※ト*ト*ロパロディ。ト*ト*ロ本編のネタバレ含みます。
サツ.キ→ルル メ.イ→ナナリー カン.タ→ロロ トト.ロ→スザク
その他、原作と設定が違うところがあります。中途半端に始まり中途半端に終わる。
ネタをネタとして楽しめる、ふざけたパロディでも許せる方のみどうぞ





ナナリーが居なくなってどれくらいたったのだろう。ルルーシュは走っていた。 母の容体が悪くなったと電報が届き、そんな時こそ兄として妹を支えてやらなくてはいけなかったのに自分のことで精いっぱいになってしまった。母からナナリーを頼むといわれていたのに、約束を守れなかったことが悔しい。村のどこを探してもナナリーは見つからない。どうしよう、どうしよう、とパニックになりながら病院と村をつなぐ道を、村に向かって走った。あともう少ししたら日が落ちてしまう。地平線が赤く染まっている空を見上げてルルーシュは泣きたくなたった。 さっきの、トラクターに乗った若い男女との会話を頭の中で繰り返す。

『妹を探してるんです!女の子見ませんでしたか!?』
『あなたの妹さん?』
『ブリタニア病院へ行こうとして迷子になったんです・・・!15歳くらいの女の子です!』
『女の子・・・会長、気がつきました?』
『ううん、リヴァルは気づかなかった?』
『俺も見てないなぁ』
『本当に見ませんでしたか!?ブリタニア病院へ行ったはずなんです!』
『いえ、あのね私達ブリタニア病院から来たの。でもそういう子は見なかったわ』
『・・・そう、ですか』

ブリタニア病院から来たという彼らがナナリーを見ていないということは、ナナリーはブリタニア病院へ行ってないということになる。 しかし今のナナリーが行くところと行ったら、母の居るブリタニア病院しか思いつかなかった。ブリタニア病院へ続く道は一本道とは言え、何度か別れ道がある。以前病院に行った時はナナリーは自転車の後ろに乗っていただかだから道をはっきり覚えていないのだろう。まだ真っすぐブリタニア病院に行っててくれたほうがマシだったと、ルルーシュは息を切らせて走った。もともと体力のない自分がこんなにも長い時間走っていられるなんて少し自分でも信じられない。ナナリーのためならこのくらい、と思っても足はもうガタガタだった。

「おーい!」
「ッロロ!」

道の向こうから自転車に乗ったロロが見えた。ロロはルルーシュ家の隣に住むヴィレッタの子供だ。最後にナナリーの姿を見たのはロロで、ロロは自分があの時ナナリーと別れなければと後悔している。決してロロのせいなんかじゃないとルルーシュはロロに言ったが、ロロは罪悪感を感じているようだった。引っ越してきて最初は反りが合わなかったが今やロロはルルーシュを「兄さん」と呼び慕っている。ルルーシュがロロに駆け寄るとロロは自転車を止めた。

「ナナリーは見つかったかっ?」
「いや、まだ・・・こっちも?」
「ああ・・・っ」

やはりまだ見つかってないんだと落胆する。ロロは大丈夫かとルルーシュの背中を撫でたが、礼をいう気力はルルーシュにはなかった。

「今、父さん達が探してる、僕代わりにブリタニア病院へ行くから兄さんは家に戻ってて」
「違う!ナナリーは病院へ行こうとして道を間違えたんだ、きっと・・・!」

田舎とは言え危険がないわけではない。もしナナリーに何かあったらどうしようとルルーシュは涙が溢れそうなった。 ルルーシュが首を振るとロロが顔を歪ませた。少し言いにくそうに口を開く。

「さっき、池でサンダルが見つかったんだ」

ロロの言葉に、目の前が真っ暗になる。池、知っている、だってあの池は一度ナナリーが足を滑らせて落ちそうになった池なのだ。サンダルがそこで見つかった?確かナナリーもサンダルを履いていなかっただろうか?池でサンダルが見つかったということは、ナナリーが池に落ちた・・・?呼吸が止まり、ルルーシュは弾かれるように駆けだした。村に向かって一目散に走りだしたルルーシュをロロは振り返って叫んだ。

