※IF設定「もしルルーシュが黒の騎士団に戻らずにロロと一緒にただの学生(一般人)に戻っていたら」+捏造要素が入ってます
※皇歴2018a.t.b.(R2本編の時間軸)より5年後の話です
※ロロの年齢は2018a.t.b.の時点で15歳とします





誰もがまた再び失敗すると思っていたナナリー・ヴィ・ブリタニアによる行政特区日本の再建。
穴だらけの計画と綺麗ごとの人種差別の撲滅。日本人の誰もが再建される行政特区日本に参加しないと思われていた。
ゼロという人物が率いる武装組織、黒の騎士団。ブラックリベリオン時に死んだとされたゼロの復活に、日本人は新たな希望を見つけだしていた。
ナナリー・ヴィ・ブリタニアはゼロへ行政特区日本への参加を持ちかけ手を差し伸べた。再び起こるかもしれない悪夢に、日本人はまた自分たちを騙すのかと怒った。しかしその一方で行政特区日本に参加するべきだという声も少なからずあった。守られる人権と範囲が決められているが日本を取り戻せるということ。日本人の大半が行政特区日本に反対するなか、日本人はゼロの反応を待っていた。きっとゼロならどうにかしてくれると信じて。 しかし、ゼロからの返答はエリア11に波紋を呼ぶことになった。「日本人は全員行政特区日本に参加せよ」それがゼロの答えだった。 ゼロの返答は日本人に混乱を呼び、人々は口々にゼロも自分たちを裏切ったのか?と言った。行政特区への参加を呼びかけられた日本人が全員それに参加するわけはなかった。どういうことなんだ、何故参加しなくてはいけないのか説明をしてほしいと皆思ったがそれをゼロに伝える術は一般市民にはない。日本人による大きな暴動が起こった。自棄になった日本人たちがクーデターを起こしたのだ。ブリタニア軍による処分という名の鎮圧が起こる前に黒の騎士団はそれを鎮め、ゼロの願いを聞いて欲しいと言った。その言葉を信じていいのか日本人は分からなかったが、行政特区日本の再建式典には多くの日本人が集まった。だがゼロは式典には現れなかった。そして、行政特区日本の再建は正式に開始された。だが式典に参加した日本人は、式典当日にゼロがブリタニアにあるデータを送ったことを知らなかった。ゼロから送られてきたというそのデータは行政特区日本の再建計画書だった。当初の計画書の穴の部分をカバーし、なおかつブリタニアに許されて作られた日本というイメージをなくした制度。あまりに完璧すぎるその計画書だけをブリタニアに送り、ゼロは姿を消した。結局黒の騎士団の復活はすぐに解散され、黒の騎士団の団員は行政特区日本へ参加、幹部は行政特区日本の重要役人として働くことになった。黒の騎士団は本来なら罪に問われるべきなのだが、ゼロは機密にある取引をブリタニアに持ちかけていたのだ。行政特区日本への参加と黒の騎士団の解散の代わりに、ゼロを除く黒の騎士団のメンバーの罪を帳消しにする。それがゼロがブリタニアに持ちかけた取引だった。この条件を受け入れられないなら参加はできないとゼロがブリタニアに伝えると、意外にもその条件はすぐに飲まれた。黒の騎士団が解体されてもゼロというテロリストの罪は消えない。普通なら武装組織に参加したもの全員は処罰されるのが当然で、そんな条件は受け入れられるはずがなかったのだがある人物がそれを受け入れると言ったのだ。エリア11総督ナナリー・ヴィ・ブリタニア及びブリタニア皇帝。ナナリー・ヴィ・ブリタニアがゼロの条件を受け入れると言ったとき、周りはその意見を認めようとしなかった。総督と言ってもまだ子供、しかも盲目で足も動かないお姫様が何を言うのかと。しかしそんな言葉はすぐに慎まれることになる。エリア11でのゼロが持ちかけてきた取引の条件を飲めと、ブリタニア皇帝が命令したのだ。なぜわざわざブリタニア皇帝がと考えの読めない命令に周りは驚いたが、皇帝の命令に逆らう者は誰もいなかった。かくして、多くの日本人の知らないところでその取引は行われ、黒の騎士団のメンバーは罪に問われることなくゼロだけが消える結果となった。あれから5年、指名手配となったゼロが再び人々の前に現れることはなくゼロが送った計画書に基づいた政策が行政特区日本で行われ、テロが起きることはなくなった。最初のころこそ戸惑っていた日本人とブリタニア人だったがナナリー・ヴィ・ブリタニアの演説やゼロが行ってきた行為をお互いに考え、エリア11という名称は変わらないものの行政特区日本ではないところでも日本人とブリタニア人の差別はなくなってきていた。日本人からもブリタニア人からも裏切り者とされたゼロの名前は人々の記憶から薄れつつあった。


