人を見た目で判断してはいけない。 そう得意げに言ったルルーシュの下にはジノがうつ伏せの状態で悲鳴を上げながら両足をバタバタとさせている。 一瞬の出来事だったので傍に居たアーニャやロロは驚いていたが、スザクはだから言ったのにと生徒会室の床に伏しているジノを憐れむような目で見ていた。 ルルーシュは両腕でしっかりとジノの右腕を抱えており、ジノの腕は後ろに大きく逸らした状態で固定されている。 関節技に分類されるそれは非力なルルーシュでもジノを押さえつけられる技だ。 動けば動くほど辛くなる痛みにジノが涙目になりながら床をばんばん叩いて、ルルーシュは満足したのかゆっくりとジノの上から退いた。 腕を解放された途端、ガバリと起き上ったジノが右腕を抱える様に蹲る。 やりすぎだよ、とルルーシュに苦笑したスザクだったがあまり本気で言ってるようには見えなかった。 ルルーシュは何事もなかったかのように椅子に座り、テーブルに置かれてあった水のペットボトルを一口飲む。 心なしかルルーシュの顔は満足そうだった。 事の発端は、ほんの数分前のことだ。 会話は、アーニャはラウンズではあるが女性でもあるからナイトメア以外での戦闘は不利になるのではないか?というものだった。 どうしてそんな話になったのか、それはルルーシュのほんの些細な疑問であったからだ。 答えから言ってしまえば、アーニャは肉体派ではないものの常人よりかは力を持っているという。 だからルルーシュだって守ってあげられると冗談交じりで言ったアーニャにそれは頼もしいなとルルーシュも冗談で言って、それで会話は終わるはずだった。 しかし何処から話は逸れたのか、話題は生徒会で一番ひ弱なのはルルーシュではないか?という話になったのだ。 それを言い出したのはジノなのだが、そのことにルルーシュは怒っていた。 ジノやスザクよりも力が弱いのは仕方ないとして、リヴァルやロロよりもというのもまあ不満ではあるがいいとする。 けれどミレイやシャーリー、アーニャよりもひ弱だと決め付けられるのは納得がいかない。 そしてジノが、でもこんな細い腕で、とルルーシュの右腕を掴んだ瞬間それは起こった。 掴んできたジノの手をルルーシュの左手が捕まえ、ぐいとジノの腕を内側に捻った。 内側に捻られた痛みで手を離したジノが無意識のうちに前のめりになりながら腕の捻りを解こうする。 しかしルルーシュは前のめりになったジノの身体を利用するように、左手はジノの腕を捻ったまま右手でジノの肩甲骨を押した。 その瞬間、ルルーシュの力で押したくらいでは絶対に倒れる筈のないジノがうつ伏せに床に激突した。 倒れたジノが何が起こったのか理解する前にルルーシュは捻り上げたままのジノの腕をがっちりとホールドする。 ぎりぎりと筋を絞られるかのような痛みにジノが悲鳴を上げて…それがさっき起こったことの全てである。

「アーニャ、私の腕はちゃんとついているか…ッ?」
「ジノ、情けない」

未だ床に蹲ったまま呻いているジノをアーニャが冷やかな目で見下ろす。 名高いナイトオブラウンズのスリーがこんなことで泣き言を言っているなど皇帝や国民に知れたらきっとジノに対する評価は静かに下がっていくだろう。 涙目を拭ってからジノは立ち上がり、まだ痛む腕を押さえながらルルーシュを見た。

「先輩っ痛いじゃないですか!」
「そっちが悪いんだろう。人を見かけで判断するからだ」

勝手に弱いと決めつけられてルルーシュはまだ怒っているようだ。 納得がいかないというように、でも、と口籠るジノを見てスザクが笑う。 自業自得だよ、と肩を竦めるスザクはルルーシュのそれを知っていた。 何故なら幼いころは彼のその護身術の餌食によくなっていたからだ。 ルルーシュは幼いころに護身術を学んでいた。それは力のない子供が身を守るための手段の一つとして覚えさせられていたのだ。 今ではもうきちんと護身術を習ってはいないが、それでも昔学んだ技などはルルーシュの身体にまだ染みついていた。 ルルーシュは力や体力は無いが、一応自分の身を守る技は持っていたということだ。