「まだナナリーのものって決まったわけじゃないよ!!!」

その声が聞こえたどうか分からないうちに、ルルーシュの姿はロロの視界から遠ざかっていく。走っていくルルーシュの後姿を、ロロは切ない目で見つめていた。そして、早くナナリーを見つけなくてはと自転車にまたがった。


来た道をひたすら走り続ける。走りすぎてわき腹が痛かったがそれでも足を止めなかった。頭に浮かぶのは池に落ちて溺れるナナリーの姿。ナナリーは泳げないのだ、もし池になんか落ちたりしたら溺れてしまう。もしかしてナナリーが池に落ちていて、溺れていたらどうしよう。もっと村の中をきちんと見ておけばよかった、そうしたらサンダルに気づいたかもしれないのに。小川にかかる小さな橋を渡ると、稲を積んだ村の住民とすれ違った。

「妹さん見つかったかい?」

返事をする時間も惜しく、そのまま走る。母が危篤で危ないというのに、その上ナナリーまで失ってしまったら。そう思うとルルーシュは胸が苦しかった。緩やかな登り坂の小道で足を止める。両ひざに手をついて息を整えた。ヒューヒューと咽喉が鳴る。乾ききった咽喉が潤いを求めていた。何気なく足元を見ると、長いこと荒れ道を走ったせいでサンダルも足も土で汚れていた。ボロボロになったサンダルを脱ぎ、両手に持つとまた走った。裸足で走るなんて、いつもは土と石の感触が痛くて走れなかったのに今は全然気にならない。走りにくいサンダルを持ってルルーシュは池に向かった。池のサンダルがナナリーのサンダルじゃありませんようにと願いながら。


「ヴィレッタさん!ルルーシュが来たよ!」

ルルーシュが池につくと、そこには村の人が大勢集まっていた。大人たちが長い棒を持ち池の中を探っている。女子供が土手で見守る中、ヴィレッタが何かを持って縋るように池を見つめていた。ルルーシュが急いでヴィレッタに近づくと、ヴィレッタはルルーシュに気づいたように立ち上がり持っていたものを差し出す。

「ヴィレッタさん・・・!」
「これ・・・これなんだが・・・」

ヴィレッタの土で汚れた手の上に、小さなサンダルが乗ってる。ヴィレッタの手がルルーシュの返答を恐れる様に震えていた。はあはあと息を乱しながらルルーシュをそれを見つめた。確かにサイズはナナリーと同じくらいのものだ。無言のままサンダルを見つめるルルーシュに、周りの視線が集まる。何も言わないルルーシュにヴィレッタはまさかと顔を青ざめた。数秒の沈黙のあと、ルルーシュが顔を上げる。少し口を笑わせて言った。

「ナナリーのじゃない」

その言葉を聞いてヴィレッタは目を見開いた。これはナナリーのじゃない。ということはナナリーは池に落ちていない。そう理解した時、身体中の力がふっと抜けた。へなへなと座り込むヴィレッタにつられ、安心感からくる脱力にルルーシュも地面に座り込んだ。ルルーシュの言葉を聞いた周りの人々も安堵の息を洩らす。池の中に入っていた大人たちも上がってきて、ヴィレッタとルルーシュを囲んだ。

「私はてっきりナナリーのかと思って・・・」

確かにサンダルはナナリーのものとよく似ているが、それはナナリーのサンダルではない。ナナリーの履物はすべて覚えているルルーシュは、ヴィレッタの見せたサンダルには見覚えがなかったのだ。池の中にいた畑隣りに住む玉置がヴィレッタの言葉を聞くと、呆れたように言った。


