ハッとスザクが顔を上げると、通行人がおかしそうに自分を見ていた。一瞬、自分がどこに居て何をしていたか分からなくなったがすぐに思い出す。 どうやら昔のことを思い出しているうちに眠ってしまったらしい、後ろの植え込みに寄り掛かるように寝ていたスザクの背中には葉っぱが付いていた。 固まった身体を伸ばし時計を確認する、ここに座ってからもう1時間も経っていた。サングラスをかけた成人男性が植え込みに埋もれて1時間も寝ていたら、そりゃあ通行人もおかしな目で見るだろう。スザクは恥ずかしく思いながら背中に付いた葉っぱを払った。結局、5年経った今でもルルーシュを見つけられずにいる。ギアス能力を持ったままのルルーシュを見つけるのは至難の業かもしれない。ルルーシュのギアス能力さえあれば、どんな人間も彼に従ってしまう。あとから知ったことだがロロもギアス能力者だったらしい。機密情報局から抜けたヴィレッタから聞いた話だ。ヴィレッタは機密情報局を抜けたあと、行政特区日本内にある日本人の学校の体育教師として働いている。スザクが特区内を見回っているとき、たまたまヴィレッタと会ったのだ。日本人(確か扇と言った)と肩を並べて歩いていたところに遭遇してしまい、お互いに気まずかったのを覚えている。その時ヴィレッタが機密情報局のメンバーだったことを思い出し、ダメ元でロロのついて訊ねてみたら意外にもあっさり教えてくれた。ヴィレッタも詳しい経歴などは知らなかったのだが、ロロはギアス能力者だとスザクに教えてくれた。ロロのギアスは体感時間を止めるギアス。そのことを知り、スザクはあの時の屋上での不可解な現象に納得がいった。もしあの時ロロが何処かに潜んでいて自分の体感時間を止めたというのなら説明はつく。

『ルルーシュは行方不明なんだそうだな。ロロも一緒と聞いたが・・・本当か?』
『ええ、その可能性は高いと思います。何か?』
『いや大したことじゃないんだが、ロロは少し欠けているところがあるから』
『欠けている・・・ところ?』
『ロロはルルーシュと生活する前まで人間として生きていなかったんだ。それがルルーシュとの生活の中で何かを見出したらしくな、まあそれはよかったのだが・・・なんというかロロがルルーシュに依存してしまって。』
『依存・・・ですか』
『ロロは機密情報局も嚮団も裏切りルルーシュのほうへ寝返った。ルルーシュがロロをどう思っているのかは知らんが、ロロのルルーシュに対する執着心は異常だ』

ロロの情報を貰いスザクはルルーシュのことばかり考えていてすっかり忘れていたがロロの存在も忘れてはいけないことに気づいた。 偽りの弟として送り込まれた人物、ロロ。彼とは任務での接触以外に会話をしたことはない。ルルーシュの監視が始まる前に一度だけ会ったことがあるが、その時の印象は冷たいヤツだった。何にも感情がなく、表情の変わらない顔。監視が始まってから会うことはなかったのだが、ゼロが復活してから再び会ったとき彼は変わっていた。感情が、表情が、できていた。学園でのルルーシュとの生活を見ても、まるで本当の兄弟のようにルルーシュに接していた。演技なのかとも思ったが、彼はルルーシュがいないところでもルルーシュを兄さんと呼び、ルルーシュのことを気にかけて表情を変えていた。あの頃はルルーシュへの淡い気持ちも少し薄れていて強く何かを思うことはなかったが、ロロのそういう行動がなんだか気にくわなかった。ヴィレッタが言ったロロのルルーシュへの依存という言葉。もし、ルルーシュが姿を消すきっかけとなったのがロロだったら?そう考えると醜い嫉妬がジリジリと心を炙るのが分かる。なんて身勝手な嫉妬だとうと思うと同時に未だにルルーシュへの恋心が消えていない自分に呆れた。好きだから許すとか、そういうことじゃない。好きだからこそ罪を償ってほしい、幸せになってほしい。彼を日陰から連れ出してあげたいと思うのは自己満足の我儘なのかもしれない。ルルーシュは人をたくさん殺した。スザクも今まで戦場で何人もの命を奪ってきた身だ、ルルーシュだけを責めることはできない。だがスザクとルルーシュは立場があまりにも違いすぎた。スザクが戦場で人を殺すとそれは功績となる。ルルーシュが戦場で人を殺すとそれは罪になる。軍人が戦場で人を殺すのは当たり前で、敵を殺して罪になるわけがない。むしろよくやったと讃えられる。だが、それは軍人の話だ。