「僕なんか昔はよく投げられてたよ」
「ス、スザクを投げる?!信じられないな…」
「でもまあ昔の話だから…ねえルルーシュ?今はどうだろう?」
「…今のお前を投げる自信はさすがにないな」

昔はお互い子供だったからルルーシュもスザクを投げることはできた。 けれどもあれからもう何年も経っていて、お互いに体格がそれぞれ異なっている。 例えルルーシュの方が僅かに身長が高かったとしても、スザクの筋肉のついた身体をルルーシュは投げられないだろう。 そもそも、護身術と言っても今のルルーシュにできることと言ったら相手の動きを封じることくらいしかできない。 しかも相手が攻撃してきたとき限定でだ。それ以外ではきっとルルーシュの護身術は役に立たない。 また、あまりにも相手の力が強すぎてもルルーシュのそれは役に立たない。 改めて護身術を学べばまた違ってくるのだろうが、ルルーシュは今は今以上の技を取得する必要はないと考えている。 ただ、昔は投げることができたスザクが今ではもう力比べでも敵わないと思うと複雑な気分だ。

「先輩、もう一回ちょっとやってみて下さいよ!」
「は?なんでもう一度やらなきゃいけないんだ」
「さっきのはちょっと油断してただけなんで、今度は大丈夫だと思うんです」

もう痛みが引いたのか、ぶんぶんと腕を回しながらジノが意気揚々とルルーシュを見つめる。 ヘイヘイと両手を自分のほうに招きながらジノは中腰でじりじりとルルーシュに歩み寄った。 子供のような目の輝きに笑いそうになりながらも、ジノの要求に意味が分からないとルルーシュはそっぽを向いた。

「馬鹿か。わざわざ構えてる相手に自分から…っうわっ!?」
「捕まえたーっ!」

ルルーシュがよそ見をしている隙を狙い、ジノがルルーシュを背後から抱き上げる。 後ろから腹を抱えるように抱きあげられてルルーシュの両足が宙を蹴った。 そのまま樽を持ち上げるかのようにルルーシュはそのままジノの胸に抱き寄せられる。 ルルーシュは驚いて両手足をバタバタと暴れさせた。

「なっ、何するんだ!下ろせ!」
「いっ痛い痛い!」

ジノの三つ編みをぐいぐい引っ張りルルーシュは下ろせと怒鳴る。 けれどルルーシュの抵抗にムッとしたのかジノはそのままルルーシュを抱えたまま、くるくると回り出した。 まるでコーヒーカップに乗っているかのようにルルーシュの視界が回転する。 そのまま投げ飛ばされるかと思うほどの遠心力にルルーシュはジノの両腕にしがみ付いた。 抱き上げられている状態はとても不安定で、三半規管が馬鹿になりそうだ。 ルルーシュは目をぎゅっと瞑りながらもジノを罵倒する。

「止めろ!この、馬鹿!離せっ!」
「あははは!」

何が楽しいのかジノは大笑いをしながら回転を続ける。 既に酔いそうになっているルルーシュは、ただひたすらその回転に耐えながら大声を上げた。 そんな二人の様子を少々唖然とした様子でスザクやロロは見ていた。 生徒会室の中でくるくると回りながらじゃれ合っているように見える二人はまるで子供だ。 きっとそれをルルーシュに言ったらまた怒るのだろうが。

「あの二人って、仲良いんですか?」
「…さぁ?」
「二人とも、子供っぽい」

下手に手を出せばこちらに被害が来るのではないかと、スザクとロロとアーニャはただ二人の様子を遠巻きに見ているだけだった。



(全く、あいつは何なんだ!)