「なんだヴィレッタの早とちりかよ」
「おーい!間違いだとよー!」

ヴィレッタの夫の扇が池に入っている大人たちに叫ぶと、皆脱力して口々に勘違いだったのかよと漏らした。ヴィレッタの早とちりということに周りがざわつき始める。じゃあナナリーちゃんは何処にいるのかしらと若い女が言った。ルルーシュは今だに整わない息を吐きながら呆然と地面を見つめた。池にあったサンダルはナナリーのものではなかった。ならナナリーは今どこに?この池に落ちていなくても、もしかしたら他の池や小川に落ちているかもしれない。それとも何処か違う道を今もまだ歩いているのか・・・。全く見当のつかないナナリーの居場所に、ルルーシュは絶望した。一つ一つ池や小川を調べるなんて時間がかかりすぎる。自分は妹一人助けられない兄なのかと拳を握った。


『ルルーシュが困ったら、いつでもおいで。僕が助けてあげるよ』


ふと、脳裏に彼の言葉が蘇った。ハッと後ろを振り返ると、夕暮れの空をバックに大きな楠の木がそびえ立っている。この村で出会った不思議な彼。何かに取りつかれたようにルルーシュは立ち上がった。周りの人々がどうかしたのかとルルーシュを見るが、ルルーシュは楠の木に向かって走り出していた。止める声も聞かず家に向かって走る。家の前を流れている小川を乗り越え、雑木林を抜けると家のすぐ裏に出た。木が入り組んだ森への入口。まるで門のように丸く形を作っているそれの前に立った。確か、ここを通れば・・・。ルルーシュはこの場所について思いだした。

『お兄様、私朱雀さんに会ったんです!』
『朱雀って、絵本に出てくる森の主のことか?』
『絵本の朱雀さんとは姿が違いましたが、きっと朱雀さんです!』

この村に引っ越してきたばかりのころ、ナナリーが家の裏にある樹林で倒れていたことがある。遊び疲れて寝てしまったのかと思ったのだが、ナナリーは朱雀に会ったと言っていた。朱雀とは家の裏の森の中心に立つ楠の木で会ったと言った。最初は夢でも見ていたのだろうとナナリーの言葉を信じなかったが、ある時俺は朱雀に出会った。雨の日のバス停、無口で威厳のある父が傘を忘れたのでナナリーとバス停まで迎えに行ったのだ。雨の中、眠ってしまったナナリーを背負ってバスを待っていた。すると、傘もささずに頭に大きな葉を乗せた同い年くらいの男が歩いてきたのだ。最初はおかしなやつだと思って無視していたが、強くなる雨に濡れる彼を見ていたらなんだか放っておけなくなった。

『あの・・・傘、貸すか?』
『へっ?』
『だから傘。ほら、させよ』
『でも・・・』
『早く、ナナリーが落ちる』

バスに乗るまでなら貸してもいいだろうと父の傘を貸したら、その男はなんと傘の差し方も分からないらしい。変な男だと思いながら使い方を教えると、男は傘に落ちる雨音に顔を喜ばせていた。子供みたいな仕草に思わず笑ってしまったが、次に男がした行動に自分の目が信じられなかった。男はまるで階段を上るかのように軽くとん、と飛んだ。ほんの20センチほどしか飛ばなかったというのに、男の足が地面に着いた瞬間大きな地震が起こった。地面が揺れ、地盤が下がったかのように自分の体もふわっと浮く。ドォンと大きな地響きが鳴り、頭上から大量の雨が降ってきた。耳を塞ぎたくなるような音が鳴り響く。一体何をしたんだと隣の男を見たら、その男の頭についているモノに目が釘付けになった。茶髪の髪に埋もれながらも立っている"何かの獣の耳のようなもの"。そして、ナナリーの言っていた朱雀がこの男だということを悟った。そうしているうちに遠くのほうからライトの明かりが見え、バスがついたのかと振り返る。だがそこにはバスなんかではなく、何か大きな、まるで映画に出てくるようなロボットだった。そのロボットがものすごいスピードでこちらに向かって走ってきて、目の前で急停止した。目の前のものが信じられずに愕然としていると、隣の男が俺に向かって何かを差し出した。