2023a.t.b. トウキョウ租界 某所


スザクは久しぶりに訪れれたトウキョウ租界に、大きく息を吸い込んだ。暖かな太陽が降り注ぐが吹く風は冷たく、もうすぐ冬が来ることを感じさせていた。大きめのサングラスで顔を隠して花壇の縁に腰を下ろす。大通りから少し外れたストリート、一般人が興味のなさそうないろいろな専門の店が並ぶそこは人通りはまばらだが寂しさを感じさせなかった。行き買う人々はブリタニア人だったり日本人だったり、以前のようなブリタニア人が日本人を虐める光景はなくなって今は人種など関係なく一緒に暮らしているようだ。スザクが時計を確認するとまだトウキョウ租界に来てから数時間しか経ってなかった。たった数時間だったが会いたい人物達には会えた。突然休暇を与えられたスザクは今日トウキョウ租界でアッシュフォード学園の元生徒会メンバーと会っていた。休暇の知らせが入り、スザクは休暇などいらないと言い休暇を返上しようとしたのだが、ナナリー・ヴィ・ブリタニアがそれを許さなかった。スザクに休暇を与えたのはナナリー本人であり、それでも休暇などと困るように言ったスザクにナナリーは言った。

「せめてここに居る時だけでもスザクさんには休んでいてほしいんです」

スザクはナイトオブラウンズであって、ずっとエリア11に居られるわけではなかった。行政特区日本の再建時に力を尽したスザクは行政特区日本の中のさまざまな分野に関わっておりエリア11には頻繁に訪れる。しかしナイトオブラウンズは皇帝直属の騎士。エリア11でのテロが無くなっても世界中のテロや紛争がなくなったわけではない。ブリタニア皇帝の命令があればスザクはすぐさま戦場に駆りだされる。世界中を飛び回るスザクの身を案じ、ナナリーはスザクがエリア11にいる間だけでも休ませてあげたいと考えていた。スザクにも仕事はあるし、やらなくてはいけないことが山ほどある。一日しかスザクに休暇を与えることはできないが一日だけでも軍に捕らわれず休んでいただけたら、とナナリーはスザクに一日の休暇を与えた。それほどまでにナナリーが自分の身を心配してくれているのにその休暇を無理に返すことは逆に失礼だと周りにも言われ、スザクは今日一日の休暇を過ごしていた。 休暇と言ってもエリア11内ですることなどあるだろうかと考えて、スザクは急にアッシュフォード学園のことを思い出した。休学届けを出したまま結局再び行くことにならなかったが、生徒会のみんなはもう卒業してそれぞれの人生を歩んでいるのだろう。そう考えると急にみんなに会いたくなり、連絡はとれるだろうかと不安に思いつつも電話を手に取ったのだ。会わなくなってしまったシャーリーやリヴァルとは違いミレイとはたまに会うことがある。それは何処かの式典だったりパーティーだったり、ミレイの婚約者のせいだ。ロイドとミレイがお互いに愛し合ってるとは思わないし、それは本人たちも分かっている。ミレイはアッシュフォード家のため、ロイドはガニメデのため。お互いにそう割り切ってドライに接しているからこそ未だ婚約者として続いてるのではないだろうか。スザクがまず最初に連絡をとったのはミレイだった。というか、ミレイしか連絡先を知らなかったのだ。スザクからの電話にミレイは驚いたものの昔と変わらずに接してくれた。そして休暇のことを伝えリヴァルやシャーリーに会いたいと言ったら、ミレイは快く2人の連絡先を教えてくれた。

