謎の頭痛で朝、目が覚めたのは二日前のこと。学校に行くとルルーシュが頭痛のことを心配してくれたから、僕は明日には治ってると思うよと言った。体育の補習があったけど、次の日にしてもらった。そしてその次の日、つまり昨日、頭痛はすっかり治まっていて僕はいつも通り過ごすと放課後に体育の補習をした。補習はルルーシュも一緒だった。帰り道、明日勉強を教えてくれないかと僕はルルーシュに言った。ルルーシュは嫌そうな顔をしたけど、明日だけだからな、なんて言って了承してくれた。そして今日、あの頭痛の日を含めて三日。

「分かんない、全然、分かんないよ」
「落ちつけスザク、そうやってすぐに投げ出すな」
「どうせ僕はルルーシュみたいに頭良くないよ」
「誰もそんなこと言ってないだろ?ほらペンを持て」

ルルーシュが僕がさっき投げ出したペンを指差す。僕は渋々それを再び掴み、数字の羅列が書かれたノートへ押しつけた。夕日は長く、教室に緩やかな光を射し込ませている。僕達以外誰もいない教室の、一番後ろの机。机を挟んだ向こう側にルルーシュは座っている。じゃあもう一度教えるからな、というルルーシュの言葉に僕は後ろ頭を掻いた。数学は苦手だ。ルルーシュは公式さえ覚えてしまえばあとは応用力の問題だというけれど、僕にはそういうのは向いていない。僕から勉強を教えてほしいと言っておいてはなんだけど、ちょっと休憩したい気分だ。問題文章を読みはじめようとするルルーシュの口の前に僕は掌を突きつける。待ったをかけられたルルーシュは怪訝な目で僕を見た。

「どうした」
「ちょっと、ちょっとだけ休憩」
「休憩?全くお前は・・・まあ、いいだろう」
「よかった」

安堵からへにゃりと笑った僕を見てルルーシュがフッと笑う。慌てて僕は顔を引き締めたけど、間抜けな笑みはルルーシュに見られてしまったようだ。うーんと両手を上げて背伸びをすると、ついでに欠伸も喉の奥から出てきた。ここ最近は軍のほうが忙しかったから、あまり寝れていないのだ。けれど学校にはなるべく来たいと思っているから休まない。本当に来たい時に来られないことがあるから、僕の贅沢で学校を休むことはしたくなかった。僕の欠伸を見たルルーシュが、眉を寄せて訊ねてくる。

「お前最近寝れないんじゃないのか?」
「え?ああ、うん、ちょっと忙しくて・・・」
「身体は大事にしろよ。大事な時期なんだから」
「分かってるよ。ありがとうね、心配してくれて」

僕がそう言ったらルルーシュは更に顔を苦くした。お礼を言ったのに、変なルルーシュだなぁと思いながら僕を指先でペンを転がす。窓の外では木がさわさわ揺れている、しかし、風の音は聞こえない。話題が無くなり自然に沈黙が落ちる。でも気まずくなんかなく、寧ろ心地よかった。ころころと転がるペンを眺めながらチラチラとルルーシュを盗み見る。ルルーシュは涼しそうな顔をしながら、窓の外を眺めていた。ボーっと、遠くを見つめている瞳。ああ、まただななんて僕は思った。ルルーシュはここ三日間くらい、ボーっとしてることが多い。みんなで会話をしているふとした時だったり、授業を受けている時だったり。横を向いて、眩しそうに目を細めて何処かを見ていた。だいたいルルーシュの視線の先は窓の向こうの空だったりして、まるで天気を気にしているように。今日は雨は降らないね、なんて僕が言ったらルルーシュは慌てて僕の方に顔を向けるのだ。遠くを見ていたことに気づかれたくないとでもいうように。ルルーシュが気づかれたくないと思っているのなら、僕は気づかないふりをする。でも、理由が知りたい。どうしてそんなに悲しそうな顔で遠くを見ているのかが。ルルーシュの顔を見ながらペンを転がしていたら、勢い余ってペンが机から落下してしまった。ひゅー、かしゃん!という落下音にルルーシュの肩がビクリと跳ねた。ごめんと僕が椅子を引いて机の下に潜りペンを拾うと、ルルーシュは自分の胸に両手を当てて僕の様子をジッと見ていた。そんなに驚かせてしまっただろうか?僕は机の下から出て、ノートの上にそれをもう一度置いた。