スザクは小さな溜息をついてから立ち上がった。トウキョウ租界に来て、もしかしたらルルーシュがいるかもしれないと微かな可能性を期待したがそれは無駄だったようだ。もうルルーシュはエリア11にはおらず、どこか外国に隠れているのではないだろうか。これだけ日本中を探しても見つからないということはその可能性もある。C.C.のことも調べたが、ブリタニアがずっと探しても見つからない彼女だ。自分が見つけられるはずがない。もしかしたらV.V.ならC.C.の居場所が分かるかもしれないと思ったが、ブラックリベリオンの時からV.V.は自分の前に姿を現さない。まだこれからがある、焦らなくてもいい。気持ちを切り替えてスザクはみんなにお土産でも買っていこうと歩きだした。できれば日本のものがいい、みんなが目にしたことのないようなものを買って行ってあげよう。たしか近くに日本土産と取り扱う店があった気がする。スザクは大通りへ向けて歩き出す。そこでふとスザクは反対側から歩いてくる2人組に目が行った。1人はスザクと同じくらいの身長の男性で、淡いサングラスをかけもう1人の男性を支えながら歩いている。支えられているほうの男性は深く帽子を被っており顔は見えないが身体が不自由なのだろうか、サングラスの男性の腕を握って歩いている。スザクと2人組の距離がだんだんと近づき、サングラスをかけたほうの男性が不意にスザクを見て目を見開いた。自分の顔を見て驚いたような表情をした男性に首をかしげながらもスザクは2人の横を通り過ぎようとした。だがしかし2人組のほうばかり注意していたスザクは後方から走ってきた自転車に気づかなかった。通り過ぎようとした瞬間ベルを鳴らして横を通り過ぎて行った自転車に驚いて、スザクは帽子を被っているほうの男性にぶつかってしまった。


「っ!?」
「っえ!?」


瞬間、目がくらむような衝撃が全身を襲った。ドクンと心臓が大きく打ち、呼吸の音が大きく聞こえる。ぶつかった衝撃で男性の帽子がとれ、帽子の下からめずらしい黒髪が揺れた。全身の血が沸騰しているような感覚、こんなことが前にもあった気がする。それはいつ?いつのことだったか、あれは、確か6年前の、ゼロと対面したあのとき。目の前がぐらぐらと揺れるが、スザクはぶつかった男性から目が離せないでいた。なぜなら、目の前の男性はあまりにもルルーシュに似ていたからだった。男性にしては長めの黒髪、細い体、白い肌。その姿にもう一人の自分が違和感を感じたが気にしていられなかった。ルルーシュ、と声を出そうにも全身を襲う電流のような痺れがそれを遮る。ぶつかった男性もまた、苦しそうに呻いていた。座り込んでしまいそうなのをなんとか耐え、目の前のルルーシュに似た男性を見る。ルルーシュ似た男性を支えていたサングラスの男は、兄さん!と叫んで倒れそうになる彼の身体を抱きしめる。

(兄さん・・・だって・・・!?)

スザクはサングラスの男を見た。そして、見覚えのあるその顔に想起した。薄いブラウンのウェーブがかった髪、サングラスの奥に見える紫の目、成長しているもののその男はロロに似ていた。ルルーシュに似た男とロロに似た男。これは偶然なのだろうか?そう思った直後、物凄い勢いでフラッシュバックが起きた。蘇る記憶、一体だれの記憶だろう。庭園が見える、政庁にある庭園に似たそこ。いや違う、政庁の庭園に似ているのではない。政庁の庭園がここに似ているのだ。幼い兄妹、ナナリー、ルルーシュ、黒髪の女性。血に濡れた2人が倒れてる、それを見ている自分。自分じゃない、見てるのは誰だ。皇帝がいる。冷たい目の皇帝が何かを言っている。はっきりと捉えられるのはここまでだった。あとは意識が白くなるほどの記憶が流れるだけ。周りが真っ白になり、自分と倒れる彼だけになる。ルルーシュに似た彼がゆっくり顔を上げる。上げられたその顔の両目には包帯が巻かれていた。刹那、周りの景色が戻る。無音だった世界が消え、町のざわめきが耳に聞こえてきた。