「学園で過ごしてきた時間こと、忘れないでね」

ミレイが電話の最後に言った言葉だ。ミレイとの電話のあとすぐさまリヴァルとシャーリーに連絡をした。2人とも突然の電話にやはり驚いていたがミレイと同じく昔のように接してくれた。アッシュフォード学園を卒業後、リヴァルは進学せずにトウキョウ租界にあるバイクのジャンクショップで働いているらしい。シャーリーは進学し大学を卒業後、同じくトウキョウ租界にある保育所で保育士をしているそうだ。仕事なら無理に会わなくてもこうして電話できたならいいと思ったスザクだったが休憩時間の時なら大丈夫だからと2人は言って、スザクはトウキョウ租界で2人と会うことになった。2人と、と言っても休憩時間が合うことは難しくバラバラの時間だったのだが。政庁をそこそこに出て、スザクはまず最初に昼前なら暇だからと言ったリヴァルに会いに行った。旧ゲットー近くにある決して大きいとは言えない店だったが、店の中はいろいろなパーツで埋め尽くされており逆に狭さが店の品揃えの多さを物語るようだった。昼前は暇だと言ったリヴァルだったがそれでも店の中には数人の客が来ていた。馴染みのない店の扉を恐る恐る開けると、背後から突然ぶつかるように首に腕を回された。驚くよりも早く反射的に飛びついてきた人物を背負い投げたのだが、背負い投げた人物の上げた叫び声に聞き覚えがあった。店の中にいた客がスザク達に注目する。あれ?と思い目の前に倒れる人物の顔を見るとスザクは、やってしまった…と冷や汗を流した。

「〜〜〜っ!ひでぇよスザク!いきなりこれってどうよ!?」
「ご、ごめん!ついクセで・・・」

目の前に仰向けになって倒れているのはリヴァルで、つまり飛びついてきたのはリヴァルだった。 リヴァルとしては昔のようにふざけたスキンシップで再会したかったのだろうが、相手の考えを読めないスザクには難しい話だったようだ。 店のすぐ隣にある小さな作業場に案内され、時間が許す限りスザクはリヴァルといろいろなことを話した。会話上手なリヴァルとの話はどれも楽しかったが、昔のことになると少しだけリヴァルも気まずそうにした。

「結局会長が卒業してから会長とあんま会うこともなくなっちゃったし、俺も仕事とかで忙しくてみんなと会う機会ないんだよね。たまにつるんでる奴らもいるけどさ、生徒会のメンバーがバラバラになっちゃってちょっと寂しいかな。俺の会長への想いも伝わらなかったしね。」

それでもリヴァルはにっこりと笑って、過去にばっか縋ってちゃいけないからこれからを頑張らなくちゃなと言った。 ショップの店長がリヴァルのことを呼び出したことで会話は終わり、別れの挨拶もそこそこにスザクは店を後にした。 2時間ばかり話していたらしく、予定のシャーリーとの約束の時間が迫ってきていたのでスザクは急いでシャーリーが働く保育所へ向かった。

「子供は好きなんだけど、いっつも子供たちに振り回されちゃって・・・。でも子供たちの笑顔とか見てるとこの仕事やっててよかったって思うよ」

保育所の中にある遊具の一つに座りながらシャーリーは笑った。約束の時間に遅れることはなかったが、着いたのがちょうどの時間になってしまったスザクをシャーリーは保育所の入口の前で立って待っていてくれた。しかし最初スザクはそこに立っているのがシャーリーと分からず、シャーリー・フェネットさんはいますか?と訊ねてしまった。そう訊ねてきたスザクにシャーリーは私がシャーリーだよと笑った。スザクがシャーリーがシャーリーと分からかったのは、あんなに長かった髪が肩くらいまでのセミロングになっていたからだ。顔立ちも大人の女性で、女性は成長すると綺麗になると思っていたがこれほどまでに変わったシャーリーにスザクはとても驚いた。今はどんな生活をしているのか、スザクが休学してからの学園はこうだったなどシャーリーもいろんなことを話してくれた。