『傘、ありがとう!』
『へ?いや、あの』
『君、その子のお兄さんだったんだ』
『ナナリーのことか?じゃあ、お前本当に朱雀なのか?』
『おしい、発音が違うよ。僕は"スザク"、また会おうね』

それだけいうと"スザク"はロボットに乗り、来た時と同じように物凄いスピードで走り去って行ってしまった。本当に居たんだと思うと同時に、父の傘を持ってかれてしまったと思った。それからだ、スザクが自分によく会いにくるようになったのは。郵便屋に扮してルルーシュに会いにきたスザクは、あろうことか自分に惚れたと言ってきたのだ。今まで人間にやさしくしてもらったことがなかったと言うスザクに、ルルーシュは驚きすぎて開いた口がふさがらなかった。どうやら会いに来る時は帽子が耳を隠しているらしく、帽子をかぶればスザクは人間にしか見えなかった。ふらりと来たかと思えばぱったりと姿を見せなくなったり、自由気ままなスザクにルルーシュは少しずつ振り回されていった。スザクはいつも言う、困ったらおいで、と。おいでと言われてもスザクがいつもどこにいるかなんてルルーシュは知らなかったし、会いに来るのはいつも向こうからなのだ。

(お願いだ・・・うまくいってくれ・・・!)

目の前の雑木林を見つめながらルルーシュは祈った。もう自分の力ではどうすることもできない。池で振り返り見た楠の木にスザクの姿を思い出したのだ。そして気づいたらここに来ていた。ナナリーがスザクに会ったというこの道。何度通っても、すぐ脇のところに出てしまう。きっとそれはスザクが普通の人を寄せ付けないために何かをしてあるのだろう。ルルーシュは一息ついてから森に言うように口を開いた。

「お願いだ、スザクの所へ通してくれ!ナナリーが迷子になってしまったんだ!もうじき暗くなるのに、あの子は何処かで道に迷ってるんだ!」

一か八かというように、ルルーシュは雑木林の中へと入った。中腰になりながら雑木林の中を駆ける。木の根っこがまるで筒のようになって道が続いていた。薄暗いその中を走る、スザクに会いたいと願いながら。今まではすぐに出口についてしまっていたのだが、今回はいつまでたっても出口が見えなかった。うまくいったのか?とルルーシュが不安に思っていると、向こう側に明るく光が射す出口があった。足を止めそれを凝視する、ふんわりとしたオレンジ色の光。出口だと分かりルルーシュそこへ向かって走り出した。早く早くと焦りながら走り、もうすぐ出口だというところでルルーシュは足もとの根っこに躓いてしまった。

「うわっ!!!」

身体が傾き、走っていたせいでそのまま前のめりに出口へ飛び出す。てっきり出口から道が続いていると思っていたが、ルルーシュは出口を出た途端空中に放り出された。心臓が持ち上がるような浮遊感に叫ぶ。視界がぐるぐると回り、落ちる!と衝撃に身構えたが、その衝撃は予想していたものとは違った。2本の何かが背中と膝裏を掴んでいる。気持ちの悪い浮遊感が止み、ルルーシュがそっと目を開けると目の前にスザクが顔があった。

「ほわっ!?」
「ルルーシュ、大丈夫?」

ルルーシュはスザクの腕の中にいた。横抱きにされた状態でルルーシュがスザクを見上げる。ここはスザクの寝どこらしい、柔らかい草が敷き詰められてある。大きな円柱のようなこの場所は、草木が生い茂り花が所々に咲いている。森の主にふさわしい場所だ。少し離れた所に誰かが居ることに気づく。1人は女性で、コーヒーだと思われるものを持って突然降ってきたルルーシュにびっくりしていた。もう1人は男性で、眼鏡に手をかけ奇妙な笑い声をあげながらルルーシュを見ていた。その2人とも、スザクと同じように頭に獣のような耳が生えていることに気づき、彼らも人間じゃないのだと分かった。