ルルーシュは傍から見ても明らかに怒りながら廊下を歩いていた。 まだ足元がふらついているような気がするのは、先ほどジノに散々、文字通り振り回されたからだろう。 ようやく解放された頃にはルルーシュは自分一人の力で立っていることができず、不本意ながらジノの手を借りてやっと歩くことができるくらいだった。 ジノは満足したのかケラケラと楽しそうに笑っていて、それがルルーシュには腹立たしかった。 だいたい、ジノは子供すぎるとルルーシュは思う。彼が真面目に何かをしているところを見たことがあるだろうか?いや、ない。 ジノと言えば身体は大きいがまだまだ性格は子供だ。楽しいことがあればすぐに飛びつき、破天荒に物事を引っ掻きまわす。 ルルーシュは別にそれはそれでいいとは思うが、その被害が主に自分に来るのが不服だった。 このアッシュフォード学園の中だとしても何百人と居る生徒の中で、何故自分がいつもジノの悪戯に付き合わされなければいけないのか。 嫌がる反応を見たいがための愉快犯ではないだろうか?とルルーシュは舌打ちをする。

(ジノのやつ…今度もう一度腕を捻ってやろうか)

苛立ちがなかなか治まらず、ルルーシュは深く息を吐いてから図書室へ向かった。 こんな時は何も考えない方がいい。ジノのあの性格は今に始まったことではないし、彼のあれは変えようのない彼自身なのだから。 そう自分に言い聞かせながらルルーシュは図書室に入る。 この時間は人がいないのか、辺りを見回しても人影は見当たらなかった。 何かいい本は無いかとあてもなく本棚の間をうろつく。 背伸びをしても到底届きそうにない高い本棚に囲まれ、ルルーシュは目についた本を手に取っては戻すという作業を繰り返した。 一番奥の本棚までいったルルーシュは、なんとなく見上げた棚の端に気になるタイトルの本を見つけた。 手に取り、本の中身を読んでみるとなかなか興味深い内容が書かれている。 立ったまま暫くの間ルルーシュがそれを読んでいると、ふと、背後に人の気配を感じた。 ルルーシュが振り返ると、すぐ真後ろに見知らぬ男子生徒が立っていた。 ルルーシュより高い身長で、身体つきの良い、まるで軍人のような体格だ。 あまりに近い距離に居た男子生徒にルルーシュは驚き思わず本を落としてしまう。 バタンとルルーシュの落とした本を、男子生徒がゆっくりと拾い上げた。

「あ、ありがとう…」
「………」

ルルーシュがそれを受け取ろうとするが、男子生徒は本を掴んだまま渡そうとしてこない。 ルルーシュの目をジッと見つめ、口を僅かに開けたままはあはあと息をしている。 気味の悪い立ち姿にルルーシュは一歩後ずさった。けれど、ルルーシュの踵はカツンと本棚にぶつかる。 男子生徒がだんだんと近づいてきているのではないかと錯覚しそうなくらい距離は近い。

「あの、何か用か?」

恐る恐る、ルルーシュがそう訊ねた瞬間だった。 男子生徒は本を投げ捨て、ルルーシュに掴みかかってきた。 ルルーシュの肩を押さえつけるように抑え込み、身体全体でルルーシュを本棚に押し付ける。

「なっ…!」
「ランペルージ、俺…!」

初めて口を開いた男子生徒の声は体格に似合わず意外と高い声だ。 身の危険を感じたルルーシュは男子生徒の手を、先ほどジノの手を捻り上げた時のように掴もうとする。 けれど、肩を押さえられる力があまりにも強くルルーシュは痛みに声を上げる。 必死に両手を突っぱねて男子生徒の胸を押し返すが、はあはあと荒い息を続ける男子生徒は勢いを緩めない。 それどころかルルーシュの首元に顔を突っ込んで、まるで匂いを嗅ぐように鼻を擦りつけてきた。 すぐ耳元で聞こえてくる息使いにルルーシュは全身に嫌な鳥肌がざわりと立つ。