「ごめん、びっくりさせちゃった?」
「・・・いや、音が」
「うん、ごめんね」

ルルーシュは僕とペンを交互に見てから、ふうと息を吐いて上げていた肩を落とした。・・・なんだか、ルルーシュがおかしいような気がする。何処となく違和感を僕は覚えたが、それが何かは分からない。ルルーシュの頭のてっぺんから徐々に視線を落していって、腹の辺りまで行ったところでルルーシュにおいと呼び掛けられた。顔を上げると、口を尖らせたルルーシュがこっちを見ている。

「もう休憩はいいだろう?早く再開しないと時間が無くなるぞ」
「えぇ・・・ううん、もうちょっと・・・」
「駄目だ!時間が無くなるって言ってるだろ」

ルルーシュが腕を組んで僕をキッと睨む。やけに急かしてくるルルーシュに僕はちょっとムッとしながらも、もう一度ペンを掴んだ。でも掴んだだけで、それを人差し指と中指の間に挟んでぶらぶらと揺らす。早く早くと僕を急がせるルルーシュが怪しくて僕は訊ねる。

「もしかしてこの後何か用事でもあるの?」
「えっ?」
「やけに急かしてくるからさ。どう?」
「別に用事は・・・ただ、俺は時間が勿体ないと思って」

しどろもどろにルルーシュが答える。時間が勿体ない、それだけの理由だったのか?僕は教室の時計を見てみる。長い針はちょうど0を指し、短針は5を指していた。教室はいつも5時30分になったら見回りの先生によって完全にロックされてしまう。思っていたよりも時間は早く過ぎていて、あと30分しかないことに少しだけ僕は驚いた。確かにもう残り時間は僅かだ。けれど、僕のやる気はすっかり0にまで下がってしまったため、今から上げようとしてもあと30分では無理なような気がする。僕はペンを布の筆箱へしまった。

「今日はもういいや、終わりにしよう。できなかった所はまた明日聞くよ」
「明日?」
「うん、そう、明日。学校来るでしょ?」
「・・・・・・」

広げたノートやら教科書を鞄の中へ仕舞う。今日は自分なりに結構進んだから、あとは寝る前に少し自分でやってみて明日ルルーシュに答えを聞いてみよう。そう思っていたのだが、ルルーシュがぽつりと呟いた。

「駄目だ」
「・・・えっ?」
「明日は、駄目だ」

僕は鞄に落としていた視線を上げる。ルルーシュが机の向こう側で立って僕を見ていた。やけに静かな、でもハッキリとしたルルーシュの言葉に背中に嫌な汗が流れる。一瞬言葉の意味が分からなかったけど、その言葉を自分の中で反復させてからそうかと気づいた。

「明日、もしかしてナナリーの病院?」

ルルーシュは毎月何日か、ナナリーの病院の付き添いで学校を休む。だいたい火曜とか金曜とか決まっていて、今日は何曜日だったか分からないがもしかしたら明日はその日なのかもしれない。だったら駄目なのもしょうがないなと思って、僕はルルーシュに笑いかけた。

「ルルーシュの時間がある時でいいよ。それじゃあ明後日はどう?」
「・・・明後日も駄目だ」
「あ、そうなんだ・・・じゃあ、その次の」
「駄目だ」

言葉を言い終わらないうちに、ルルーシュに遮られる。ルルーシュは何かに耐えるような顔をしながら、僕を見ていた。今にも泣き出しそうなその顔にぎょっとして僕は慌てる。ルルーシュに何かしてしまっただろうか?心当たりは無い。ただ勉強を教えてもらっていただけだ。何か気に障るようなことを言ってしまったか?駄目だ、自分では全然分からない。シン、と重苦しい沈黙が落ちる。さっきまでの沈黙は心地よかったのに、今流れる沈黙は両肩にずっしりと重く圧し掛かってくる。ルルーシュはぐっと唇を噛んで俯いてしまった。また、何かルルーシュは考えているんだろうか。僕は触れたら壊れてしまいそうなルルーシュの華奢な肩を見る。いつだってルルーシュは自分の中にいろんなものを溜めこんでしまう。ゼロだった時だって、一人で馬鹿みたいに苦しんで。僕はルルーシュの顔を下から覗きこむ。赤くなりかけた瞳がそこにはあった。