「どうしたのルルーシュ、そんなに慌てて」
「っそうだスザク!助けてくれ!ナナリーが迷子になってしまったんだ!」
「わわっ!」

ルルーシュがスザクの胸倉を掴んで揺さぶる。不安定な状態でそんなことをするものだから、スザクはバランスを崩し後ろに倒れてしまう。草とは思えない優しさでスザク達の身体を受け止めた草が、ぶわっと辺りに舞う。ルルーシュがスザクを押し倒したような感じになり、スザクが内心喜んでいると頬に冷たい何かが落ちてきた。何かと思いスザクが見ると、ルルーシュがその両目から大粒の涙を流していた。

「探しても見つからないんだ!お願いだ、ナナリーを探してくれ!」
「ルルーシュ・・・」
「今頃、きっと何処かで泣いてる!もう・・・どうしたらいいのか分らないんだ!」

俯き、顔を両手で覆いルルーシュがすすり泣く。それでも手の隙間から流れ落ちた涙はスザクを濡らした。スザクは、こんなに弱り切ったルルーシュを初めて見た。最初に会ったときからしっかりした人間だと思っていたが、今目の前で泣くルルーシュはまるで子供だった。いや、18歳といっても人間からしたらもう成長しきった年齢かもしれないがスザクから見たらまだまだ子供だった。スザクは上半身だけ起こすとルルーシュを抱きしめた。ルルーシュがビクリと身体を揺らして顔を上げる。スザクの真剣な瞳の向こうに優しい感情が見える。


「泣かないでルルーシュ・・・」


そう言うとスザクはルルーシュを安心させるように口付けをした。触れるだけのそれだったが、唇と唇が触れ合った瞬間ルルーシュが目を剥く。眼鏡の男性が茶化すようにヒュ〜と口笛を吹いた。ほんの2、3秒だったが、ルルーシュの顔を真っ赤にさせるには十分だった。スザクがほほ笑みルルーシュの頬に手を添える。

「大丈夫、僕が見つけてあげるよ」
「スザク・・・わっ!」

スザクはそう言うと、再びルルーシュを抱き上げた。急にまた抱き上げられ、この体勢は嫌だと言うがスザクは聞かない。ナナリーを探してくれるのはありがたいが、こういう扱いはプライドが許さない。しかしスザクは暴れるルルーシュを物ともせず寝床から降り、眼鏡の男に言った。

「ロイドさん、ランスロットの準備お願いします」
「あっはぁ〜了解〜!セシルくんっ用意してぇ〜!」
「はいはい。スザクくん、気をつけてね」

この2人は何なんだろうと考えるが、やはり頭の上についているものに目が行ってしまう。姿は人間なのに明らかに怪しい部分がある。そういえばこの2人、何処かで見たことがあるような気がする。 ピエロのように喜ぶ男性を一瞥して女性がスザクに3センチほどの何かを渡した。 長方形のそれをスザクは受け取ると分かりましたと返事をして上を向いた。ルルーシュを抱くスザクの腕の力が強まる。

「しっかり捕まっててね、そうしないと落ちちゃうから」
「落ち・・・?う、わっ――――――ッ!!!???」

スザク飛んだかと思うと、ルルーシュの身体は何十メートルも舞い上がっていた。一回の跳躍でこんなに飛ぶなんて普通ありえないだろと思いながらも、だんだん高くなる視界に思わずスザクの腕をぎゅっと掴む。あっという間にさっきの場所が見えなくなり、木々の間を通り抜けた。自分の身に何が起こってるのか理解できないルルーシュは普段なら絶対に上げない悲鳴を上げながら精一杯スザクに抱きつく。 ガサガサと耳のすぐ横を流れる木の音がパッと止んだ。木々を通り抜けたらしく、あの大きな楠の木の根元に立っていた。