「・・・あ、・・・君、は・・・!」


ぐったりとするルルーシュに似た男性。スザクは震えた声で男性を見つめると、唖然としていたロロに似た男性がルルーシュに似た男性を抱き抱え走り出した。落ちた帽子も拾わずにその場から逃げだした2人を、咄嗟にスザクは追いかけた。「似た」2人ではない、あれはルルーシュとロロ本人だ。あの反応を見て他人とは思えなかった。何事かと振り向く通行人たちを避け、ルルーシュ達を追いかける。

「待て!」

振りかえらないロロ、距離がだんだんと近づくとロロは店と店の間の小道に入った。スザクも追いかけてその小道に入る。入り組んだその小道を見失わないようにスザクは追った。迷路のようにいくつも道を曲がり、暫くすると道が開けゲットー近くの廃工場に着いた。今は使われてない廃工場にロロ達が入ったのを見てスザクはそこでロロ達を見失ってしまった。工場は今は使われてないようで、窓などは木材で止められていた。施錠された入口を壊してロロ達は中に入って行った、出入り口はきっとここだけじゃないだろう。考えるより先にスザクは廃工場へと足を踏み入れた。




歩くたびに床に溜まった水が音を鳴らす。何かを組み立てる工場だったのか、壊れかけた作業台や正体の分からない機械がそのままおいてある。錆びた天井にはところどころ穴が開いており、そこから光が射していた。ゲットーに近い場所と言ってもここは地図上では租界地域に入るはずなのに、辺りに人の住んでいる様子は全くなかった。あちこちにパイプやらボルトやらの部品が転がっている。足もとに気をつけながらスザクは辺りを見回した。ルルーシュ達の姿は見えないが、近くにいるのは間違いない。ドクドクと心臓が鳴り、緊張感に唾を飲む。さっきの姿を思い出すだけで、スザクは言いようのない気持ちが昂るのが分かった。ずっと探していた、5年間、忘れる日など1日もなかった。ぶつかった時にルルーシュから流れ込んできたようなあの衝撃。スザクは前に一度それを経験していた。6年前、ナリタでの攻防戦の時だ。ゼロを追い詰めた自分の前に現れたC.C.、彼女に触れられて起こったあの錯乱。それはまさに先ほどルルーシュと接触した時に起こったそれにとても似ていた。

「スザクさん」

唐突に名前を呼ばれ、スザクは振り返った。そこには先ほどのサングラスの男・・・ロロが立っていた。いつの間に?と思うと同時にロロの右手にナイフが見えた。すぐさま構えるスザクだが、ロロは全く動かない。冷酷な目で睨んでくるロロにスザクは嫌な汗が流れる。抱えていたルルーシュはそばにいない。さっきの状態からルルーシュは動ける様子では無かったので、何処かに置いてきたのだろうか。

「・・・ロロ、なんだね」
「ええ、お久しぶりです。僕は会いたくありませんでしたけど」

無愛想に言葉を吐くロロ。以前の彼とはまるで別人のように成長した身体は、見ただけでも鍛えられた身体だと分かった。年相応に小さかった身長が今はスザクと同じくらいまで伸びている。あどけなさを残していた顔はすっかり大人の顔つきになっていた。間合いを計りながらスザクは問う。

「ルルーシュはどこだ」
「・・・」
「さっきのは、ルルーシュなんだろ!?答えろ!」

スザクの叫んだ声が工場に響き渡る。やっと見つけた彼をまた見失うわけにはいかない。 スザクの剣幕に怯むことなくロロは目を瞑り、煩わしいというように首を振った。

「兄さんを捕まえにきたんですか?あなたはそうやってまた兄さんから色々なものを奪っていく」
「なんだと・・・!」
「もう、いいじゃないですか。行政特区日本も完成したし、ブリタニア人と日本人の差別もなくなった。テロだって起きない。あなたの求めていたものはこれなんでしょう?」
「違う・・・僕は!」
「違う?なにがですか!邪魔なゼロが消えてよかったんじゃないんですか!?」
「そうじゃない!」
「これ以上あなたが兄さんを苦しめるというのなら、僕は・・・」