「何処か痛いの?」
「っそうじゃない、俺は」
「また何か一人で考え込んでるんでしょ?あの時みたいに。一人で全部抱え込まないって約束したじゃないか」

ゼロレクイエムを決めた日に、二人で決めたこと。負の連鎖を断ち切るために、どちらかがそのマイナスを溜めこまないこと。痛みも苦しみも半分に分けて、僕は生きていくこと。あの時ルルーシュは僕に、お前は溜めこむタイプだからなんて言ったけど僕からしてみればルルーシュのほうが溜めこんでしまうタイプなのだ。ルルーシュが何を悩んでいるのかは知らないけれど、それで苦しんだままでいるのは約束破りだ。僕がルルーシュの腕を掴もうと手を伸ばす。それに気付いたルルーシュはハッとしたように身体を後ろへ引いた。僕の手はルルーシュに触れる寸前で宙を切る。

「ルルーシュ?」
「っ・・・すまない」
「どうしたのルルーシュ?君、ちょっと様子が変だよ?」

流石に僕もおかしいと思った。再び手を伸ばそうとすればルルーシュは身体を後ろへ引く。触れられたくないという意志表示に悲しくなったが、理由もなしにこんなことをするルルーシュじゃないと知っていたから不安が急に膨らんできた。何かまた僕に隠しているのではないか?また僕に嘘をついているのではないだろうか?ああでも、ルルーシュに嘘をついていたのは僕も同じだ。心配かけないようにって言い訳して、ただ人殺しなのを知られたくなかったからランスロットことを黙っていた。僕も嘘つきだね、でもルルーシュ、君ほど酷い奴じゃない。僕は引きっぱなしだった椅子に座った。

「大丈夫だよ?」
「・・・何がだ」
「心配しなくても大丈夫だよ。僕は大丈夫」
「っしかし」
「ルルーシュ、君も疲れているんだよ。今日は帰ろう?帰って寝て、明日になれば嫌なこと全部忘れちゃうからさ」

明日になれば、そう僕が言った途端ルルーシュはそれまで青くしていた顔色をサッと変えて机を叩いた。強く叩いたけれど、音はしない。机を叩いて僕を睨んだルルーシュだったが、何か言いたげに口を開いて、その数秒後に閉じてしまった。悔しさとはまた違うようなルルーシュの表情に、膨らんでいたルルーシュに対する不安がだんだんと萎れていく。代わりに膨らんだのは"心配"だ。なんだ、なんだ一体。ルルーシュは何をそんなに怒って、いや、悲しんでいるんだ?心の中で戸惑いつつ、僕はできるだけ表情を変えないままルルーシュの名を呼んだ。

「ルルーシュ?」
「スザク、本当は、気づいてるんだろう?」

静かな声だった。ルルーシュは眉を寄せて、泣きそうな瞳で僕を見つめる。ルルーシュの言葉の意味が理解できなかった。けれど、ルルーシュが何か重大なことを言ったことは理解できた。

「な、何が?」

不覚にも、僕の声は震えている。腹の前で両手を祈るようにぎゅっと握り締めて、ルルーシュは目を瞑る。は、と小さく息を吐いてから、ルルーシュは瞼を開いた。

「三日、今日で三日だ」
「・・・は?」
「最初は俺の我が儘でもあったんだ。でも、お前が明日もというから・・・。でも駄目なんだ!お前をこれ以上引き止めるのは・・・」
「ちょ、ちょっと待ってよルルーシュ!何を言ってるの?」