「卒業したあと何だかんだで大学に行っちゃったけど、何がやりたいとか考えてなかったんだよね。でもナナリー総督のお話とか行政特区日本のことを聞いて、子供たちに優しい教育ができるようになったらここも変わるんじゃないかなって思ったの」


今はまだ保育士という立場だが、ゆくゆくは教職免許を取って学校の先生になりたいとシャーリーは言った。 シャーリーは大学で知り合った男性と交際しているらしく、三ヶ月後に結婚するらしい。おめでとう、とスザクが言うとシャーリーは幸せそうな笑みを浮かべた。 お昼寝の時間が終わって子供たちが起きてきたのをいいタイミングにスザクはシャーリーと別れた。


そしてやることがなくなったスザクはこうして座っていた。空はまだ明るい。今から帰ってもいいがそれだとナナリーに何と言われるか分からない。せめて何処かで時間が潰せたらなぁと思いながらスザクは行き交う人々を見つめ今までのことを思い出し始めた。

『私、三ヶ月後に結婚するんだ。結婚式来れたら来てね』

シャーリーも自分もみんなもう子供じゃない。5年前は未成年者でまだ学校に通うような年齢だったがもう今は違う。5年という時間に変わらないものを見つけるのは難しい。自分ももう23歳だ。昔のように感情で動くこともなくなり、自分でも成長したと思う部分がいくつかある。シャーリーが結婚すると聞いて、まっ先に思い浮かんだのはかつての親友。シャーリーが思い続けていた相手。ルルーシュ。ミレイもリヴァルもシャーリーも、ルルーシュについて何か話そうとはしなかった。いや、軽々しく話せるものではなかった。何故なら、ルルーシュはいなくなってしまったのだから。 行政特区日本の再建時、日本人による大きな暴動があった。事実上黒の騎士団の最後の仕事となったその暴動の鎮圧だったが、奇跡的に犠牲者はでなかった。暴動の内容はゲットーの日本人達が租界へ乗り込みブリタニア人を襲うというものだったのだが、その暴動の計画をいち早く察知した黒の騎士団が租界に住むブリタニア人に向けて軍事用シェルターへの避難を呼びかけたのだ。軍事用シェルターとはもともと租界へのテロ対策としてブリタニアが設置していたものだったのだが使われることはないだろうと思われていた。その呼びかけにブリタニア人たちは初めは従わなかったものの、ゲットー近くにあるブリタニアの工場が襲われ日本人達が租界の中心部へ向かっているというニュースが流れた時にはブリタニア人達は速やかにシェルターへと逃げ込んでいた。ルルーシュは暴動が起こったとき、租界に居たらしい。ロロと2人で賭けチェスをしに租界へ行っていた2人もシェルターに避難したはずだったのだが、暴動が治まりブリタニア人達がシェルターから解放されてもルルーシュ達が学園に帰ってくることはなかった。もしや日本人達に捕まったのではと皆は心配するが、テレビのニュースは犠牲者0人と伝えている。そんなわけない、だって2人は帰ってきていないのに。そして暴動から数日後、アッシュフォード学園にあるものが届けられた。それはルルーシュ達が出かけるのに貸したリヴァルのバイクと、バイクの座席に畳まれて置いてあるアッシュフォード学園の制服2着。バイクは暴動が起きる1時間前、租界のゲート近くに停めてあったのを警察が見つけたらしい。荷物は触れておらず、見つかった時のままの状態らしい。暴動前に見つかったバイクと綺麗に折りたたまれた制服。制服のポケット部分には2人の生徒手帳が入っていた。暴動前に、ということは暴動に巻き込まれたわけではない。暴動が起きる前に、ルルーシュ達は姿を消したのだ。何故?どうして?理由を考えても原因が全く分からなかった。届けられたものを見たミレイは誰よりも早くルルーシュ達が自分達の意志で消えたことを悟り、クラブハウスへと向かった。合鍵で扉を開けるとそこには何もなかった。家具はクラブハウスが建てられた時にすでに置かれていたもの、まるでルルーシュ達が住む前のように戻されたクラブハウスの姿がそこにあった。一体何があったのかとミレイはクラブハウス内を見まわし、リビングでテーブルの上に残された1枚のメモに気づいた。