ロロの瞳が開く。その片目に赤い紋章が見え、スザクはしまったと後退するが既に遅い。瞬きをした時には、ロロは背後からスザクの首筋にナイフをあてていた。ヴィレッタからロロのギアス能力について聞いていたがすっかり忘れていた。突きつけられたナイフの先端が肌をチクリと刺す。針で刺したような小さな傷口から血がぷっくりと出てくる。ナイフを持つロロの手に迷いはない、彼は本気だ。下手に動くとロロを刺激しかねない、かと言ってここで引くわけにもいかない。

(ルルーシュ・・・ルルーシュ・・・!)

絶体絶命の状況だというのに、頭に浮かぶのはルルーシュのことばかりだ。彼に会いたい、彼と話したい、彼に触れたい。フラッシュバックした記憶は、早すぎて見えなかったがその中に自分が映っていた気がする。きっとあの記憶はルルーシュのものだ、ルルーシュの記憶が流れ込んできたのだ。C.C.の時のように記憶を掻き回されるだけのような不快感のあるものではなく、心を包む太陽のような温かさがあった。ルルーシュの全てが自分の体を通り抜けたような感じだった。そしてその一瞬、彼の心の想いが見えたのだ。膨大な量の想いは一つ一つを認識する前に消えてしまったが、それでもあることだけは分かった。それはルルーシュの心に突き刺さる謝罪と後悔の念、誰かに対してではなく「全て」に対しての謝罪の気持ちだった。はっきりとしたことは分からなかったが、それでもスザクはようやく理解した。ルルーシュは、ゼロは自分の罪を今もなお背負って償っている、と。理屈でも理論でもない、ただ漠然と感じたそれ。もしそれが真実ならば、自分は今までとても大きな勘違いをしていたのではないかと恐ろしくなった。確認しなければいけない、ルルーシュに。真実を知ると決めたから、だから自分は追いかけてきた。ナナリーのためにも自分はルルーシュと会わなくてはいけないのに・・・。無情にも、ロロはナイフの刃を滑らせるように横たえる。この状況を打破できる力は今のスザクにはない。だんだんと力が込められるナイフに、これまでかとスザクが思ったその時。少し離れた所にあった扉が大きな音をたてて開かれた。


「ロロ!やめろ!」


扉の向こうにはルルーシュが立っていた。壁に手をつき、懇願するような言葉がロロの動きを止める。ルルーシュの両目に巻かれた包帯で顔全体は見えないが、それでも辛いという表情が伝わってくる。目が塞がれて見えないというのに、ルルーシュはこちらへ来ようと必死に足を動かしていた。

「兄さん!まだ動いちゃ・・・!」
「ロロ・・・っ!やめてくれ!もう殺すな!これ以上・・・もう・・・あっ!」

何かに躓いてルルーシュが倒れる。転んだ拍子にルルーシュの手が作業台の上にあった工具箱にぶつかり、工具箱が床に落ちる。ガシャンと大きな音を鳴らし散らばった工具に目の見えないルルーシュはビクリと身体を揺らした。首筋にあてられていたナイフが取り除かれ、ロロが慌ててルルーシュ駆け寄る。首に突きつけられていた圧迫感が消えたことにスザクはホッとし、自分もルルーシュに駆け寄った。スザクが行くとロロがルルーシュを抱き起している最中で、近づいてきたスザクにロロは威嚇するように来るな!と怒鳴った。言われたとおり足を止めるスザクに注意しながらロロはルルーシュの転んだ時についた服の汚れを払う。