堰を切ったかのようにルルーシュはどんどんと言葉を吐く。頭を振りみだしそうなルルーシュが恐ろしくて、僕は椅子から立ち上がった。手を伸ばしルルーシュの肩を掴もうとする。しかし、僕の手は何も触れることは無かった。僕の手はルルーシュの身体をすり抜け、空を掴む。思わず叫びそうになったが、頭の何処かで納得している自分がいた。ルルーシュはぐずりと鼻をすする。泣いてはいないが、目はだいぶ潤んでいた。

「お前が、こちらで明日を願えば願うほど、向こうのお前の命を削ることになる」
「・・・それは」
「俺はまだ、お前にはこちらには来てほしくない」

絞り出すような声に、胸が痛む。立ちつくしたまま、ルルーシュを見つめた。何処からか、ピ、ピ、ピ、という電子音が聞こえ始める。僕とルルーシュ以外、音のしなかった世界に介入してきたその音に僕は辺りを見回した。リズムを刻むそれは何故か僕の身体によく馴染む。途端、僕は急に怖くなった。どうして、僕に気付かせたんだ!僕の顔がくしゃりと歪んだ。

「っ嫌だよ!僕は、ここに居たい!」
「駄目だ!」
「ルルーシュが居ないのに!」
「っ!」

ビクリとルルーシュが肩を揺らす。言ってはいけない言葉だと、分かっている。でも今じゃなきゃ言えないような気がした。僕は頭を掻き乱す。

「戻りたくない!ルルーシュが居ないのに、君をひとりここに残して僕は戻りたくない・・・!」
「お前はまだここに来るべきじゃないんだッ」
「でも!・・・ッ!」

僕は思わず言葉を止めた。ルルーシュが、あまりにも辛そうな顔をしているから。熱くなっていた気持ちが急速に冷えて行く。ルルーシュにこんな顔をさせる気はなかったんだ。でも、僕は、でも。ぎゅうと僕は拳を握る。電子音はまだ鳴り続いている。

「スザク・・・頼むから・・・」

涙声になりかけのその声は震えていて、僕は、諦めるしかないのだと悟った。握っていた拳を解き、心臓を落ち着かせるように息を吐く。すまない、とルルーシュが小さく呟いたものだから僕は思わず笑みがこぼれた。ルルーシュが謝るなんて、昔は絶対になかったのにね。観念した僕は、ルルーシュの顔に手を伸ばす。勿論、触れることはできないから、ちょうど頬に触れるはずだったところで手を止めた。透けてもいないのに通り抜けるルルーシュの身体は不思議で、触れていないはずなのにまるで触れているような錯覚。気づいていないわけではなかった。この三日間、ルルーシュは僕に絶対に触れてこなかった。当たり前に学校に行って、帰って、軍にも行ったりして、でも僕はその矛盾のサイクルに何の疑問も抱かなかった。僕はもう、学生ではないのだ。穏やかに生きて行くことは、できないのだ。

「どうせなら、君に触れられればいいのにね」
「俺とお前じゃ、もう触れることなんてできないさ」
「あと、何年かな」
「さあ」
「君にも、分からないんだね」

これは、僕の夢なのだろうか。僕の夢なら、僕の理想通りに物事が進めばいいのに。夢の中でもルルーシュはルルーシュのようだ。架空?想像?そんなこと、考えることじゃない。過ごしてきた三日間、というのは、どんな三日間だっただろうか。自然に過ごしてきたつもりだったけれど、振り返ってみると何も思い出せない。電子音が迫ってくる。僕はルルーシュの頬から手を離した。じんわりと右手に温かさが生まれる。ルルーシュが最後に笑ったから、僕も笑い返した。さようなら。






目覚めると、白い天井。口元には透明なマスク。ここは?