『ごめんなさい、それと今まで守ってくれてありがとう。さようなら。』

たった1行、それだけが書かれたメモ。宛名も名前もないそれだったが、ミレイにはこのメモは自分に向けて宛てられたものとこれを書いたのはルルーシュだと分かった。謝罪の言葉と感謝の言葉、そして別れの言葉。その時のミレイには守ってくれてありがとうという意味が分からなかった。「行方不明」となったルルーシュとロロ。彼らの行方は5年立った今でも分からない。生きているのかさえ。 ルルーシュとロロが行方不明になったという連絡を受け、スザクはそれこそ血眼になってルルーシュを探した。スザクのもとにルルーシュ達が行方不明になったという連絡が届いたのは暴動が起こってから2週間後、行政特区日本の式典の次の日だ。暴動の後始末や行政特区日本のことで忙しかったスザクに連絡が届くのが遅れたらしく、スザクは怒りと悔しさに軍を飛び出した。ロロまでいなくなるとはどういうことだと機密情報局へ向かったが、そこは既に手を加えられたあとだった。ゼロからの取引はつい先日行われ終了したばかりだ。ブリタニア軍とゼロが取引している間にルルーシュはいなくなっていた。取引の場にはスザクもいた。画面越しのゼロからスザクに向けて言葉が発されることはなかったが、ということはスザクが最後にルルーシュ(ゼロ)の姿を見たのはあれが最後ということだ。ブラックリベリオンを起こしたゼロとバベルタワーで復活を果たしたゼロ。ブラックリベリオンのゼロは間違いなくルルーシュで、ユーフェミアを殺したのはルルーシュ。記憶を改竄され、C.C.を捕まえるための餌となったルルーシュは1年間「ルルーシュ・ランペルージ」として生きていた。ルルーシュがC.C.と再び接触したという情報はない。だがゼロは復活した。スザクは直感的に復活したゼロはルルーシュだと感じていた。彼の起こす行動や言葉全てが以前のゼロと同じものだったからだ。真似ごとでできるものではない。ゼロが復活した時、スザクはやっとこれでゼロを殺せるのかと思った。それはブリタニアのためなのか私怨のためか、どちらにせよ復活した以上ルルーシュを殺すのは自分だと考えていた。アッシュフォード学園に戻ったスザクはルルーシュにあらゆる揺さぶりをかけてみたがボロは出さなかった。ナナリーまで使ったというのに屋上での彼は顔色一つ変えずに人違いではないですかと言った。ナナリーがエリア11の総督に就任しそろそろ本気の行動に移さなければなと思っていた矢先、スザクの予定してないことが起こった。ナナリーによる行政特区日本の再建。まさかナナリーがユーフェミアの意志を継いで行政特区日本を復活させようとするなんて思っていなかった。再びまだゼロに手を伸ばすナナリーは、ゼロがルルーシュだと知らない。ユーフェミアが手を差し伸べたのにゼロはそれを払いのけ悪魔のようなギアスをユーフェミアにかけた。まさかゼロがまた再びそんなことをするとは思わなかったが(実の妹にはめっぽう弱い彼だから)、ゼロがどういう決断をするのか期待と不安が入り混じった状態で待った。そしてゼロからの返答と機密の取引に目を疑った。きっと行政特区日本に参加するにしてもブリタニアに対する何かを行うと思っていたがゼロは行政特区日本を全面的に受け入れてきた。もちろん取引の内容はゼロらしいものだったが、それでもスザクは「おかしい」と思った。ゼロは黒の騎士団としてではなくゼロとして生きていくと言ってるようにも思えた。黒の騎士団の解散というものに裏があるのかと思ったが、黒の騎士団の解散と行政特区日本への参加を並べることはないはずだ。そしてその取引を受け入れるというブリタニア皇帝の命令。ブリタニア皇帝は復活したゼロがルルーシュだと分かっている。ブリタニア皇帝に取引を受け入れるという命令を伝えよと言われたのはスザクだった。わざわざスザクを指名してその命令を下すという意味を皇帝は分かってしているのだろう。スザクはその場に他に誰もいなかったのをいいことにブリタニア皇帝に何故受け入れるのかと尋ねた。反抗ともとれるその質問だったがスザクはどうしても聞きたかった。スザクの質問にブリタニア皇帝は眉を寄せると静かな声で言った。