「兄さん、大丈夫?ごめんね、僕、約束したのに・・・」
「ロロ・・・スザクが、いるんだな?」
「・・・うん」

ロロがスザクを一瞥すると気配を読み取ったルルーシュがスザクのほうへと顔を向ける。そこでスザクは最初に感じた違和感にやっと気づいた。成長、していないのだ。昼間にリヴァルやシャーリーを見たばかりだから余計に違和感を感じる。ルルーシュの姿は5年前の姿のままだった。成長期を過ぎたからと言っても年相応の老けは出てくるはずだ。それなのに目の前のルルーシュは背丈から顔つき、肌の色、体型、すべてが5年前のままだ。スザクも変わってないと言われることが多いが、それでも18歳の時よりかは身長は伸びたし軍人として鍛えるぶん体型も僅かながら変わる。だがルルーシュの姿は5年という時間の流れを感じさせなかった。どういうことだと奇妙に思っているとロロが近くにあった椅子を持ってきてそれにルルーシュを座らせた。息が上がっているルルーシュは苦しそうにしてロロに身体を預けていたが、暫くするとそれも治まりゆっくりロロから離れた。沈黙が流れる、寄り添うようにしてルルーシュの隣に立つロロと対面するスザク。徐にルルーシュが眼の包帯へと手を伸ばした。留めてあるピンを外そうとする手をロロが制止する。

「いけない兄さん、まだ危ないよ」
「まだ鎮まってないが大丈夫だ、それに、スザクには効かない」

ルルーシュが自嘲するように笑う。何が危ないのだろうかと思うスザクをよそに、ロロは仕方ないというようにルルーシュの包帯のピンを外した。するすると包帯が外れていき、隠されていた顔が現れる。目を瞑った状態のルルーシュの顔が晒され、包帯が全て外れるとルルーシュがゆっくり目を開いた。徐々に開けられる瞳に、スザクは息を飲んだ。最初に見えたのは、禍禍しい血のような赤だった。以前のアメジストのような目が"両目とも"真っ赤に染まっている。ノイズ混じりの赤が奇妙に蠢く、かと思えばぶれる様に瞳の色が揺れ紫に変わる。不定間隔をあけて赤になったり紫になったり、ぐるぐると色が変わる。普通ではありえないことにスザクは息をするのも忘れた。色が変わると痛いのか、色の変化時にルルーシュは米神を押さてえる。ずっと目を閉じていたせいで僅かな光でも眩しいらしい。ルルーシュが光になれるよう何度か瞬きをしているうちに色はいつのまにか紫に戻っていた。

(なんだ今のは・・・?)

見たか?、と確認でもするようにルルーシュがスザクを見る。どう反応すればいいか分からずスザクはただ素直に顔を縦に振ることしかできなかった。成長していない身体、目の色の変化、今のルルーシュはまるで人間ではないようだ。まさかルルーシュに似て作られたサイボーグか何かなんじゃないかと的外れなことを考えてみるが、ただの現実逃避にしかならない。スザクの姿を目に焼き付ける様に見つめるルルーシュ。ルルーシュにとっては今久しぶりにスザクの姿を見たからだろう、成長したスザクの身体を興味深そうに見る。昔はルルーシュのほうが身長が高く少し悔しい思いをしていたスザクだったが、今ではもう完全にスザクのほうが身長が高い。ルルーシュが成長していないのだから当たり前なのだが。

「ロロ、スザクと二人きりにしてくれないか」
「っでも!」
「少しだけだ、少しだけだから・・・だから・・・」
「・・・っ・・・分かったよ」

ルルーシュには逆らえないのかロロが渋々了解する。そのまま何処かへ行くのかと思ったがロロはスザクの前までくると手を差し出した。

「武器は?」
「持ってない」
「携帯は持ってるでしょう」
「誰かに連絡を取るつもりはない」
「念のためです。いいですか、兄さんを傷つけるようなことをしたらあなたのその首が跳ね跳びますからね」

最後の恐ろしい言葉はスザクにだけしか聞こえないように言った。ヴィレッタの言葉を思い出し、確かに異常だなと思いながらスザクは荷物の入った鞄をロロへ渡した。 これだけかと尋ねる目でロロがスザクを見て、なんなら上着も脱ごうかとスザクがジェスチャーするとロロは冷たくそれを無視する。外で待ってるねとロロは言い、心配そうな顔で何度も振り返りながら出て行った。ロロの後姿を最後まで見ていたルルーシュがスザクのほうへと顔を向けた。ロロもいなくなり、ここにはルルーシュとスザクの二人きりになった。



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