「目が、覚めましたか」
「・・・ナナリー」

声が降ってきて、僕が目だけでそちらを向くとナナリーがそこに居た。ふんわりとした笑みをこぼして、僕の右手を握って居た。最後に感じた温かさはこれだったのかと僕は納得する。ピ、ピ、ピとなる電子音。心電図がリズムを刻んでいた。布団の上に出された僕の左腕には点滴が刺さっている。視界の上の方にチラチラと白いものが見えて、頭に包帯が巻かれていることに気付いた。身体中が軋むように痛い。ナナリーが僕の右手から手をそっと離した。

「テロ鎮圧での戦闘で負傷されたまま、目を覚まさなかったんですよ」

このまま目を覚まさないんじゃないかと心配しました、とナナリーは少しだけ震えた声で言う。とてつもない心配をかけてしまったようだ。点滴の刺さった左腕がジンジンと痛む。身体が麻痺したかのように動かなかった。先ほどから耳に着く心電図の音は、僕とルルーシュのあの世界に入ってきた音と同じものだ。

「僕は、どのくらい・・・」
「三日間です」
「三日・・・」

思わず呟く。ナナリー曰く、戦闘で頭に強い衝撃を受けたらしい僕は三日間眠り続けていたそうだ。脳に損傷はなかったものの、衝撃で脳が一時的に麻痺してしまったという。いつ目覚めるか分からない状態だったんですよというナナリーの言葉が信じられなかったが、僕の今のこの状態を見ると嘘ではないだろう。三日間眠り続けていた、ということは、三日間ゼロは人々の前に姿を現わさなかったということだ。

「ごめん、僕のせいで・・・」
「国民には、戦闘で負傷したため休養していると説明してあります。今は傷を癒してください」
「・・・ありがとう」

いえ、と言ってナナリーは車椅子を操作して僕の眠るベッドから離れた。ナナリーはこれからまだ仕事があるという。三日間、僕が何もしていなかった分きっとナナリーは忙しかっただろう。目を覚ましたのにこのまま寝ているのも申し訳ないが、身体が言うことを聞いてくれない今はナナリーの言葉に甘えた方が良いのだろう。僕は天井を見上げる。さっきまで夕暮れの教室に居たのに、こちらが現実なのかと思うとなんだか虚しい。あれは夢だったんだろうなと僕が考えていると、病室から出て行く直前、思い出したかのようにナナリーが声を上げた。

「そういえば、先ほどまでC.C.さんがいらしてたんですよ」
「C.C.が・・・?」

僕らの所に滅多に来ないC.C.が来ていたと聞いて僕は驚いた。死にかけの僕でも笑いに来ていたのだろうか。ルルーシュがいなくなってからC.C.は彷徨うように旅を続けている。だからなのか、それともただ単にC.C.が僕たちに会いたくないのか、C.C.の姿を見ることは全くなかった。たまに、ふらっと来てはいつの間にか居なくなっていることがあるが、だいたい彼女と会うのはルルーシュの墓の前だった。ゼロ負傷のニュースを聞いて来たのかのかと思ったが、C.C.はゼロ負傷のニュースが流れる前に僕の所へ来たらしい。

「三日間、ずっと傍に居てくださったんですよ」

仕事で傍にいれないナナリーの代わりにC.C.が見張り兼看病をしてくれていたそうだ。更にびっくりした、と同時に、何か裏があるんじゃないかとC.C.を疑ってしまう。C.C.は僕が目を覚ます直前、部屋を出て行ったという。礼も言わせないあたり、C.C.らしいと思った。

「こうやって額に手をあてて、祈るみたいに傍に居たんですよ」

ナナリーがC.C.の真似をするように掌を何かに乗せるジェスチャーをする。それを見て、僕はハッとした。C.C.は僕が眠っている間、僕の額に手をあてていたらしい。そしてC.C.はゼロが負傷したというニュースが流れる前に、まるで僕がこうなることを知っていたかのようにナナリーの元へ訪れたという。ということは?ナナリーが静かに病室から出て行く。扉の閉まる音がして、僕はひとりきりになった病室で呆然と天井を見つめる。何が現実、どれが夢で、本物は?僕はふと、視線を床へと落とす。C,C,が愛用するピザチェーン店のキャラクターがプリントされたシャープペンシルが落ちている。

『・・・いや、音が』

ルルーシュの言葉が頭の中でリフレインする。僕の落としたペンがたてた音にルルーシュはやけに驚いていた。その意味は。







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本物はどれだ。