「やっ、め……!」

以前から、同性にそういう目で見らているということには気づいていた。何度かそのような告白も受けたことがある。 だがしかし、このような経験は初めてだった。まさかこんな白昼堂々と襲われるだなんて。 ルルーシュは逃げ出そうと暴れるが、背後の本棚から本がバタバタと落ちるだけで男子生徒は一歩も引かなかった。 それどころか空いた手が胸を這いずり回り、制服のすき間を見つけて侵入してくる。 もぞもぞとルルーシュの肌を撫でる男子生徒の手が熱い。けれど僅かなすき間からでは手をうまく動かすことができないらしく 男子生徒は舌打ちをしてからルルーシュの制服に手を掛けた。男子生徒が何をしようとしているのか分かったルルーシュの顔から血の気が引く。 やめろ、離せ、とルルーシュが何度も叫ぶ。 けれどもそんなルルーシュの叫びすら楽しんでいるように男子生徒はにやりと笑うとそのままルルーシュの制服を横に無理やり開いた。 前を止めていたボタンが壊れるように外れ、中のワイシャツに至ってはボタンがあちらこちらに弾け飛んだ。

「…ッ」

ルルーシュは最早、声も出せなかった。目の前で起きている現実を受け入れることができず、縋りつくように本棚を掴む。 いくら暴れてもいくら抵抗しても太刀打ちできない相手に、どうすることもできない。 恐ろしさからか、それとも諦めからか、身体が硬直してうまく動かなかった。 シチュエーションは違うが、このような場合はどう逃げたらいいかと考えたことがあった。 けれども、例えいくら頭で考えていたとしても実際にできなければ意味がない。 そう、遠い昔に覚えたままの護身術など本当に危険な時に使えなければ役に立たないのだ。 ルルーシュの股の間に男子生徒の太股が押し付けられる。 ぐいぐいと下から持ち上げるように迫ってくるそれにルルーシュはぎゅっと目を瞑った。 呼吸が止まりそうになり、ルルーシュが心の中で嫌だと叫んだ時だった。

「っ何をしてるんだ!」

怒鳴り声が静かな図書室に響く。 突然の声にルルーシュと男子生徒は驚き、本棚の向こう側に立つ人物を振り返り見た。 そこには、ルルーシュが今まで見たことのないような怒りの顔でジノが立っていた。

「ジ、ノ…」

思わずルルーシュがジノの名を呟く。その声に導かれるかのようにジノは男子生徒に掴みかかった。 男子生徒はさっきまで離そうとしなかったルルーシュからあっさりと離れ、それどころかルルーシュを押し退ける様に逃げ出す。 突き飛ばされたルルーシュはそのまま近くの本棚に背中をぶつけ、ずるずると床に倒れ込む。

「待て!…ッ!?」

逃げ出す男子生徒をジノは追いかけようとした。けれど、ジノはルルーシュの後ろの本棚を見て、すぐさま追うのを止めた。 代わりにルルーシュの上に覆いかぶさるようにルルーシュの身体を胸の中に閉じ込める。 その直後、ルルーシュが本棚にぶつかった衝撃で本棚の上に不安定に積まれていた本が落ちてきた。 ドサドサと重量のある本が降ってきてルルーシュは身を縮みこませる。けれどルルーシュの身体に痛みは無かった。 積まれていた本が全て落ち、辺りがシンと静かになる。覆いかぶさっていたジノが退き、そろりとルルーシュが目を開ける。 何が起こったのか分からなかったが、ルルーシュが顔を上げるとジノが眉を顰め真剣な眼差しでこちらを見ていた。 周りを見れば無数の本が散らばっており、ルルーシュはそこで初めてジノに本から守られたのだと気付く。

「先輩、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……。ッ…!」

大丈夫だ、と答えようとしたルルーシュは思わず言葉を止める。無残に引き千切られた己の服が見えたからだ。 咄嗟にシャツを寄せて肌蹴ている部分を隠すが、ボタンの飛んでしまったシャツでは頼りなさすぎる。 制服の上着に至っては無理やり開かれたからか破れているところもある。 ジノにこんな姿を見られてしまい、ルルーシュは悔しさや恥ずかしさから唇を強く噛んだ。 笑われるだろうか、軽蔑されるだろうか。いつものジノを思い浮かべれば、何をやってるんだと笑い飛ばしてきそうだ。 ルルーシュがジノと目を合わせられずにいると、ふわりと温かい何かがルルーシュの両肩にかかった。 ジノが自分の上着をルルーシュの肩に掛けていた。

