」

「リフレイン・・・?」
「過去を幻視できる薬物・・・麻薬ですよ」
「麻、薬・・・」

ルルーシュが薬物に手を染めようとしただなんて、スザクには信じられなかった。 いや、ロロの口から語られている言葉すべてが信じられなかった。自分の知っているルルーシュはそんなことしない、そんなに弱くない。それともこれは自分を騙すための罠なのだろうか?いや、罠であってほしい。しかし現実は非情にもロロの言葉をスザクに伝えていく。

「結局リフレインをやる前に止められましたし、兄さんも僕の姿見たら気絶しちゃいましたけどね。クラブハウスに戻って僕は兄さんの傍を離れなかった。だって僕たちは兄弟なんだもの、兄の心配をするのは兄弟として当たり前のことなんですよ。兄さんは僕にこう言ったんです。もう俺は必要とされてない人間なんだ。いらない、世界から弾き出された存在なんだって。・・・それで僕は思ったんです。捨てられたのなら、僕が貰っても誰も文句は言れないってね」
「そんな・・・ルルーシュは物じゃない!」

異常だ、ロロは異常だ。ロロはルルーシュが自分のものになるのならどんな手段でもかまわないと言っているように思えた。それは兄弟の域を超えた独占欲、ロロはルルーシュを愛しているのだ。

「兄さんを否定したあなたに言われたくない。兄さんは僕と生きることを選んでくれた、ナナリーも黒の騎士団も捨てて僕と生きることを。」

「ルルーシュがナナリーを捨てるわけない・・・」
「ええ、なかなかナナリーのことを捨ててくれなくて困りましたよ。僕がどれだけ言っても兄さんの中からナナリーは消えない。ナナリーがいなくならない限り、僕は兄さんの一番になれない」

そう言ってロロはポケットから白い小さなケースを取り出した。 10センチほどのそれは見ただけではそれが何か分からない。 怪しげにそれを見つめるスザクの前でロロはそのケースの蓋をゆっくりと開けた。 そこには一本の注射器が入っており、注射器の中には青色の液体が入っていた。

「これ、なんだか分かります?」

注射器を手にとって押し込むような真似をする。注射器の先端は一本の針ではなく、短い針が何本も出ているものだった。何故いまそれが出てくるのかも分からないスザクは黙ってその注射器を見つめた。よく見たらケースには軍のシンボルが刻まれていて、軍の薬だとしたら精神安定剤の一種かと思った。

「・・・これはね、記憶を変えられる薬なんですよ」

ロロはそう言って、壊れた笑みを浮かべた。

「なんだって・・・!?」
「もちろん特別なものです。ブリタニアの機密研究施設はこんなものも作ってるんですよ、危ないですよね」

それを何故ロロが持っているのか。それも気になったが、記憶を変えられるということは記憶を消したり書き換えたりするこのも可能なのではないか?そしてそう考えるとルルーシュの異変に結びつくものがある。

「まさか・・・それを・・・」
「使いましたよ、兄さんに」

やはりそうだったのか。なんて馬鹿なことをと思うと同時に怒りが湧き上がってくる。あの目の濁りは薬から来たものだったのだ。そして感じてた違和感・・・それはゼロの記憶がないルルーシュというよりは記憶の変えられたルルーシュに対する違和感だったのだ。

「1本使って記憶を改竄すると、それがキチンと改竄されるまで次の記憶の操作はできないんです。まだ2本しか使ってないんですけど・・・それでもナナリーとゼロに関する記憶は全て消せましたよ。あなたの記憶を消すのはここを去る直前でいいかなって思ってたんですけど、まさかあなたがあんな行動するとは思ってなかったんでね・・・」

やはり見られていたのだ、ルルーシュとのやり取りを。注射をするごとに記憶が変えられるという。ロロは目的の記憶をどう操作して変えるのかまでは教えるつもりはないらしい。しかし弟といえどルルーシュがそう簡単に二度も注射をさせるだろうか?そう考えたが眠っているところを狙えば可能かもしれない。ロロはルルーシュの記憶を自分のいいように改竄してここから逃げるつもりだ。それは=ゼロの消滅と同じだ。すでにルルーシュの中からゼロの記憶はない。だがまだ今なら・・・。スザクはまずロロを捕まえるよりルルーシュを保護したほうがいいと考え駆けだした。しかし。

「動かないでください」
「っ!?」

完全にスキをついて走り出したはずなのに、いつの間にかロロはスザクの前に回って拳銃をスザクの心臓の上に押し付けていた。さっきまで後ろにいたのに、一瞬で目の前に現れたロロ。そんなこと人間ができる動きじゃない。まさか、と思うと同時にロロの左目が赤くなったのをスザクは見た。

「ギアス能力・・・!」
「正解です。僕のギアスは体感時間を止めるギアス、あなたじゃ僕には勝てません」

片手で拳銃を構えたままロロが注射器を持つ。今動けば弾丸が心臓を貫くだろう。その前に拳銃を叩き落とすことは可能だが、体感時間ということは相手の感じる時間だけを止めるということ。いくら今の状況を脱出できたとしても体感時間を止められてしまえば状況は変わらない。注射器についていたストッパーを外して、ロロが注射器をスザクの後ろの首筋に添えた。その場所は、先ほどルルーシュの後姿を見たときに絆創膏が見えた場所だった。

「この注射、注射しなきゃいけない場所が決まってるってところが難なんですよね。それに一番簡単にできる場所ってここしかなくて」

「そういうことか・・・」

ルルーシュにもギアスを使い、体感時間を止めてる間に注射をしたのだろう。首の後ろなら自分で見えることはないだろうし、ロロが適当な嘘をついて傷口を隠してしまえば注射の跡だとばれることもない。

「僕の記憶を変える気か・・・?」
「兄さんに関する記憶を少し変えさせてもらうだけです、まぁ皇帝と直接会う機会あるあなたでは記憶が改竄されたことがバレるのも時間の問題だと思いますけどね。どうせブリタニアの作った薬だから治す薬もあるでしょう、よかったですね」

馬鹿にしたようなセリフに頭に血が昇る。どうすることもできない状況、諦めるしかないのかと悔しくてしょうがなかった。 こんなところで立ち止まるわけにはいかない、いまここで記憶を変えられてしまったらルルーシュに真実を聞けなくなる。ルルーシュに一生会えなくなる。急に心の奥から滲んできたルルーシュに対する愛しい感情。汗がスザクの頬から首筋に流れたのを合図に、ロロは躊躇なくスザクの肌に注射器の針を射し込んだ。


「さようなら枢木スザク。もう兄さんは僕のものだ。」




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酷い捏造小説ですいません。黒ロロかわいいよ黒ロロ
注射器のイメージは、ハンコ注射みたいなやつって思ってください。