「そんなに強くしがみつかれると動きにくいよ、まあ僕は嬉しいけど」
「な、な、な、おま、なにして・・・」
「まだだよルルーシュ、あともう少しだから我慢してね」

エヘ、とお茶目にスザクがルルーシュにウインクをする。何が?と尋ねる前に、スザクの身体は動いていた。まるで重力を無視した動き、いや"まるで"じゃなくてこれは重力を無視している。スザクはルルーシュを抱えたまま木の幹を垂直に上っていた。あまりにもすいすい上っていくのでこれが当たり前なのかとも勘違いしてしまう。しかしふと見た地面の、その高さと言ったら。ルルーシュはスザクが楠の木の頂点に登りきるまで悲鳴を上げ続けた。

「もう日が落ちてきてるね」
「はぁ・・・はぁ・・・っ・・・おまえ・・・!」

頂点に立つとスザクはルルーシュを木の枝の上に下ろした。まるでジェットコースターを連続で乗ったかのように身体がふらふらする。不安定な枝に下ろされて、ルルーシュは反射的にスザクにしがみついた。木登りにしたってこんなに高い場所登ったことない。必死にしがみついてくるルルーシュをスザクは内心可愛いなぁと思いながら地平線の向こうを見つめた。スザクの視線の先をルルーシュも見る、何かがこちらに向かってきていた。

「ルルーシュ、見てごらん」
「あれは・・・!」

山の向こうから物凄いスピードで何かが走ってくる、前に一度バス停でスザクを迎えにきたロボットだ。ロボットは縦横無尽に大地を駆け巡り、楠の木に向かってきている。電車が走ってきている線路を、電車通過ギリギリで横切る。線路の横にある田んぼに何人かが立っている、ナナリーを探してくれている村の人だ。ロボットはその村の人たちの目の前を走りぬけた。ロボットが走りぬけた途端、突風が起こったかのように周りが風で揺れた。目の前をロボットが通ったというのに、村の人たちは気づいていないようだ。

「あのロボット、みんなには見えていないのか・・・?」
「ロボットじゃないよ。"ランスロット"っていうんだ」
「ランスロット・・・」

ランスロットはそのまま一直線に楠の木の根元までくると、大きく跳ね上がった。枝をいくつも踏みあげて、とんとんと上に登ってくる。なんだか恐ろしくてスザクを見るが、スザクは笑っているだけだった。ランスロットが真下から現れ、スザクの周りをくるりと回ってから背後に停止した。プシュー、と音が鳴っている。機械にしか見えないがスザクはこれは機械ではないと言った。

「確かにロボットみたいな見た目だけど、それはロイドさんの趣味だから」

ロイド、確かさっきの眼鏡の男をスザクがそう呼んでた気がする。あの男がこれを作ったのだろうかとルルーシュが首をかしげると、スザクはさっきの女性から渡された長方形の何かを取り出した。ランスロットの体をトントンとノックすると、顔の部分がぐりんとこちらを向く。

「い、生きてるのかっ?」
「生きてるっていうのかな、うーん、なんていうんだろう」

もう一度スザクがランスロットを叩く。するとランスロットの上部が開いた。以前バス停にランスロットが来た時、スザクがあの上部から入っていったのをルルーシュは思い出した。開いた所から三角の足場がついたケーブルのようなものが垂れてくる。もしかしなくてもこれに乗らなくてはいけないのだろうかとルルーシュは冷や汗を流した。そんなルルーシュに気づかずスザクは足場に右足を掛けると、ルルーシュに向かって手を伸ばした。


「さあ、ナナリーを探しに行こう!」



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ト/ト/ロファンに申し訳ない。
以下補足配役
トラクターの男→リヴァル トラクターの女→ミレイ 母→マリアンヌ 父→シャルル 小ト/ト/ロ→セシル 中ト/ト/ロ→ロイド お婆ちゃん(ロロの母)→ヴィレッタ
ト/ト/ロ達は、いつもは人間に扮して村で遊んでたりします。なんでこんなことになってしまったんだろう・・・。