「ジノ…」

ジノはルルーシュの頭を撫でながら、何も言わなくていいというように首を横に振った。 ジノの顔はまるで自分が傷つけられたのかと思うくらい悲しい色に染まっており、ルルーシュは思わず唖然としてしまう。 ルルーシュは、ジノを子供だと思っていた。いつも馬鹿なことばかりをやって、無邪気に笑いながら何も考えていないようにニコニコと笑う子供。 だが、今目の前にいるジノはどうだ。この状況を笑ってなどいない。撫でてくる手つきはとても優しく、ルルーシュは混乱してしまいそうになる。 ジノの空いた手がそっとルルーシュの肩を抱き寄せる。ジノの肩口に頬を押しつけられ、ルルーシュは戸惑いながらもジノのシャツを掴んだ。

(これが本当に、ジノなのか…?)

いつもの彼からでは想像もできない。初めて見た怒りの顔、そして真剣な瞳。悲しみに染まったあの表情の意味は何だろうか? 同性に襲われた自分を憐れんでいる?それとも、同情していた?いや、どちらも違う。あの悲しみの表情の意味は、きっと、慰めだ。 抱きしめてくるジノの腕の力は優しく、何もかもを包み込むようなものだった。初めてジノの本当の姿の一部に触れたような気がして、ルルーシュは胸を締め付けられながらもそっと目を閉じた。



「あ、」
「ん?」

ルルーシュが生徒会室に入ると、そこにはジノの姿しか無かった。携帯電話を弄っていた手を止め、ジノはいつも通りの笑顔でルルーシュを出迎える。こんにちはと何でもないように挨拶してきたジノにルルーシュは少々気まずさを覚えながら小さく返事をする。図書室での件があった以来初めてジノに会うのだ。いったいジノにどんな顔をして会えばいいのだろうかとルルーシュは考えていた。あの時は何だかんだと別れてしまい何も言うことができなかった。礼を言うべきなのだろうかと迷っているのだが、あの時のジノを思い出すとなんだかむず痒い気持ちになる。ルルーシュがジノからテーブルを挟んで反対側の椅子に座る。ジノは携帯を仕舞い、ニコニコと笑みを浮かべながらルルーシュを見つめていた。

「…なんだ?」
「え?いや、何でもないですよ?」
「…そうか」

いつもなら簡単に出てくる言葉も今日は言えない。ルルーシュはジノの視線から逃げながらもチラチラとジノの顔を見た。あの時のことがあったのは知っているはずなのに、ジノはまるで何もなかったかのように笑っている。そういえば、いつもジノは笑っていたなとルルーシュは思った。いつだってジノは笑っていて、くだらない悪戯をしては笑顔を絶やさないでいて。だからルルーシュは、ジノなんて何も考えていない子供なのだと思っていた。ラウンズだとしても、ただ力が強いからであるとも思っていた。けど、本当のジノは違った。本当のジノはルルーシュが簡単に計れないくらい、想像もつかない人間だったのだ。それを自分は見てくれだけで判断をしていた。ルルーシュは何だか急に恥ずかしくなって、顔を上げジノをしっかりと見た。

「ジノ、その…あの時はすまなかった」
「いいんですよ。それに先輩、すまなかったじゃなくて、ありがとうって言ってほしいな」
「はは…そうか。…ジノ、ありがとう」

ルルーシュが微笑むと、ジノもそれに応える様に微笑んだ。そして大きく背伸びをしてから、テーブルに身を乗り出してルルーシュの顔を覗きこむ。

「私のこと、見直してくれました?」
「ん?ああ、そうだな。お前があんなに頼もしいとは思ってなかったよ」
「う…なんだか先輩に素直に褒められると怖いなぁ」
「なんだ?人がせっかく褒めてやってるのに」

失礼な奴だなとルルーシュは首を竦める。確かに今まで素直にジノを褒めたことなどなかったような気がする。はははと笑うジノを眺め、ルルーシュはフッと緩やかに笑った。ジノは相変わらずニコニコと笑いながら、ルルーシュに向けてひらひらと手のひらを揺らす。

「言ったでしょ、先輩。人を見かけで判断しちゃいけないって?」




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オンとオフの差が激しいジノとジノを過小評価してたルルーシュ