「愚かな可能性の一つを選んだ者に、もう力は無い」

皇帝の言葉はそれだけだった。もう語ることはないという目で見られ、スザクは仕方なくその場を後にした。どうやら直接本人に聞くしかないようだとスザクは苛立つ気持ちを抑えて日を待った。そして式典当日、ゼロは現れなかった。どうしてゼロは現れないんだと誰にもぶつけられない憤りを感じていると、ローマイヤにある一室に呼び出された。もうすぐ式典が始まるというのになんだろうと呼び出された部屋に行くと、そこには他のラウンズやナナリーも居り皆不思議そうな顔をしながらモニターを見ていた。何かのデータらしいそれは行政特区日本のことについて細かく書かれている。何があったんだと一番近くに居たジノのスザクが聞くと、ジノは釈然としない顔で口を開いた。

「ゼロから行政特区日本の計画書のデータが送られてきたんだ」
「っなんだって!?」
「警備のやつがゼロからだって言って持ってきたんだけど、最初は偽物かと思ったんだが内容を見るとそう思えなくてな。それで、警備の男に誰から渡されたんだって聞いても何も覚えてないって言うんだ。データ渡した瞬間ふら〜っと倒れちまったかと思うと、起きたら何も覚えてないだぜ?一応そいつはスパイ容疑で今別室で取り調べしてるけど、行くか?」
「・・・いや、いい。それより計画書の内容は?」
「内容も何もスザクも見たほうが早いと思うぜ」

警備の男の「何も覚えていない」というのは恐らくギアスの力のせいだ。通信ネットワークを使うことで足を取られるのを危惧したのか、大胆にも直接送ってくるとは。スザクがモニターに映し出されたそれを見ると、その内容に絶句した。行政特区日本の基本的なシステムはまだ正式に決まったわけでなかった、これから話し合いをいくつもして決めていくつもりだったのだがその必要はなくなったようだ。そこには行政特区日本の「すべて」が記されていた。ゼロの考えた行政特区日本のシステム、あの頭脳で考えられた計画書は完璧だった。よければ使ってほしいというゼロからのメッセージがついた計画書。押しつけるものではなく利用してほしいというその文面に、スザクはますますゼロの考えていることが分からなかった。予定通り式典は行われ、大勢の日本人が参加したが最後までゼロは姿を見せなかった。そして、スザクにルルーシュが行方不明になったという連絡が届いた。目まぐるしく起こる出来事にスザクは頭がついていかなかった。ルルーシュが消えたということに頭が真っ白になって、スザクはもしかしたら自分はゼロ(ルルーシュ)を逃がしてしまったのではないかと、今までゼロに抱いてきた憎しみが一瞬で泡となって消えてしまったような感覚に陥った。こんな中途半端なままで終わらせてたまるかとスザクはルルーシュを探した。ラウンズの特権を使ってエリア11の隅から隅まで、しかし、ルルーシュは見つからなかった。ちょっと前までは自分の手の届く場所にいて、いつでも触れられる状態だったのに。機密情報局もC.C.を探すのを止め、皇帝はもうルルーシュに興味を持っていないと察した。それからのスザクは酷かった。何に対しても無気力で、それなのに戦闘の時となると非情に敵を殺していく。笑うことがなくなって、底冷えするような視線はすべてを捉えてない。目の前のぼやけた風景を通してゼロ、ルルーシュを見つめるような瞳。自暴自棄になってしまったスザクを周りは心配したが、どんな言葉をかけてもそれがスザクには届かなかった。ゼロを探しては結果のない報告に溜息をつく毎日。そんな状態が3か月ほど続いたある日、スザクはナナリーに呼ばれエリア11の政庁にある庭園へ行った。


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